〜グレー色の空の下〜 全16P

「おまたせ〜ご飯できたよぉ〜!」




薫からの元気な掛け声と一緒に、ダイニングテーブルに運ばれ始めた大盛りのサラダと2種類の焼きそば。

シーフード入りの塩味と、豚肉と野菜がいっぱいの定番ソース味の焼きそばからは、とてもいい香りが漂っている。

かなりの短時間で作るしかなかったメニューのはずだが、この他に炊き立てのご飯と野菜スープまでもがちゃんと用意されていた。




「お、すげぇ美味そうじゃん清水!あっという間に、よくこんだけ作ったなぁ?」

「2人は焼きそばだけじゃ足んないと思うから、ご飯食べろよな〜?あと、おかずは作れなかったけど、スープはここにあるからさ!」




テーブル上の料理を見て、感激の声を上げた吾郎。それに返すように、キッチン内でスープの仕上げをしながら声をかけた薫の元へと、吾郎が歩み始めた。



自分の隣りに立ち、鍋を覗きながら話しかけてくる吾郎を見つめ、笑っている薫。

吾郎からの味見の要求を受け、小皿へと入れたスープを渡しながら、こだわってみた隠し味に気づくかどうかの感想を催促し始めている。

それに対し「なんかわかんねえけど美味い」とだけ答えた吾郎へと「なにそれ?」と不満気に言いながらも、その顔には幸せそうな笑顔がしっかりと浮かんでいた。


そんな2人の光景を、リビングから眺めていた大河が想う………。





(…やっぱ……先輩といる時が一番いい表情(かお)してるよな……)




いつか……いや、たぶん近い未来にこの家から出て行くだろう姉を想って、妙に弟としての感傷的な気持ちとなってしまった大河。

久しぶりに戻ってきた実家で、薫に元気が欠けていることはすぐに気付けた。

それでも2週間近く経った今までの間に、薫に対して何も出来なかった自分とは違い、やはり吾郎はほんの僅かな時間であの笑顔にさせることが出来るのだ。

この違いはどうしようもない……。そんなことはよくわかっている………。




(…バッカじゃねぇの、俺……?先輩と自分を比べてどうすんだよ……?)




自分に対して呆れた苦笑を浮かべた大河。そんな大河へとキッチンから薫の声がかけられた。




「なあ〜大河も飲み物は麦茶でいいのか〜?」

「へ……?あ、ああ、いいよ」

「オッケ〜!じゃあ、大河のコップも持ってくるからさ?本田はこれかき混ぜてて?」

「は、はあ〜?俺がかよ!?」

「そん位はできんだろ?力入れ過ぎて、こぼすなよな?」




そう言って吾郎をキッチンに残し、大河へと向かってくる薫。コップを取りに行くならこっちじゃないぞ?と思いながらの大河の目が丸くなる。

そして……ダイニングテーブルの横で立ったままでいた、大河のすぐ傍に着いた薫は、その耳元へと近付きながらの小声をかけた。




「実はさ……?大河と一緒に食べようと思って、ケーキ買って来てあるんだよね。2個しかないから、本田には内緒にしとくんだぞ?」

「え……?」




ここまで言って自分から離れた薫には、いつもの元気いっぱいの笑顔が浮かんでいる。




「だいぶ前に買った時に、珍しく大河が気に入ってたのにしたからさ?ご飯はその分を考えて食べとけよな?」




そこまでを小さ目の声で伝えた薫が、食器棚へと向い始めた。

その後コップを手にした薫が吾郎の元へと戻ってゆくまでの間を、丸い目のまま見届けてしまっていた大河。

そんな自分に気付くと、大河はその顔をゆっくりと下げフッと笑う……。




今年の俺の誕生日……なんか、すげぇや………。




療養中に迎えてしまった、今日の記念日。

ずっと尊敬し続けている先輩達が訪れ、姉は仕事を残して帰って来てくれた………。

大切な人達からもらえた言葉や宝物……そして………。

自分の好物までを覚えていてもらえていたことが、どうにも嬉しかったのだ。


それは……自分がそう想っているように、自分こそも大切に想ってもらえてるからだと……そう信じたい………。

誰かを大切だと想え……そして同じように想ってもらえることの幸せ………。




グレー色の空の下……それを気付かせてくれた、今年の自分の誕生日……。




「「「いっただっきま〜す!!」」」」




3人で囲んだ食卓……そこには大河自らの手で用意した、氷入りのグラスに差した冷たいポッキーも置かれている。


温かく美味しい食事と楽しい会話……。大河の幸せな誕生日が、もうしばらく続くのだった………。





そして、その後の週末には………。




息子の貴重な帰宅中の誕生日当日に、不在であったことを気にやむ両親からの盛大な誕生祝いを受けることとなった大河。

それは薫も早めに帰宅できる土曜が選ばれ、久しぶりに家族4人での誕生パーティーが開催された。




その日の空も、あいにくのグレー色。




けれど……自室から見上げた空を見て「こんな空もいい」と思えるようになった自分を笑ってしまう大河なのであった………。



end


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*********************

あとがき

まずはお詫びから(苦笑)

それは大河の誕生日。原作では発表されないまま終わってしまい、非常に残念でございました。

彼の誕生日には、皆様それぞれにイメージ月があると思います。

作品内で何月何日……とは書かなかったものの、月はバレバレの文章でしたよね?(笑)

ミツタク先生のお誕生日が6月と言うことで、どうか皆様にご了承をいただきたい私です。

そして、また余計な伏線も入っていた文章でしたが、そこもどうかお許しを(汗)

SSのつもりで書き始めた文章……当初は吾郎と大河の2人だけの話で終わるつもりだったのですが、なぜかここまで延びました。

やっぱり寿也も……そして何より、ゴロカオが書きたくて(笑)

相変わらずの長めの文章でしたが、ここまでのご閲覧をどうもありがとうございました。

悠 真那より

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