〜グレー色の空の下〜 全16P
「…今季は、去年の分もやらなきゃなんねぇからな……。それによぉ……清水にも負けねぇようにと思ってやってんだぜ?」
「え……あ、あたしに………?」
「お前、海堂でほんと頑張ってるもんな……?教師の仕事なんてのは俺も初めて詳しく知ったけどよぉ、面倒臭せえと思うようなことばっかじゃん」
「い、いや……それは、本田から見ればそうかもしれないけどさぁ………」
吾郎目線のみでの教職への意見に、思わず苦笑を浮かべた薫。だがそんな様子にも気付くことなく、その後も吾郎からの言葉は続く。
「清水先生やってるお前とは、なかなか会えなくなっちまったからよ……。せめて、俺が勝つとこ位は見せとかねぇとだろ?そしたら、お前だって少しは元気もでんじゃねぇかと思ってさ……?」
鼻の下をこすりながらの言葉……その照れている時に見せる仕草と一緒に語られた言葉は、薫にとって電気ショックを受けたかのように感じるものであった。
呆然としたようになった薫が、上手く出せずになってしまったか細い声で問いかける。
「い、今のそれって……本田が……あたしの為に、勝とうとしてくれてるってこと……?」
薫からのその問いかけに、吾郎の瞳が丸くなる。
自然と口から出てしまった自分の本音……。だが、それがかなり照れ臭い内容であったことに今気付き、吾郎は急激な恥ずかしさに襲われてしまう。
それにより、途端に真っ赤になった顔でのジト目の吾郎からの声が返された。
「そ、そりゃ……!まずは、チームの為に勝たねぇとってのがあっけど、お前のこと、も………つ、つか……!!国語の教師やってるヤツが、聞き返したりすんじゃねぇよ……!俺が言ったまんまを、いっぺんで理解しろっての!」
返された言葉は、薫の問いかけへの答えになっているのかどうか、よくわからない……。
けれど……実ははっきりと見えている、その答え。
大焦りとなっている吾郎の顔に書かれている、自分を想ってくれていることがよくわかる答えを見て、薫には満面の笑みが浮かんだ。
「本田……!」
自ら飛びつくようにして、吾郎の胸元に入り大きな背中に両腕をまわした薫。
突然のその動きに驚きながらも、しっかりと受け止めた吾郎の両腕が、その後ゆっくりと薫の体を包み込む。
「…やっぱり……本物っていいよな……。テレビの中の本田には、触れないから……」
「…ああ……そうだな………」
頭上から、優しく響く吾郎の声……。
電話やテレビからの声ではなく、まさしくこれが……本物………。
「…本田……これからもどんなに忙しくて録画になっちゃっても、本田が投げる姿は必ず観るからさ……。絶対に、勝てよな……?」
「絶対に、かよ……?それって、プレッシャーかけすぎなんじゃねぇか?」
「プレッシャーなんて、本田が感じるのかよ?」
「あ……?そういや、あんま感じたことねぇな?」
「だろ?」
お互いの体を抱き締め合いながら、笑い出した2人。口には出さずとも、ずっとこんな時間が恋しかった……。
「…なんで……今日ここに来るって教えてくんなかったんだよ?」
「…昨日のお前との電話の後で、いきなり決めちまったことだったしな……。いつものお前の帰宅時間じゃどうせ会えねぇから、言ったって仕方ねぇと思ったんだよ」
吾郎の語った、ごもっともな言葉……。でも、もしこのことを聞いていたら……と考えた薫に、学校内で一日中落ち着かなくなる自分が容易に想像できた。
もしかしたら……そんな自分のことも考えてくれたのかも……と想えた薫が、微笑みながら吾郎へと深く寄りかかる。
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