刀剣乱舞 | ナノ

定期健診に行ったつもりが手術宣告されてしまった


※病名は捏造です



「死んでる?」

首を傾げる蛍丸に、歌仙兼定は首を横に振って見せた。畳の上に力尽きたというようにぐったりと俯せるみわ、今日は外出の予定となっていたはずだ。よほど疲れる用事だったのだろうかと首を傾げながら、みわの背中に重なるように俯せた。

「うぐ」
「どうしたの、イヤなことでもあった」
「イヤなこと…と、いえばイヤなことか…はぁ〜」

重々しくため息を吐くみわ、その様子が要領を得ず。蛍丸は再び俯せてしまったみわの頭を撫でながら歌仙を見た。こちらもぎゅうと眉間に皺を寄せて何とも言えない顔をしている。蛍丸の視線に気づいたのか、歌仙は睨みつけるように見ていたプリントを蛍丸に渡した。

「しゅじゅつがいよう」

受け取ったプリントの題を何気なく読む。歌仙と蛍丸の間に沈黙が落ちた、蛍丸はそっとみわの背中がから降りて…ちょこんと隣に座り直す。

「どどどど、どこがわるいの…? お、おおおおれ、みわのうえに乗っちゃった」
「大丈夫、その位でどうとなるようなものじゃないらしい」
「ああああああるじ、しんじゃう? しゅしゅしゅじゅつって しゅじゅつ 」

ガクガク震える蛍丸に、歌仙は再度落ち着けと背を撫でる。まあ、最初書類を受け取った時の自分も同じような様子であっただろう。その時の動揺を思い起こせば、蛍丸に今の心境は良く解る。

______そう単なる、定期健診であったのだ。
特にこれといって不調のないみわは、気楽に政府附属病院に出向いた。同行した歌仙も同じく買い物にでも行くような軽い心地であった。なにせみわは健康だけが取り柄のような女だ、それにずぼらな彼女に代わって食事や運動は刀剣男士達が管理している。

悪いところなどあるはずないと、思っていたのが行けなかった。みわが入っていった診察室の扉が空いて、なぜかみわではなく看護婦が出てくる。歌仙兼定を見ると、みわの刀剣男士であることを確認され診察室へと促された。この時、思えば少し嫌な予感はしていたのだ。

そうして中に入れば、重苦しい顔をしているみわに、苦笑する女医の姿。思えばこの時点で、歌仙の冷汗は止まらなくなっていた。

「閉塞性霊脈硬化症の兆候が見られます」
___なんだそれは、なんという不治の病か。

「大丈夫です、軽度ですので外科手術で治ります。入院も二三日見ていただければ十分ですよ」

そんな安心をうながすような女医の言葉は、歌仙の頭に入ってこなかった。みわもまた同じく、ブリキ人形のようにコクコク頷くばかり、二人のショックが目に見えてわかったのだろう。女医は病症や今後の対応をまとめたプリントを渡して、数週間分の予防薬と一緒に落ち着いたらまた病院に来てくださいと見送ってくれた。

そして、みわは帰宅直後死んだ。歌仙も何も言えず、黙ってプリントを睨みつけていたところに蛍丸が来たという訳だ。





「あまり大事にしない方が良いでしょうな」

一期一振の言に、歌仙は「そうだね」と頷いた。以前、夏バテでみわが珍しく体調を崩した時のことを思いだす、その時ですら上へ下への大騒ぎだったのだ。今回のことが公になれば、その時以上のパニックが起こるのは目に見えている。

「ふむ、確かにここの所すこし主から流れ来る霊力が、偶に不自然な音をしていると思ったが…病であったとは、」

同じように書面を見ていた三日月宗近が笑う、その笑みは彼にしては珍しく自嘲を含んでいた。

「三日月殿、みわ殿は良く世に尽くしておられる。仏もそれはご存じのはず、決して彼女を悪いようにはなさらないでしょう。貴方がそのように責を感じることはありませんよ」

数珠丸恒次はそう言って、彼の膝枕で眠るみわの頭を撫でた。そうすることに、彼の神気が雨粒に揺れる水面のように広がり、みわの身体に浸透していく。波紋状に広がる神気が、先ほど数珠丸が服用した薬に促され調律の役割を担っていた。繰り返すことで、みわの中で滞った霊気の流れが少しずつ整っていくのが解る。

