〜グレー色の空の下〜 全16P

「なあ、本田……」

「あ……?」

「会いたかった、よ……」

「ああ………」

「本田も、会いたいと思ってた?」

「あ、ああ……まぁな」

「ほんとに?」

「ほんと」

「ほんとのほんとに?」

「んだよ、そりゃ?ほんとだってぇの」

「なら、ちゃんと言ってよ」

「な、何をだよ……?」

「あたしに会いたかったって……」

「あ……のなぁ……さっきから、そうだって言ってんだろ……?」

「ちゃんとした言葉では言ってないじゃん?だから、さ……あたしにすっごく会いたかったって……言って?」

「いっ?…や……それは、だなぁ……って……だあぁ〜〜!!もう、いい加減にしろっての!?」




自らの両腕に、ギュウウウウっと力を込めた吾郎。

今の会話の間……自分と同じく照れているはずの薫は、その証拠に決して目線を合わせようとはしなかった。

そんな薫は、自分が口下手なことをよく知ってくれている。だから、こんな風に言葉を求められることなどなかなか無いことなのだ。

そう……だから、これは……それこそ甘え下手な薫が自分に甘えてくれているのだと思う。けれどやはり……こうした言葉を口にするのは、どうにも苦手で仕方ない……。



照れ臭さが頂点に達し、これ以上のリクエストが薫からこない為に入れた腕の力。

それにより、急に頭を押さえられ大きな胸の中に強く押し付けられる形となった薫が、呼吸をするスペースを確保する為にジタバタと動き出す。




「ちょっ…ちょっと……!く、苦しいっ……ってば……本田……!!」




自分の腕の中で、どうすることも出来ずにもがいている薫の姿。その様子を見て笑い、腕の力を徐々に抜きながらの吾郎が呟いた。





「…幻が見えちまう位なんだぜ……?すっごく、なんてもんじゃなかったんだろな………?」

「…え………?」




こもった声で語られた言葉がうまく聞き取れず、吾郎の胸にうずめられていた顔を上げた薫。

近くなったお互いの顔。その後、薫の背中に回されていた吾郎の手が、柔らかい両頬を包み込んだ。

その行動により自分の両手の中で頬が染まり始めた薫が、吾郎には愛おしくてたまらなく感じる。




「なんでもねぇよ……。いいから、充電させろ………」




そう語りながら近付き、薫へと重ねた唇。

その後……少しも離れることなく続けられる口づけを受け入れながら、薫の腕はゆっくりと吾郎の首へとまわされる。

お互いの、離し(れ)たくない……の気持ちそのものが強く現われている抱擁は、時間が許す限り止まることはなかった………。

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