三日月宗近と小狐丸に事がバレた
「はあ…とんでもない目にあった」
穏やかな午後、一杯のアップルティーを片手にわたしは優雅なひと時を過ごしていた。昨日、粟田口ブラザーズによる一期一振主演・アナと審神者の女王みたいなことがあったが。いや、別にアナとかそういう下品な下ネタ言ってない。わたし審神者、神職の巫女。そういう俗世に染まるのは良くない。
(まあ…なんだかんだ“未遂”ですんだことだし。わたしさえ『なんともないです』って顔していれば本丸は平和___)
「邪魔するぞ、みわ」
「あ、あにうえ!」
前言撤回。苦難も困難もわたしの事情など関係なく寄ってたかってくるものだった。
「…なにかありましたが、小狐丸さま。それに、三日月さま」
「どうもこうもないわ」
スパンっと襖を開けた小狐丸は苛々した様子を隠すこともせず、ずかずかと居間に入って来た。その後ろからおろそろした様子で付いて来た三日月宗近は、今にも泣きそうな様子だ。心配でじっと見ていると、それに気づいた三日月さまが慌てた様子で袖口で顔を隠してしまう。石切丸さん曰く、平安人の習性らしいがやっぱりさびしいものがあるなあ。
(嫌われているのではと思ってしまう)
「おぬし、昨日はとんでもないことをしくさったようじゃのう。まあ、いつかやらかすとは思っていたが、こうも早くに堕落するとは」
「兄上っ!」
「なんじゃ。ぬしもなんぞ言いたい事があるのなら言うてやれ。男じゃろうが三日月、ほれ!」
「ひっ あ、」
どんっと、小狐丸の後ろから引きずり出された三日月さまが降って来た。容赦のないド突きにぎょっとしながら、慌てて膝をついてしまった三日月さまに手を伸ばした。大丈夫ですかと訊く前に、三日月さまの顔が持ち上がる。そうしてばっちり、瞳の中に浮かぶ三日月が見えるほどの距離まで近づいてしまった。
あ、やばい。そう思った次の瞬間、ぼふんっと音がしそうな勢いで三日月さまが真っ赤に染まった。
「う、ああああああああああああ!」
「なnごぶほおう____!」
「ななななななにをするのだ兄上!破廉恥だぞ!兄上のうつけ!節操なし!!!」
酷い言いがかりだな、おい。
そんなこと思いながら、顔を真っ赤にして本体で兄刀を半殺しにしている三日月さまを見学する。ごきばきどご!っと大よそ人体が出したら死亡確定な音が聞こえてくるが、まあ大丈夫だろう。わりと何時も三日月さま(※練度MAX)にボコされている小狐丸さまだが、事後にはけろっと起き上がるのだ。『ふ…三日月(おとうと)の奇行にも慣れたものじゃ』と呟く姿は哀愁が漂っていて、わたしは三条のヒエラルキーの頂点を悟った。三条弟に甘すぎだろ。
「っま、まて三日月! いいかげんわしを布団叩きのように叩くのは止めろ!」
「あ、兄上がわるいのだっ!こん、こんなっ俺は止めよといったぞ!」
「止めたらおぬしは何時までもめそめそとして止まんだろう!一緒にいるこちらの身にもなれ!!」
「め____、めそめそなどしておらん!勝手に話しをつくるな!」
「嘘を言え!粟田口のガキどもに話しをきいてから、ずーーーーーっと布団の中で乳臭い赤子のように泣いておったのは誰じゃ!」
「うわああああああああ」
しょうもない兄弟喧嘩は末っ子の強烈な一撃により強制終了となった。畳の上に沈んだ苦労性の兄の姿に、わたしはそっと心の中で合掌する。小狐丸…余計なことを言わなければ良いものを。
「…で、なにかあったんですか。三日月さま」
「んっ!? ん、んー……」
畳の上に出来上がった死体はとりあえず放っておいて。三日月さまに訊けば、彼は火照った顔を袖口で隠しながら困ったように視線を泳がせた。暫くそうしておろおろしたあと「あ、兄上おきよ」と柄で自らの仕留めた兄の身体を突き始めた。最終的にドスドスと確実に命を取りに行っているとしか思えない容赦のない突きを始めたので、流石に見かねて助け船をだした。ちょ、まじでお兄ちゃんしぬで。
