〜グレー色の空の下〜 全16P
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「はい、これはお土産。ご家族で食べれるように、何種類か選んできたからさ?」
リビングへ入ると、すぐさま寿也から大河へと渡された紙袋。それに対し、大河よりも早く返事をしたのは吾郎であった。
「おお〜さっすがは、寿!!ケーキかなんか買ってきてくれたのかよ?」
「…あのねぇ、吾郎くん……これは清水家へのお土産だよ。それに、こんな薄い形の箱にケーキが入ってるわけないだろ?僕が買ってきたのはラスクなんだ。大河はそんなに甘党じゃないもんね?」
「…え……あ、はい……。ありがとうございます、佐藤先輩……」
受け取った紙袋よりも、寿也が自分の好みをわかってくれていることが嬉しかった大河。
先ほどの吾郎からも感じた嬉しさと重なり、高揚し始めた自分の感情がバレてしまわないように寿也からは上手く視線を逸らす。
そんな大河へと、にっこりと笑った寿也の声が続いた。
「このお店のガーリックラスクは美味しいから、大河も食べてみて?」
「へえ〜ラスクにガーリック味なんてあるのかよ?俺もそれ食ってみてぇな〜」
「そんじゃ……これは茂野先輩が開けてくれて構わないっスよ?どうせ佐藤先輩も、こうなることは予想済みでしょうしね……?俺は飲み物を持ってくるんで」
吾郎に紙袋を渡してからキッチンへ向かおうとする大河、それを見た寿也からの声がかかる。
「あ、待ってよ大河!今のはお土産だけど、今日のメインはこっちだからさ……?はい、吾郎くんと僕からの誕生日プレゼント」
「は……?お、俺に………?」
「吾郎くんから連絡をもらってね?自分はサイズなんかも忘れちゃったから、僕に買って来てほしいって頼まれたんだ」
差し出された別の紙袋を、慎重な手つきで受け取った大河。しっかりと両手でそれをつかんでから、吾郎へと視線を向けた。
大河との目が合うと、その目を一度丸くしてから頬を掻き始めた吾郎が答える。
「前と同じグローブだよ。お前、あれからずっと使ってるみたいだし、いくら手入れしてようがいい加減くたびれてきちまってるだろうと思ってさ?」
「今の大河はメーカーへの特注だって出来るだろうけど、それも練習用位にはなるでしょ?」
吾郎の後に続いた寿也の言葉。大河は驚き顔で、並んでいる2人の顔を交互に見つめた。
練習用……?とんでもない……あのグローブが、入団してからどれほど俺の励みになってくれたかわからない……。
グローブは、目一杯使っちまうと1年もてばいいほうだ。けど、3年目になった今……あのグローブを少しでも長く使いたくて、仕方なく練習用には「特注」を使ってきた……。
これからは……今、使ってんのを練習用にすれば、練習でも試合でも先輩達からのグローブが使える……!
思考が終わると、目に輝きを蓄えた明るい表情へと変わった大河。
紙袋にされていた封を慎重に開け、その手で現在愛用しているグローブと同じデザインの新品を取り出した。
キャメルカラーの内野手用グローブ……補修や手入れをしても、だいぶ痛みが隠せなくなってきていた愛用の物と違って、はっきりと新しい皮の匂いがする……。
ただ……これには………。
あることに気付いた大河が、グローブを手にしたまま無言で移動を始める。
足を引きずりながら向かった先で、ダイニングボードの引き出しから必要な物を取り出した。
その動きを思わず目で追ってしまっていた吾郎と寿也の元に、戻ってきた大河からの声がかけられる。
「…前のと同じように、名前……書いてもらってもいいスか……?」
少し言いづらそうに、俯き加減で伝えられた言葉。それと一緒に差し出されたペンを受け取りながらの寿也が答える。
「今回も刺繍は間に合わなかったしね?僕の字で良ければ、また次も書くよ」
また次も……の、言葉が嬉しくて、頬が紅潮しそうになってしまった大河の前で、吾郎の声が続く。
「ああ〜そんなら、今回は俺が外側に書くことにすんぜ!!キャッチ面は書きづらくてしょうがねぇからさ?」
「あ……じゃあ、誰が見ても読める「綺麗」な字で頼んますね?」
わざとらしく「綺麗」の部分を強調しながら、にっこりと笑った大河の言葉を聞き、なぜか?反論する気にはなれなかった吾郎。
結局は前と同じく、グローブのキャッチ面に「TAIGA」の字を書くこととなった。
そして……吾郎が書き始めたその文字は、前回と同様の出来栄え(リトル時代の字?(大河談))に仕上がりだし、その工程を最後まで覗き込むように見ていた寿也と大河が含み笑いをし始める。
それに対し、書き終わるその瞬間まで吾郎からの文句が返され続けたのだった……。
けれど……吾郎の手からペンと一緒にグローブを渡された大河からは、最高の笑顔での「ありがとうございました……!」の声が返される。
そして寿也からは………。
「誕生日おめでとう大河。次に戦える日を楽しみに待ってるよ」
「ああ〜そか!そういや、俺も言ってなかったよな?誕生日おめでとうな、大河……!今度対決する時までに、それをガンガン使ってさっさと慣らすんだぞ?」
「…ガンガン使っていいのは、きちんと足が治ってからだからね?プロになっても、そういうのが全く守れない悪〜い見本が身近にいるから、大河もよくわかってると思うけどさ?」
「おい、寿……誰が悪い見本だってんだよ……?…って……こらっ!指さすんじゃねぇっての……!?」
自分に向けて、寿也からすかさずさされた指をペシッとはたいた吾郎。それを見て笑いながらの大河から「はい……!」と、とてもいい返事がされる。
大河にとって……宝物と言う別名を持つグローブが2つとなった今日……。
今年も雨となった一年に一度の自分の記念日に、心からの感謝をする大河であった……。
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