〜グレー色の空の下〜 全16P

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そして………

時間は昼時をかなり過ぎていることに気付いた3人。その後の話し合いで、手軽さと懐かしさから清水家に宅配ピザが届けられた。

あの時とは違い食べる人数が3人だけとは言え、普通の家庭で言えば大勢でのパーティーでもあるのか?と思われる量のピザがダイニングテーブルいっぱいに並ぶ。

いただきま〜す!の掛け声の直後より、驚くほどの勢いでピザを減らしながら、3人は球団での話などに花を咲かせた。

『野球』について語り合えば、止まることの無い3人の会話……。

懐かしい海堂時代の話も交えた楽しい時間があっという間に経過してゆく中で、ふと時計を見た寿也からの声が上がる。




「あれ……?もう、こんな時間なんだ。僕はそろそろ行かないと……」

「はあ……?なんでだよ……?一人暮らしのお前が気にするような時間じゃねぇじゃん?」




ただ今の時刻は午後6時を過ぎたところ。確かに、11時という寮の門限がある吾郎さえ、まだ余裕を感じることの出来る時間だ。




「まあ、そうなんだけどさ?久しぶりに三船まで来たから、実家にもちょっとは寄りたいしね」

「ああ、そっか……。ま、それもそうだよな?んじゃ、俺も寿と一緒に出るかな」

「えっ……茂野先輩も帰るんスか……?」




慌てたようにかけられた大河の言葉、それを聞いた吾郎がニヤッと笑う。




「んだよ、大河……?俺まで帰っちまうと寂しいってのか?」

「…違いますよ……。姉貴と会わないで帰るつもりなのかと思って……。えらく長いこと、会ってないんスよねぇ……?」




呆れたジト目での大河からの言葉で、吾郎の目が一瞬丸くなる。だが、すぐに普通の目つきに戻ってからの答えが返された。




「…しょうがねぇだろ……?あいつも4月からは仕事を始めてんだし、俺は今季クローザーだけを務めなきゃなんねぇから、全試合ベンチ入り確定だしな?全くっつう位、あいつとは時間が合わなくなっちまったからよ……」

「…それなら尚更……大河の言う通りに、今日は清水さんに会ってから帰った方がいいんじゃない?」

「あいつも、新米教師で色々と大変なんだよ。通勤時間もそこそこあっから、毎日帰りも遅いしな?待ってたとしても、俺の門限までには間に合わねぇよ」

「へえ……一応、姉貴の状況はわかってるみたいっスね?」

「あんなあ……一応ってなんだよ……?あいつとは会えてねぇから、前より電話では話してんだぞ?」

「吾郎くん……せっかくここにいるんだから、やっぱり寮の門限ギリギリまで待ってみた方がいいよ。少しでも、清水さんに会えるかもしれないし……」




会えるかも………そう……かも……しれない………。



けどそれは……あくまでも 「かも」 だ………。




だから……今日ここに来ることも清水には話してない……。

「かも」なんて程度での期待を、あいつに持たせたくはなかったから……。

電話で話していても、俺に会いたいとは一度も口に出さないあいつ。出したところで、それが無理だってことがあいつにもよくわかってんだ。



マジに今……あいつは教師として……そして新設ソフト部のコーチとして、毎日すげぇ頑張ってる……。

今は俺のことなんかよりも、自分のことを考えさせてやりてぇ……。



それに……俺だって、血行障害からの復帰後のシーズンだ……。

今季はクローザーとして、前のシーズンの分もチームの為にやんなきゃなんねぇ……。

だから……あいつと会えないのも仕方ないんだ……。



そう思ってる……。

マジにそう思ってるはずなのに……大河の為にここに来た俺に……なぜか見えちまうんだ………。



まるで幻のようなあいつが……あちこちに………。



この家の中には、あいつとの思い出がありすぎっから―――。




今もまた、ふと見たキッチンの奥から自分に向かって笑いかける薫の姿が見えてしまった吾郎。

その笑顔に答えるようなタイミングで、吾郎は自分に対しての呆れた苦笑をし始める。



急に笑い出した吾郎の様子に、揃って目を丸くした寿也と大河。そんな2人へと、それこそ吾郎からの急な質問が投げかけられた。




「つーか……!俺と清水のことは気にしなくていいからよぉ〜少しはお前らの『彼女』の話も聞かせろよな?」

「「…え………?」」




その質問により、揃ってさらに大きく目を見開いた2人。

そして、珍しく上ずったような声での寿也からの質問が大河にされる。




「…え……何……?それって、もう大河と付き合い始めてるってこと……?いつから……」

「そ、そんなわけないじゃないスか……!つか、佐藤先輩こそっ……!いつの間に『彼女』ってことになったんスか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ?僕は、吾郎くんにそんな話をした覚えはないんだけど………」

「…おいおい、なんだよ……。お前らまさか、まだ『彼女』にしてねぇとか言うんじゃねぇだろなぁ?」




最後に続いた吾郎のセリフによって、2人はまたまた揃って先ほど吾郎が言った『彼女』の言葉が勝手な脚色だったことに気付く。


その後しばらくは、2人からの文句攻撃を受けながらも、それぞれの現時点での進行状況をどうにか聞き出すことに成功した吾郎であった………。

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