刀剣男士と審神者を繋ぐ霊的なつながりは、縁とも呼ばれる。これは糸のようにして双方を繋ぎ、刀剣男士はその縁から流れる審神者の霊力を糧としていた。その流れを三日月宗近は音に例えた、なるほどと歌仙兼定は思う。指摘されて漸く気づくとは情けない。確かに、いつも穏やかに自分を包み込んでくれるみわの音に、異質なものが偶に混じっている。…これは雑音、だ。

「不思議な薬ですね、我々が服用し審神者の方に作用するとは」
「外科手術が必要と言っていたのはそういうことかもしれない、自分では感知が難しい類の病なのだろう」

女医から渡された予防薬は、刀剣男士が服用し縁を通して審神者側に作用するというもの。服用するのはなるべく高位の霊格を持つ男士が望ましいとあったため、歌仙は蛍丸に協力してもらい天下五剣である三日月宗近と数珠丸恒次を呼び出した。他にも医学の覚えがある薬研藤四郎と一期一振が合わせて呼ばれ、今後の方針に関していくつかの相談を行っていた。

「長谷部を呼ばなくて良いのか、あれが今は近侍筆頭であろう」
「後で伝えるよ、いまはみわに代わっていくつか急ぎの諸事を片付けてくれている最中だ」

いの一番に相談しようとした近侍筆頭は、みわの代理として管理局に出向いているところであった。電話で呼び出すこともできたが、今後のことを考えれば審神者である彼女の負担を減らすために仕事は滞らせない方が良いと判断してのことであった。

「…ですが、すでに気づいている方々もおられるようで」

数珠丸の言葉に誰も驚くことはなかった。まあそうだろうなあ、というのが正直な感想だ。みわの霊力に数珠丸恒次の神気が混ざったのだ、差異こそされみわの霊力の受容体である男士がその不純物に気づかない訳がない。いまは違和感程度の男士も、すぐにみなことの大事に気づくだろう。

そうして広がるであろうパニックを想像したのか、歌仙兼定が顔を覆ってしまう。パニックが起これば、それを沈めるのは初期刀である彼の役目だった。それに少しばかり同情したのか、胡坐を掻いていた三日月宗近がするりと立ち上がった。

「よし、ならば俺が先に戻ろう。みわはもう少し静かに休ませてやりたいものな」
「三日月殿…すまない、そうしていただけると助かる」
「はっはは、のらりくらりとするのは得意だからなあ まあ任せておけ」

襖を開けて出て行った三日月宗近に、一度一振りも続く。

「では、わたしは薬研と蛍丸殿の様子を見てまいります」

薬研藤四郎と蛍丸は、みわの病気に関して調べ物をしに蔵へ行ったはずだ。確かに少し帰りが遅い気がするので、一期一振にその役をお願いした。そうして静かになった部屋で、歌仙兼定は小さな声で呟いた。

「手術…、早めに日取りを決めなければならないね」
「ええ、それがなにより彼女のためとなりましょう」

数珠丸恒次の言葉に、自然と肩の力が抜ける。この時になってようやく、歌仙兼定はいつもの落ち着きを取りもどせた気がした。




数日後、みわの手術は行われることになった。
付き添いは一振りとされていたため、当然歌仙兼定がその役目を担った。きちんと話を聞いた結果、何でもないということが解ったみわは随分と落ち着いていた。二三日本丸を空けるのは久しぶりだったので、自分の手術よりも心配そうな顔で見送ってくれた刀剣男士達の様子の方が心配であった。

そんな心境をああだこうだと歌仙兼定に喋っていると、ずっと神妙な面持ちでいた彼が突然「それで、君の執刀を担当するメスとはいつ話ができるんだい」なんて言うからみわは持っていたみかんを落としてしまった。

____健康でいなければいけない、
___わたしのためではなく、このちょっとズレた子たちの為にも…。

「聞いているのかい、みわ」

もそもそ拾ってもらったみかんを食べながら、みわは改めて決意するのであった。(聞いてない)

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