「あ、粟田口とおっしゃってましたが、なにか問題でもっ」
「い、いや、そのようなことはないぞ!俺はなにもっ本丸にも、お、お主にも不満などない。問題だって起しておらぬ、俺は兄上と違って素行が良いのだ」
えぇー…それ自分でいうかぁー…。
怒っているのか少し顔を上気させて言う三日月さまにちょっと引く。あれ、彼って刀剣の中でもかなり年上の分類に入るんだよね。いくら三条派の末弟だっていっても、ここまでその…幼く、というか無垢と言うか……まあ、イケメンという魔法の言葉で解決しちゃう問題なんだけど。
(その辺りはどうなってるんですかねぇ、兄上さま)
(ぬしの兄になった覚えはないぞ、掃除くらいしか能のないドブ鼠がっ)
ゆるゆると起き上がり始めた瀕死の小狐丸とアイコンタクト※ただし一方通行※を交わしていると、三日月さまがそわそわした様子で「あ、主よ」と寄って来た。三日月さまから近寄ってくることは珍しく、大層驚いたが、それを面に出さないように「はい」と答えた。動揺を表に出すと、逆に目の前の臆病な子リスが逃げてしまうからだ。
「その…んー…俺は、ぜんぜんこれっぽっちも気にしてないのだが…あ、兄上が気になってしかたないというから、俺が代わりに訊くのだ」
「そうなんですか」
兄の方が全力で顔を振っていたが、三日月さんは背を向けているので気づかない。
「そうだ。き、昨日粟田口の童が話しているのをきいてな」
「はい」
「な、なんぞ…あ、みわが…その、一期一振の、しゅ、しょしょ」
(ショーユ?)
「しょ、装束を着たと…その戯言よな!解っておるのだっだが兄上が真偽が気になるとうるさいのだ!だから俺が代わりに訊いているっ!」
「なぜ一々わしのせいにされとるんがはっ」
瀕死ながらも起き上がった小狐丸さまが一秒で再びKOされた。すごいな三日月さまのパンチ、あんなに分厚い小狐丸さまの筋肉をものともしないのか。そうやって感心していると、三日月さまが慌てて居住まいをただし「で、どうなんだ」ときいてくる。頭の双葉がビンビンに立っていてちょっと面白い。うちの面白アホ毛ベスト3の名は伊達じゃないなあ。
「えーっと…結論からいうと着ました。すみません、」
「!!?」
「ほう…」
「でも色々不可抗力と言うか自己責任と言うか、まあ交通事故みたいなもので忘れて頂けると幸いです」
事実こそ告げたが、せめて悪評だけは免れたいと言い訳を続けた。だが、どうやら三日月さまの耳には入っていない様子だ。震えたこえで「あ、あなや…」と呟いてガタガタ震えている。さむいのかな?
「まあ落ち着け三日月、このあほも事故というておろうに」
「小狐丸さま」
そんな三日月さまの肩に手を置くのは、小狐丸さまだ。頭から血が流れているが、どうやら無事の様だ。あれ、無事、だよ…ね?
「あ、兄上…だ、だがっ…!」
「じゃから事故じゃ。つまりは不本意の上で起こったこと、……ならば同じことを本意の下に行うなれば、それは先の事よりも重みが違うじゃろう」
「! あ、」
(え、なんのはなし? いみ、おもみ…体重でも増えたのか)
「そういうことじゃ、みわ。さっそくだがその薄汚い布っきれを疾く脱げ」
_______はい?
「付喪神にして稲荷神の命じゃ、誠実なる神の下僕たるぬしが…よもや断りはせんよなあ」
言いながらにんまりと嗤う小狐丸さまはとても良い顔をしていらしゃった。うわ、悪役。それ悪役(ヒール)の顔っすよ、フォックス先輩。その後ろで桜吹雪纏わせてキラキラ笑顔の弟とのギャップで風邪引きそうだわ!
「だれかたすけry__________!」