〜グレー色の空の下〜 全16P

「よぉ、意外と早かったな?」

「買い物を任されなければ、もっと早かったはずだけどね?それよりも……こんな所で何をやってるのさ……?」




しっかりと右手にグローブをはめ、硬球を握っている吾郎の姿を見てムッとしたような表情で答えた人物。その声を聞き、姿も確認することが出来た大河が驚き声を上げる。




「さ、佐藤先輩っ……!?」

「やあ、大河。プライベートで会うのは久しぶりだね。足の具合はどう?」




玄関前へと辿り着いた大河の驚き顔を見て、そう言った寿也。

その寿也へと、ニッと笑った吾郎の声がかかる。




「雨のせいで外が使えねぇから、ここでキャッチボールしてたんだよ。寿も一緒にやんねぇか?」

「ああ……確かに外は雨降りだもんね……。けどね、吾郎くん?キャッチボールは廊下でやるものじゃないから、もうお終いだよ」




メッ!といった目付きで吾郎を睨んだ寿也。それを見て、眉をひそめた吾郎からの声が返される。




「…んだよ……付き合い悪りぃな、寿?」

「付き合える場所と、そうでない場所があるよ。ここで、もし……」

「あ、あの佐藤先輩……!茂野先輩は俺のことを考えて、相手してくれてただけなんスよ……!」




2人の会話に割り込むように響いた大河からの声で、寿也だけでなく吾郎もその顔へと視線を向ける。

誰が見ても、真剣に伝えようとしていることがよくわかる大河の表情。その顔つきのままでの、言葉が続けられた。




「茂野先輩は『野球』がやりたくてしょうがない俺を、キャッチボールに誘ってくれただけなんスよ。そりゃ……ここでやるってのには驚きましたけど、それでも断らなかったのは俺っスから」




まるで吾郎のことを庇うように、声だけでなくその体も吾郎の前面へと立ちながら語られた言葉を聞き、寿也がクスッと笑う。




「うん……理由は、きっとそんなところだろうとは思ってたけどね?でも、大河……それに吾郎くんも。こんな狭い場所で硬球での投球がそれたりしたら、それこそ避けきれずに余計なケガをするかもしれないし、家だって壊しかねないだろ?僕達はプロだよ?自分の体のことは、注意し過ぎる位でいなきゃいけないのに、これじゃダメじゃないか」

「は、はい……そうっスよね………」

「…ったく……ほんっと、寿は真面目すぎんだよ!このまんまだとなぁ〜将来ガッチガチの面白くもねぇ練習メニューばっか組んで、選手達に嫌がられるタイプの打撃コーチになっちまうぜ?」

「そうかもしれないね?で……吾郎くんがピッチングコーチになったチームは、間違いなく選手達の殆どが故障しちゃうんだろうね?」

「う……うっせぇ〜な!俺は一生現役でいるつもりだから、コーチなんかやらねぇよっ!」




とは強く言い切りながらも、未だに玄関下に立ったままでいる寿也を余裕の無い表情で見下ろしている吾郎。それに対し、寿也の方には余裕たっぷりの笑顔が浮かんでいる。

海堂時代から見慣れた、このツーショット……。今もあの頃から少しも変わることなく、尊敬すべき大先輩である2人に向かい大河が苦笑混じりに話しかけた。




「何も、玄関先で話してなくてもいいんじゃないスかねぇ……?そろそろリビングにでも行きませんか?」




その大河からの声掛けで、ようやく靴を脱ぎ始める寿也であった………。

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