〜グレー色の空の下〜 全16P
「ほらよ、大河!これ買ってきてやったぜ?」
その声に大河が振り向くと、肩にかけているバックから取り出したのか?手には提げていなかったはずの小さいコンビニ袋が、吾郎によって放り投げられる。
飛んでくる、白い袋……。そのフワッとした軌跡を見れば、中身がさほど重い物では無いことがすぐにわかった。
これが白球なら……。そう思いながらの大河の左手はグローブを開くような動作となり、袋は見事にキャッチされる。
「ナイスキャッチ……!さっすが、フェニックスのショート!こんなのは、間違っても落とさねぇよな?」
ニヤッと笑い、そう言った吾郎。それを見て、つい先ほどの大河の悩みは即座に解決し、冷蔵庫の中から取り出されたコーラ缶が吾郎めがけて投げられた。
かなりの速さで空を飛ぶこととなった赤い缶。それを慌てて両手でキャッチした吾郎からは、大きな焦り声が上げられる。
「おわっ……!?ととっ……って……な、何すんだよ、大河っ……!?危ねぇじゃんかよっ!?」
「ナ〜イスキャッチ……!さっすがは、オーシャンズのエース!先輩は、ピッチャーライナー捕るのも得意ですもんね〜?」
先程の吾郎のセリフを少々大袈裟な語り口調に変え、ニヤッと笑い返した大河。その小生意気な言動に、吾郎は本日既に何度目かのジト目へと変わった……。
(…こいつとこうなり始めるとキリがねぇ……。これを続けたところで、いっつも俺が疲れるだけなんだよぁ……)
そう考えた吾郎は表情を切り替え、通常の笑顔を大河に向ける。
「それ、開けてみろよ?お前の好きなもん買ってきてやったんだぜ?」
「え……?て、事は……これって俺への誕プレっスか?」
誰がどう見てもごくごく普通のコンビニ袋。しかも印刷されている店名は、近所のよく行くあのコンビニのもの………。
あげくには、開けてみるも何も中身は薄く透けて見えているような状態だ。それでも……と、大河は袋の中身を取り出した。
「…ポッキー………?」
「おう。海堂の頃、お前そればっか食ってたもんな?よっぽど好きなんだろな〜と、思ってたんだぜ?」
超ロングセラーヒット商品である、この赤い箱のチョコレート菓子。確かに、海堂時代に一時はまってよく食べていた物だ。
と、言っても、寮内に菓子の持ち込みが認められていたわけではなく、休み明けや外出先から寮へと戻る時に必ずバッグに何箱か忍びこませておいた思い出が蘇る。
甘い物はさほど食べない自分だが、この商品の甘さのバランスが当時はかなり気に入っていたのだった。
(…大事な事はよく忘れちまうくせに……こんな事は覚えてんのか………)
赤い箱を見つめながら、思わず瞳を細めて嬉しそうに笑った大河。それを見て、吾郎には得意気な笑顔が浮かんだ。
「へへ〜やっぱそれ好きなんだろ?一緒に食おうぜ?」
その言葉で、上がった大河の顔。そしてその先にあった、調子に乗り始めているような吾郎の笑顔を見て、すかさず反論の言葉が返される。
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