刀剣乱舞 | ナノ

とある男審神者の受難


男が審神者なんていう、役職名こそ聞いたことあれ仕事内容を知るものの少ない妖しい職に就いた理由はひとつ。公務員で給料が良く衣食住が保障されるから、以上。

「ねぇ、うちの主になんの用?」
____だから泣いては成らぬ。この程度の理不尽で泣いては成らぬのだ。

ギロリとこちらを睨みつけてくる柘榴色の瞳は鋭く、牽制のように俺の手を止めた刀の柄には何時でも抜刀できるというように指が添えられていた。声をかけようとした刀剣男士の後ろに隠れ、小さな肩を震わせていた。いや、あの違うんです。俺はべつに妖しいものじゃなくて!正当な理由はあるのに、出てきた言葉は「す、すんません…」という情けない謝罪出会った。俺、なにも、わるくねぇのに。

こちらを不審者のように視ながら、女審神者と刀剣男士が去って行く。そして俺の周りからはザッと人がはけた。

(どうしてこんなことに)
_____俺は、配属証明書の提出窓口がある施設を知りたいだけなのに。

審神者。それは俺の生きている時代で最も名の知れた公務員であり、潜在的に適性がある人間しか成ることができないためその実態は闇に包まれていた。女性の方が優れた適正を持つことから、出生女児には適性検査が義務付けられているが男児はその限りではない。俺の親は第六感的な能力とは無縁だし、無宗教だったから俺は生まれてこの方一度も検査を受けたことがない。

普通に学校卒業して、大学に入って、東京の中小企業のサラリーマンとなった。徹夜明けノリで行った検血が、どういう訳か適性検査を兼ねていたようで。翌日には黒服が来訪、ブイエス寝起きの俺。ヒゲを剃る暇も与えられずに審神者就任が決定。理由は先に述べたとおりだ。ブラック企業から抜け出す丁度良い理由が自分から歩いてきたんだ、乗らない訳ないだろう。

そうして数カ月の研修の後、初期刀を選び本日審神者に就任した。そうして初めて訪れた“白紙の地”は、小京都のような趣深い場所であった。

仮想時代、多次元混合型十字地盤 『白紙の地』

COEが管理統制する政府機関の駐屯所兼、審神者の情報交換や生活向上のための場として活用される娯楽町。開設当時、多くの企業が挙って白紙への支店展開を希望したと聞く。そのため、白紙の町は瞬く間に経済成長を遂げ、今でも日本文化を感じる街並みは保ってこそいるが、現代日本よりもずっと近未来的な最新商品が流通しているとSNSでは噂されていた。

そこには初期刀と同じ顔をした男士達が大勢いた、研修で理解したつもりでいたが公然とドッペルゲンガーが歩いている様子を見るのは中々に壮観である。彼らを連れ歩く者たちはおそらく同業者なのだろう、一様に神社でしか見たことがない巫女服、成人式で着た覚えのある羽織袴を着こなしていた。え、俺シャツにジーンズで着ちゃったんだけど。だって初期刀も現代服だったし、え、アレ。もしかして俺、すごい目立ってる…?

なんだか急に恥ずかしくなって、長居するのを避けるべく適当に声をかけて道をきこうとしたのだが。これが裏目にでた。審神者、女、ばっか! 刀剣男士、俺を、警戒し過ぎ!!! 女、女、女。声をかけようとしても刀剣男士がエライ牽制してくる。漸く男を見つけても、結果は同じ。俺を汚物を見るような目で見て、さっさとどこかに主を連れて行ってしまう。警戒心花丸かよ、チクショウが。

「主、用事は済んだか」
「済んでねぇよ、俺の顔みりゃわかんだろ」

ひょっこりと現れた初期刀…山姥切国広。さっきまでどこに言っていたのか、今更ノコノコやってきやがってマイペースかこの野郎。なんでも許されると思いやがって、これだからイケメンはキライなんだ。

「では、書類の提出は諦めるのか」
「そうなった場合どうなるんだ」
「審神者がなんらかの理由で失踪、または、逃亡したとして本丸は自動解体される」
「探すよっ 探せばいいんだろうチクショウ!!!」

こうなったら恥の一つや二つ、もうオマケじゃコラァ。うおおおお、唸れ!俺のブラック企業で鍛えられた下っ端精神。いまこそ雑草の生命力を見せる時が来たぞ。

「スミマセン、チョットオジカンアリマスカ!!?」
「え、 うわなに」

しまった、勢いに任せてよりによって加州清光に声かけちまった。初期刀の中でも主厨筆頭じゃねぇか。タヒんだ、俺。サラバ。内心血反吐吐きそうになっている俺に、加州清光が少しだけ身を引いた。いや、そそそそうだよね。でも俺もね、同じぐらい必死なのよ!

