〜グレー色の空の下〜 全16P

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「あっと……またいつの間にか時間も過ぎちゃってるし、本当にこれで僕は帰ることにするね?」




2人に向かってかけられた言葉。確かに寿也の言う通り、先ほど帰る話が出てから、また1時間ほどが経過しようとしていた。

席から立ち上がった寿也を見て、同じように動こうとした吾郎の肩がしっかりと押さえられる。




「吾郎くん……。君はまだ、ここに残らなきゃダメだよ?」




穏やかな口調で微笑みながらそう言った寿也。だが、その眼差しには強く命じるような想いが込められているように見える。

自分と薫とのことを考えてくれていることがよくわかるその瞳を見て、吾郎がフッと笑った。




「わあ〜ってるよ……!ただ、お前のことを見送ろうとしただけだっての」




そう言うと、肩に置かれた寿也の手を、感謝を込めポンッと叩いた吾郎が立ち上がる。と、そこへ……大きな音が響き渡った。




ガチャンンッ………!!




その音とともに、もの凄い勢いで開けられたリビングのドア。それにより、3人は一斉にそちらへと振り向く。

3人共の視線の先となったリビングの入り口で、食材の入った買い物袋を手に提げ立っているその姿は………。




「し……清水………」




思いきり、呆気に取られたような顔でそう言った吾郎に対し、瞳をこぼれんばかりに開いている薫からの声が返された。




「ほ、本田……それに寿くんまで………。な、なんで、ここに………?」

「あ……先輩達は、俺の誕生日だからって来てくれてさ……。てか……姉貴こそ、なんでこんなに早く帰ってこれたんだよ……?」

「あ、それが……この雨でグラウンドでの練習は無理だし、今日は体育館なんかも他の部活と見事に重なっちゃってさ……。急だったんだけど、うちの部は休みにするしかなくなっちゃったんだよ……」




そこまでを話し終えると、リビングドアの側で立ち止まったままでいた薫が吾郎達へと向かって歩き出す。




「部活が無くなっても他にもやることがあったから、少しは残業してたんだ。でも……今日は大河の誕生日なのに、親も法事でいないから早く帰ろうと思って……」




ここで一旦、間を置いた薫。その後、ずっと驚いたままとなっていた表情が、心からの笑顔へと変わってゆく。




「やっぱり、帰って来て良かったぁ……。本田と寿くんに会えるなんて、思ってもいなかったよ」




吾郎と寿也に向かって、にっこりと笑った薫。その本物の笑顔を前にして、吾郎はずっと無言のままになってしまっている。

その横で、薫と同じく表情を微笑みへと変えた寿也の言葉がかけられた。




「お帰り、清水さん。さっき聞いたんだけど、毎日遅くまで頑張ってるみたいだね?」

「あ……た、ただいま、寿くん!あははっ頑張ってるって言うか、まだまだわからないことだらけでてんてこまいしてる感じなんだよね。そのせいで遅くなってるだけかもしれないよ?」

「そうやって、仕事を覚えようとすることが頑張ってるってことでしょ?でも、体には気を付けてね。誰かさんみたいに、無理したりするのは絶対にダメだよ?」




また、こういうところで俺をダシに使いやがって……を表わす横目で、チロッと寿也を睨んだ吾郎。

その様子までを見てから、薫の声が返される。




「うん、無理なんかしてないから大丈夫。あたしなんかより寿くんだって忙しいはずなのに、今日は大河に会いに来てくれて本当にありがとうね」

「僕をここに誘ってくれたのは、吾郎くんなんだよ。そのおかげで大河にも清水さんにも会えたから、感謝しないとだね」




今度は、笑顔の寿也が横目で吾郎を見る。それにより目を丸くした吾郎にも、薫の声がかかった。




「…そっか……。ありがとうな……本田………」




吾郎に向かい微笑んだ薫。その微笑みへと、やっと吾郎の声が返される。




「お疲れさん、清水!ピザは残ってねぇけど、ポッキーとラスクならまだ残ってるかんな?」




今の今まで、感慨深い面持ちで2人の久しぶりの再会を見つめていた大河。

だが吾郎のその言葉を聞いた途端、その瞳は一瞬でジト目へと変わり、寿也の方には苦笑が浮かぶ。




「…ちょっと、茂野先輩……。あのポッキーって、マジに俺にくれたわけじゃないんスか……?」

「…ラスクのことは……まあ、いいけどね……?」

「え、え……?何、ポッキーとラスクって……??」




事情がわかるわけのない薫に、大河から簡単な説明がされ始める。

その結果、薫からまるで子供をたしなめるかのように小言を言われることとなった吾郎を見て、思わず笑い出した寿也と大河には大きな怒声が飛ばされるのだった………。

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