政府の無茶ぶりで痛い目をみる
(Twitterお題作品)
明朝、政府より通達があった。
万能狐こんのすけが咥えて来た巻物を開けば、すぐさま電子メールが開く。そこに書かれた一文を見て、わたしは眩暈がするのを感じた。
『近侍に「政府の令により近侍を省き、本丸内の刀を全員刀解する」と伝え、反応を伺え』
「アホでしょ政府アホでしょ…!」
「政府の命令は〜?」
ぜったーい。では成果を楽しみにしていますよ、監視しておりますゆえと残しぽふんと軽快な音とともに消えたこんのすけにゲッソリしながら。わたしはゆるりと布団から起き上がった。とりあえず着替えよう、そうしよう。
(今日の近侍は…山姥切か)
初期刀で誰よりも早くカンストした一振りは、残る刀剣男士の育成のためこれまでずっと後方支援に徹してきた。だが、ここ数日は政府より通達され、新しく開いた次元ゲートの特務に従事し、第一部隊の隊長として奮ってくれている。
(みんながみんな頑張ってくれているこの時期にこんな…年末のダウンダウンじゃないんだから、もう)
だが逆らえない。悲しきかな、それが審神者という職業。中間管理職の辛い役目だ。
少しでも験担ぎをと、審神者の初給料で購入した気に入りの桃色の着物に腕を通した。あーどうか、騒ぎになりませんように。
部屋を出ると、すぐそばに山姥切国広が控えていた。
「おはよう、国ちゃん」
「…ああ、行くか」
襤褸布からのぞく綺麗な翡翠色の瞳が、キラキラと輝いている。雪が溶け、春が訪れた本丸の庭に良くそぐう美しい色だ。先導してくれる彼の後ろに続きながら、わたしの心がマッハでズキズキと軋んで行くのを感じた。わ、わたしはいまからこんな良い子をダマすのか…!政府ゆるさない!
「お おはよう、みんなぁ」
「みわさま!」
「おはようございまーす!」
「おーはよ」
てんやわんやする大広間に顔を出すと、すでに朝食の準備が整えられていた。朝食は近侍の隣でとるルールとなっているので、本日は山姥切国広がいる打刀衆の班にまじった。朝食当番は蜻蛉切と宗三左文字、前田藤四郎、浦島虎徹であったらしい。メインは魚、海鮮中心のお腹に優しい献立だった。
「あ、わすれてた」
「?」
「どうかしたのかい、みわ」
首を傾げる山姥切と蜂須賀に、味噌汁のわかめをすくっていた手を慌てて止めた。
「突然で申し訳ないんだけど、国ちゃん。 朝議を整えてほしいの、」
「朝議を? …また急だな、」
「う、うん …政府からその、伝達が」
「…またアイツ等が口を出してきたのか」
山姥切が苦い顔をするのは、決して苦瓜のせいではない。付き合いが長い分、政府のアレコレ無理な要求が凪いでも降ってないでもふってくることを山姥切は知っている。ごめんねごめんねと眉を八の時にするわたしに、深い溜息とともに「わかった」と答えてくれる。
「勘違いするな。アンタの命令だから整えるんだ、俺は政府の都合なんてどうでもいい」
「なーに物騒なこと言ってんの山姥切、政府がないと俺たち主とご飯食べることもできなかったんだからね!」
「それを言い始めると、なかなか因果なものがあるよ。加州」
膳を片づけようとしていた加州清光に、蜂須賀が笑う。山姥切は「ふん」と言って、味噌汁を啜っていた。
食事を終えて幾つかの書類を片した頃、長谷部が執務室を訪れた。山姥切が朝議の整えに協力を頼んだらしい。既に皆が揃っているというので、長谷部と山姥切を連れて移動した。
「静粛に____これより臨時の議を執り行う!」
長谷部の声に、場も引き締まる。第一部隊から第四部隊、後方支援を含めて全ての刀剣男士が眼前に揃うのは中々に迫力がある。内番服ではなく正装でぴしりと決めた彼らに注目されることには、今でも慣れない。隣で静かに控えてくれている山姥切をちらりとみつつ、わたしは咳払いとともにことを始めた。
「…えっと、緊急の呼び出しに応じてくれましたこと、まずはお礼申し上げます。 本日、臨時朝議を設けさせて頂きました目的は、…政府よりある伝令が届いたためです」
わたしは演技用に持って来た紙を懐から取り出す。まあ中身は言わずもがなあの一言で、わたしはギスギスと痛む心臓を堪え、すうと息を呑む。
「曰く______本日未明より近侍を省き、本丸内の刀を全員刀解すべし」
