〜グレー色の空の下〜 全16P
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パシイインンッ………!!
グローブにボールが収まる捕球音が響く……と、その直後、大河からの叫び声が上げられた。
「ちょっと、先輩っ……!!球速上げすぎだって言ってんじゃないスか!?」
「んだよ!これっ位のを投げてやんなきゃ、お前もつまんねぇだろ?」
「つまんねぇとかの問題じゃないっスよ!?大体!!硬球使って家の中でキャッチボールしてるだけでも、ヤバイってのに……!!」
「俺らプロなんだぜ?滅多にミスったりもしねぇんだから、大丈夫だっての……!」
「プロだろうと、100%のノーミスなんて無いでしょうが!?いくらなんでも、もう少し控えめのスピードで頼んますよ!!」
文句は言いながらも、ボールを投げ返す事は止めない大河。投げられたボールを左手につかみながらの吾郎に、笑顔が浮かぶ。
「ほ〜んと……お前も相当な『野球バカ』だよな?」
「…先輩にだけは、言われたかないっスよ……!」
少しだけだが、照れが混じったようになった大河の顔。それを見た吾郎には、さらに嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
「大河!プロ入り3年目のお前のシーズンは、まだ終わってないぜ?オフになる頃にはグラウンドで笑ってられるように、じっくり治してから復帰すんだぞ?」
プロ入り3年目……。
2年目まではファーム(2軍)で過ごした大河が、初めて1軍レギュラーの座を勝ち取った記念すべき今年。
吾郎の言う通り、今はまだシーズン真っ最中なのだ。自分の力をチームで役立てる為に、しっかりと治す事だけを考えなければいけない。その為には、しょげてばかりなどはいられないのだ……。
心の中では素直にそう思えた大河であったが、吾郎に対してはこんな言葉を返してしまう。
「去年のクライマックス……あそこで無理無理復帰した先輩に、じっくり治せとか言われても説得力ゼロなんスけどねぇ……?」
「あ、あれは、無理無理なんかじゃねぇっての……!?ちゃんと監督許可貰って出てたんだかんな!」
「その許可を貰うまでの細かいいきさつも、しっかり姉貴から聞いてますんで……。あんなのは、間違いなく無理無理っスよ?」
「し、清水〜〜、あいつ、また余計なことまで話しやがって……!」
そんな話をしながらも、ずっと続いていた廊下でのキャッチボール。それが吾郎の捕球で一度止まった。
その理由は、2人のすぐ傍にある玄関のドアホンが鳴った為であった。
(…ったく……またかよ………?)
玄関から見て、廊下の最奥に立っていた大河の内心の声。
応答する為にリビング内に戻らなければならないことへの面倒さと、再三に渡りキャッチボールの邪魔をされた気分により、表情は機嫌のよくないものへと変わる。
だが……さすがにこのキャッチボールは、対人なり対物なりの事故が起きる前に、この辺でやめておくべきかも……と思いながら移動しようとした大河に、有り得ない言葉が聞こえてきた。
「鍵なら開いてんぜ〜!いいから入って来いよぉ〜」
「ちょっ……ちょっと先輩っ!何を勝手にっ……って……しかも、さっき鍵閉めてくんなかったってことスかっ!?」
カチャンッ……
叫ぶように出された大河の声が終わらぬうちに、ゆっくりと開き始めてしまった玄関ドア。
そして、真っ先に開けた人物の確認が出来る位置に立っていた吾郎からは、さらに声がかけられる。
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