〜少し早めのバレンタイン〜 全4P

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チョコレートを冷蔵庫から取り出す時間となり、見た目ではちゃんと固まっているように見えるチョコをハート型から外す作業をする事にした薫……。外周をボウルに入れたお湯で少しだけ暖めた型を、緊張した表情の薫が皿の上で逆さまにした。



すると……ゆっくりと白い皿の上に滑り降りたチョコレート。それは、きちんと2色に別れて固まっている、薫のイメージ通りの大きなハート型の「ア○ロチョコレート」であった。




「わ、わあぁぁ〜〜で、出来た〜〜!!」




思わずの大歓声を上げた薫は、その後、吾郎が覗き込む隣りで、既に用意してあったG・O・R・Oの形のミルクチョコを、ハート型のストロベリーチョコの上に飾る。

そして……見事に出来上がったチョコレートを乗せた皿を、まだとても信じられないといった顔つきでいる薫が、そっと両手で持ち上げる……と、その途端……。




「やったな、清水〜!!すっげぇ、美味そぉ〜!!」




薫の肩をがっしりと抱き、無事に完成した事よりも、その美味しそうなチョコレートを見て感動しているように見える吾郎。

だが……視線はチョコレートに釘付けになっている吾郎が持つ不器用な優しさを、抱かれた肩からしっかりと感じている薫は、微笑みを浮かべ、一安心を表す深いため息をつくのだった……。









見事に完成したチョコレートを大事そうに持ち、ダイニングテーブルへと向かった薫。

テーブル上に置いたチョコレートを満足そうに見つめた薫は、すっかりいつも通りとなった明るい笑顔で、まだキッチン内にいる吾郎に向かって問いかける。




「なあ、本田。これ、すぐに食べるだろ?さっきはコーヒーにしたから、今度は紅茶でも淹れようか?」




ご機嫌そのものの薫からの問いかけに、その傍へと歩み寄り始めた吾郎。そして、薫の前に立った吾郎がニッと笑うと、突然、薫の体が宙へと浮いた。

吾郎によって、お姫様抱っこ状態にされた薫。その一瞬の出来事に、驚き声さえ上げられずに目を見開いた薫へと、すぐ目の前の距離となった吾郎からの言葉がかけられる。




「親がいねぇなら、チョコを食うのは後だろ、後……!まずは、急いで清水から食っちまわねぇとな」

「なっ………」




吾郎の言葉で、一気に真っ赤になった薫……そのあまりにも突然で一方的な意見に対し、思い切りジタバタと手足を動かし始める。




「な、何を、いきなり勝手な事を、言ってんのさっ!?うちの親だって、いつ帰ってくるかわかんないんだぞっ……!?」

「そんじゃ、余計に急ぐっきゃねぇな……!なるべく、あっさりとすっからさ」

「そ、そういう事じゃないだろっ……!?あ、あたしは、そんなつもりはなかったんだから、下ろせってばぁ〜〜!!」




急ぐ為に、大きな歩幅で廊下へと向かい始めた吾郎。それにより、ますます赤くなった薫が、手足を動かし続ける上に大騒ぎさえし始める。

この状況では、さすがの吾郎もこのまま2階へ上がる事への危険を感じ、仕方なくその足を階段前で止める……と、すかさず薫からの声が上げられた。




「ほ、ほら、もうここで下ろせってば……!!大体、なんでいつもいきな……り……っ……」




薫を抱きかかえたまま、騒ぎ続けるその唇を塞いだ吾郎……。その突然のキスで、言葉をシャットアウトされた薫であったが、その後、吾郎の唇が離れてからもすぐに声は出せなかった。

その理由は、目の前にある吾郎のどこか切なげに笑った表情……普段、なかなか見せないそんな表情から目が離せなくなってしまった薫の耳に、吾郎からの落ち着いた声が聞こえ始めた。




「……また、しばらく会えなくなるんだぞ……?いいから、観念して抱かせろっての」




その言葉は、薫の胸にキュンとした痛みを覚えさせる……。

もうすぐ、NPBでの新しいシーズンが始まる……それは、薫にとって吾郎が一番輝く姿を見られる事を意味する反面、こうして2人だけで会う事が難しくなる事も意味するのだ……。

それを、寂しい……とは、決して口には出さぬよう、いつも自分に言い聞かせている薫……。今の言葉は、そんな自分のような想いを、吾郎こそも感じてくれているかのように聞こえた……。



すると……途端に、吾郎の首にしっかりと腕を巻きつけた薫……。その顔は、自身の胸元に押し付けられ、吾郎からはちゃんと見る事が出来ない。

だが……体の動きを止め、こうして自分につかまってくれた事を、薫からの承諾ととっていいのだろう……。

そう思えた吾郎は、すっかり静かになってくれた自分の腕の中の大切な女性(ひと)に感じる愛しさで、滅多には無い穏やかな笑みを浮かべるのだった……。



これから先も、決して離す事はできない大切な女性(ひと)を階上へと運ぶ為、両腕にしっかりと力を込めた吾郎が階段を上り始める……。




今日は2人で決めた、2人だけの甘い甘いバレンタインデー………


止まる事なく過ぎゆく時よ………


深く愛し合う2人の為に、どうか少しでもゆっくりと流れたまえ………



end

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あとがき

悠の拙いトップ絵第2弾のSSでございました。
書き始めた当初は、薫ちゃんのチョコ製作ドタバタ喜劇みたいになるつもりだったのですが……書き進めたら、そうはならずに終わりました(^_^;)
この時期(シーズン直前)に決めている2人のバレンタインは、甘くて辛い日なのですよねぇ……。
オフシーズンだけはゆっくり会える2人にとって、ちょっぴり辛いこの時期のお話でございました。

2人だけの甘い甘い時間を過ごした後は、失敗作のチョコの山まで完食したであろう、悠の世界の甘党吾郎です。
それにしても、いつもいきなりすぎの吾郎ばかりを書く私でスミマセン(笑)
ここまでのご閲覧、どうもありがとうございました。

悠 真那より


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