〜トラ年の初詣〜 全4P
「え……もしかして、ちょっと濃すぎかな……?寝不足の顔があんまり最悪だったから、ついしてきちゃったんだけどさ……もうちょっと、薄めに直そうか?」
「濃いとか薄いとかの問題じゃねぇよ……!そんなもんしなくても、ありのまんまの清水でいいだろが」
ムスッとした表情で、ストレートな言葉を投げかけてくる吾郎……。こんな吾郎の無意識な言葉は、薫の胸の鼓動を早くしてしまう事が多いのだ。
(…あ、ありのまんまでいいって……なんか……すっごく嬉しいかも……)
どうにも胸のドキドキが止まらなくなった薫……。赤くなり始めた頬を吾郎に見つからないその為に、意味もなくキョロキョロとしてみた瞳に一軒の店先の様子が映った。
少し先にある店舗前に並んだ品々を見て、思わず足を止めた薫の声が上がる。
「わ、わあ〜〜見て、本田……!あのお店、トラのグッズでいっぱいだよっ……!!」
「あ?」
その声の後、店の前に溢れている鮮やかな黄色の商品の山へと向かった2人。細かい物から大きな物まで、その品揃えはかなりのものだ。
「今年はトラ年だからか……に、しても、ここまでトラばっか揃ってると妙な世界だな」
ありとあらゆるトラグッズを前に、少々呆れ顔を浮べた吾郎。そんな吾郎へと、薫の明るい声が響く。
「見て見て、本田……!これ、最高じゃん〜!」
振り向いた吾郎に、トラの足の形をした手袋を両手につけはしゃいでいる薫の姿が見える。
だが……どう見ても実用性には全く欠けるとしか思えないその大きさとデザインに、吾郎は益々の呆れ顔へと変わった。
「はぁ……?それのどこがいいってんだよ??まるで、グローブじゃねぇか」
「シャレだよシャレ……!フワフワで気持ちいいし、本当にグローブみたいだな……?あたし、これ買ってこようっと……!」
自分の手から外したトラの手袋を抱き締め、店の奥のレジへと向かった薫。それを見て、驚き顔になった吾郎が、つい大声で口走る。
「お、おいっ……!!本気かよ、清水……!?そんなもんに、元旦から金使うなって……!!」
その吾郎の言葉に焦った薫は、大慌てで振り向きながら人差し指を口元に立て、シ〜ッのポーズをして見せた。
そのジェスチャーに、さすがに店先で言っていい事ではなかったと気付き目を丸くした吾郎……。
その後……店員からの注目も浴び、バツが悪くなった吾郎が顔を伏せると、棚にぶら下がっている1つの商品が目に入る。
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