〜グレー色の空の下〜 全16P

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「あ、れ……?なんだ、もう降りてきちゃったんスか?」




吾郎と薫がリビングへ戻るなり、驚き顔でソファーから振り返った大河。ジト目になった吾郎が、近づきながらの文句を返す。




「もう帰る時間になっちまうから、仕方なく降りて来たんだろうが……?時計見てみろよ!」

「…いや、でも……まだ1時間位は平気なんじゃないスか……?」

「あのなあ〜!あたしはこれから、あんた達2人が食べる量を作るんだぞ?下準備もなんにもやってないから、今からだって結構キツイんだからな!」

「へぇ……俺はてっきり、2階にいっちまえば先輩は晩飯抜きで帰る気になるんじゃないかと思ってたんスけどねえ……?飯を食べる時間の方を取ったってことスか?意外だなぁ……」




チロッと自分を横目で見た大河の隣りに、ドカッと座った吾郎。




「…何が意外だってんだよ……?晩飯はちゃんと食わなきゃだろ……!」




そう言いつつ、ギロッと大河を睨んだ吾郎を見て、その背後に立つ薫が苦笑する。




(体の為に、食事はちゃんと摂ってから帰れ!って、あたしがあんなに苦労して止めたのにさぁ……よく言うよ………)




そんな、やれやれな想いは言葉には変えなかった薫。とにかく今は、料理に取り掛かることを考えなければいけない。




「…それじゃあ、あたしは今から作ってくるから2人とも仲良く待ってんだぞ?」




と、言いながらの薫が、ポンッポンッ!と、並んで座っている大の男2人の頭を軽くはたいた。

直後、クルッと体の向きを変えキッチンへと歩いてゆく後ろ姿を、少しの間、揃って眺めてしまっていることに気付いた男2人が顔を合わせ目を丸くする。

その後しばらくは、決して仲が良さそうには思えない会話を続けた2人であったが、最終的には楽しげな『野球』の話へと変わっていったのだった……。



そしてキッチンでは、吾郎の分の食事が増えたことにより、買ってきた2人分の食材を使っていかに全体量を増やすかを思い付いた薫の料理がスタートしていた………。





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昔からあれほど苦手であった料理………。

だが去年発症した、吾郎の血行障害による長い療養中に必死になって努力したおかげで、今はすっかり手慣れたものへと変われていた。

そんな薫が、料理の合間にリビングにいる2人の様子を見ながらの想いを巡らせ始める。




また今年も雨になった大河の誕生日………。

散々それを嫌がってきたあいつには悪いけど、今日の雨にだけは感謝しきれないや……。

雨降りのおかげで、大河の21才の記念日は、あたしにとっても忘れられない日になったから………。


あの本田が、マウンド上であたしのことも想って勝とうとしてくれてるなんて……。

それが聞けたこれからは、どんなに長い時間あいつに会えなくても大丈夫。

本田が『野球』をしている姿さえ観ることが出来れば、きっとあたしは大丈夫。

そう、きっと……またいつか会えるその日まで、笑顔で頑張れる………。




大きめの中華鍋の中で炒められ、だんだんとしんなりしてゆく野菜を見つめながら最高の微笑みを浮かべている薫。

ここ最近……まるでこの時期の空の様子と同じように、今にも雨が降り出しそうになっていた薫の心の中……。

皮肉にも、それは今日の雨のおかげで、現実の天気とは全く違う清々しい青空へと変わっていた。

そんな、すっかり晴れた心のおかげで、いつも以上に手際よく続けられた料理は見事なスピードで完成するのだった……。

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