「…は?」
一瞬で、空気がぴしりと凍りついた。
それが誰かの声かはわからない。だが明らかに、空気が重くなっている。まるで重石を括りつけて川底に沈められるような圧をひしひしと感じて、きゅうと内臓が悲鳴を上げた。…な、なきたい…。山姥切は唯一色々察してくれたらしく、顔に手を当てこのやろうと背に文字をしょっていた。
「え、ちょ 主っそれってどういうこと」
「…どうもこうもありません…政府命令です」
「はあ? なにそれ、答えになってないんだけど」
第二部隊の加州清光が膝を立て、大和守安定が舌打ちをする。納得いかないと顔に書いてある二人の様子は鬼気迫るものがあり、特に安定は今にも抜刀して政府に乗り込みそうな勢いだ。こわい。ガタガタふるえるわたしをおいて「納得いきませんな」とロイヤルな声がした。
「みわ殿、お言葉ですが___我が本丸は政府直轄防衛区域佐賀国においても、特に優秀な成績を収めております。我ら男士の練度も端は短刀、末は槍まで皆が秀逸であり、これまで政府から直々の要請にも応えてまいりました。 その我ら本丸が、事実上の『解体』を命じられるなど…聊か承服致しかねる」
「で、ですが」
続く言葉は、がつんっという大きな音に遮られた。一期一振がその本体の鐺(こじり)を、畳に叩きつけたのだ。そして普段は柔和な黄色の目が、まるで獣のような鋭さを以てわたしを睨みつけた。全身に寒気が走った、まるで狂犬にその首元まで牙を突き付けられているような感覚に襲われる。
(ひ、ひえええええええええ こわいよおおおおおおお)
「っ 分を弁えろ一期一振! その言葉、謀反の恐れありと見なすぞ!」
「そう言うあなたも声を張り過ぎですよ…まったく、耳がいたい」
「宗三兄様…」
一期一振とへし切長谷部がにらみ合う中、第三部隊の宗三左文字が気だる気に言った。弟刀の小夜左文字が治めようとするのを制し、桃色の髪を払い「みわ様」とわたしを名指しして来た。うえらあほえあ
「はい」
「……政府の命がどれ程のものか、刀の身である僕には測りかねますので。今回の命の采配、全てお任せすると致しましょう」
「!」
「マジかよ」
男士がざわつくなか、宗三はすくりと立ち上がりさっさと部屋を出て行こうとする。するりと戸をあけたとき、思いだしたようにわたしのほうを振り返る。流麗な瞳にじっとみられ、…まるで心の内を見透かされている様で…どきんと心臓が跳ね上がる。
「…まあ、あなたに刀解(それ)ができるとは到底思えませんが」
「!」
「では、僕はこれで」
それだけいって、意味深な笑みとともに宗三は去って行った。
一拍置いて、広間の雰囲気は一転する。いうなれば何時も通りの、わたしの本丸だ。
「言われてみりゃあそうだなー みわはそんなことしないぜ」
「だなー あービビって損した。オレ漏らすかとおもった」
「もういち兄マジになりすぎ!」
「…すまない、少し大人げなかったな」
「こういう驚きは微妙だよな、俺たち爺には心臓に悪すぎるぜ」
「なんだ鶴丸、とうとう己の悪戯が過ぎたのだと反省したのか?」
「はっはは 鶯は良いことをいうなあ」
「はあ…くだらない、 僕も戻るするよ。今日は桜がきれいでね、茶会でも催す予定だったんだ」
「おかしがでるならぼくもさんかしまーす」
「おお ならば俺も出ようぞ!」
「……」
「…まったく、マイペースな奴らだ」
ぽかんとしているわたしの所に、山姥切がするすると寄ってくる。
「“これで”任務は終了か?」
「…うん、 こ、こわかった」
「…」
口にすると緊張が解けて、じわじわと泣きだすわたしを山姥切が呆れ顔でよしよししてくれた。
「あ、主! ごめんね、俺マジになっちゃって、うわああああ 泣いてる!!!」
「あーあー 加州清光の所為だ。主大丈夫だよ、僕はあいつみたいにみわに切りかかろうとしないから」
「してねぇよ!ねつ造すんな!」
「大将、いち兄がすまなかったな!」
「…誠に申し訳ありません、動揺してしまい…。 ああ、申し訳ない、か細い思いをさせてしまいましたな」
「みわさまかわいそー! 僕がぎゅーってしたげようか?」
短刀たちにぎゅーっとされながらわたしは思った。もう二度と。こんな伝令には従わないと。
短刀マジ天使。