〜少し早めのバレンタイン〜 全4P

〜少し早めのバレンタイン〜





「もうぅ〜〜やだっ……!!なんで、こうなるわけぇ〜〜!?」




そう叫ぶと、一人キッチンでがくりと肩を落とした薫。

その目の前の作業台には、チョコを溶かす為のテンパリングに失敗した大量のチョコレートの山が出来ているのだった……。



実はまだ1月の今日は、吾郎と薫との間で2人のバレンタインデーと決めていた日曜日。

2月に入ると、すぐにオーシャンズでのキャンプインとなり沖縄に行ってしまう吾郎……。その為、本物のバレンタインデーを吾郎と一緒には過ごせない薫からの提案で、2人で決めた少し早めのバレンタインデーが今日なのであった。

そして今年は、つい……吾郎にどんなチョコレートが欲しいかを聞いてしまった薫は、そのリクエストに答える為に前日からずっと思考錯誤をしながらの失敗を繰り返していたのだ。




『すっげぇ〜デカさの、ア○ロチョコが食いたいっ……!!』




超甘党吾郎からのリクエストは、ストロベリーチョコとミルクチョコの2段重ねのビッグサイズチョコレート。

お店ではまず売っていないそのリクエストを聞いた時、薫はすかさず答えてしまった。




『なぁ〜んだ……!それって、要はチョコ溶かして固めるだけじゃん?だったら簡単に作れそうだから、あたしが作ってやるよ』




だが……そんな薫の軽率な予想は、それまで練習など全く無しに作り始めた昨日のうちに、すっかり打ち砕かれたのだった……。



そんな昨日はというと………

チョコ製作にとりかかった午後から、作業中のキッチンと足りなくなった材料の買い足しの為の店舗との往復を、何度も何度も繰り返し、あっと言う間に深夜を迎えた薫。

その後もチョコは完成しないまま、日曜の午前中である今となっているのだ。




「はああぁ……材料は大量に買ってきちゃったから、まだあるけど……こんなんで、ちゃんと出来るのかなぁ……?もうすぐ、本田も来ちゃいそうだしなぁ……」




今朝も、日曜の早朝からあらゆる叫び声をあげながらキッチンを占領し続ける薫を見ていられず、両親はどこかに外出してしまった。

とは言え、決してこの状況の薫を見捨てて出掛けたわけではなく、昨日から何度となく薫の様子を心配した母親からの指導は受けていたのだ。

それでもテンパリングがどうにも上手くいかず、固まりが残ったり、ブルーム(白っぽいザラザラ感のあるもの)をおこしたりしてしまう……。

あげくには、それを大きな型に入れて2色のチョコを2段で綺麗に固めるのも意外と難しい事なのであった。

以前にも、吾郎に渡す為にチョコを作った事はある。その時もテンパリングに苦労はしたが、今までの小さな型で作るチョコなら、これほど酷い粗は感じなかったのだ……。




「欲かいて、こんな大きなハート型も用意したのに……ちゃんと作れなきゃ意味ないじゃん……」




確かに安易に考えすぎたのかもしれない……だが、それでも基本は溶かして固めるだけのはずなのだ。と、なると、自分の技術力のなさが全ての原因としか思えず、心底情けなくなってきた薫は今にも涙が出てきそうな気分に陥る。

すると、そこへ………。



ピ〜ンポォ〜〜ンン……



と……無情にも、吾郎の到着を告げるインターホンの音が鳴り響くのだった……。


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