「み、みち ミチ! 教えてくれ!」
「道ィ? なに迷子なの あ、もしかして新人とか」

コクコクコクコクと壊れたブリキ人形のように頷けば、加州清光が先の『加州清光』と同じように柘榴色の目を鋭くして、「それを理由にうちの主に近づこうって、百年早いんだけど」と俺の喉に刀を突きつけて________こな、いな。

「ってことは政府の施設に行きたいってこと、俺こういうの良くわかんないんだよねぇ。だから主に直接聞いてよ」
「そうですね、俺みたいな下賤の民がホントすんま ____え?」
「下賤って… え?」

______え……?

俺と加州清光の間に、不自然な沈黙が落ちた。え…? これは、いつ俺は違う世界線に迷い込んだんだ…? 互いに二言目が出ずに呆然としていると、「加州清光」と高い声が聞こえた。

「なにしてるの、もう主会計しちゃってるよ」
「安定」
「ん、誰そいつ」
「えっと、たぶん新人。迷子なんだって」

暖簾をくぐって出てきたのは大和守安定であった。彼は俺を一瞥すると、興味のなさそうな声で「ふーん」とだけ答えた。

「僕たちそういうのわからないから、主に聞いた方が良いよ」
「え」
「だよねぇ ってこと、ゴメン! 主いま会計中なんだ、だからさ もうちょっと待ってくれる?」
「え」

俺の、聞き間違い、じゃ、なかった!
え、え、良いのか。え、だって君たちの大事な審神者でしょ??? こんなに容易く男と話させていいの??? いや、もしかしたらここまで無反応と言うことは、彼らの主もまた俺のようなモブ男なのかもしれ、「ただいま、買い物終わったよ」 ん、じゃなかったーーーーー!!!!

「あ、主おかえり。 ねえ、この人迷子なんだって」
「そうそう、道に迷ってるらしいよ」

「おや、それは一大事。 わたしで良ければ案内しますよ、どこに行きたいんですか?」

その人は、どこからどう見ても女性だった。キレイな人だ、着物を纏っているが話し方が崩れているからだろうか酷く親近感が湧いた。「聞いてます?」と言われて、慌てて持っていた書類を出せば。それを見てふむと、女性が頷いた。

「これなら2番窓口ですね、中央役所で受理してくれます。ここからだと、歩いて10分くらいかな」

受け取った書類を俺に返しながら、その人は「新人さん?」と尋ねてきた。

「え、あ、  はい、」
「じゃあ今日から同僚ですね、どうぞよろしくおねがいたします」

差し出された手に、じんと心が震えた。ようやく、真っ当な人として扱って貰えたような。ここで泣き出すのは流石にキモイだろ、ぐっと涙をこらえて。彼女の手を握り返した。俺よりもずっと小さくて、すべすべだった。

その後ろで、加州清光と大和守安定が「ネコ被ってる」「被ってるね」と小声で笑っている。…ネコ、被ってるんすね。ちょっと彼女の眉間がぴくりと震えたように見えたのは、気のせいだとしておこう。

「主さん、荷物だけど本丸に届くのは明日___ どちらさん?」
「手配ありがとう浦島、この人を中央役所まで案内したいんだけどいいかな」
「え いいですよ! 道教えてくれたら、自分で行きます」
「もちろん、いいよ!」

この空間は、天国かなにかか。
耐え切れずに等々泣き出した俺に、彼女たちはギョッとしていたが許してほしい。現代社会でも冷たい風に晒され続け、新天地でもしょっぱな大失敗をかました俺に、この処方箋は利きが良すぎるのである。





「___なるほど、それは中々大変でしたね」

道すがら経緯を話せば、彼女は…みわさんは困ったようにそんなことを言った。

「刀剣男士にとって主を危険から遠ざけようとするのは本能みたいなものなんです。どうかお気を悪くしないでください」
「あー、ハイ。 あの俺の方にも問題があったのは自覚してるんで、こんな格好だし」

ぺらぺらの着古したシャツを摘まめば、みわさんはくすりと笑った。

「慣れてくればそれなりにお給料が出ますから、すぐに新しい服を買えるようになりますよ」
「あはは、それまでに何年かかるか」
「正直話せば、わたしも慣れるまでは貧乏な生活でした。服がなくて男士達の内番着を借りたこともありましたよ」
「内番着…って、刀剣男士の服ッスよね。確か請求すれば無料で配布されるって」

つまりは、そういうことか。なるほど、良いことをきいた。

「ですけど、審神者は本丸の代表で”顔“ですから。経済的な余裕ができたら、訪問着として一式くらいは揃えておくのをおススメします」
「う、俺その…羽織袴なんて、成人式レンタルして着たくらいで」
「大丈夫、予算と用途を言えば呉服屋の方で仕立ててくれます。白紙の呉服屋ならどこでも、」

この人、マジ神。欲しい情報何でもくれる。
ジーーーーーーン、と感動していると。少し後ろを歩いていた浦島虎徹が会話に参加した。ちなみに加州清光と大和守安定は、その間必要な買い物を済ませるということで別行動だ。

「人目がきになるなら、主さんみたいに呉服屋の方に来てもらえばイイんじゃない?」
「呉服屋の方にって… エ? いくら、かか…」
「あ…ああ、あの うちの初期刀、歌仙兼定で」

頭の中で羽織袴の金額が跳ね上がり始める。フリーズしながらもみわさんの着ている着物を上から下に見てしまう俺、はしたないが当然の反応だと思う。みわさんは頭痛に堪えるように、小さな声で言う。

「その、着物に 凝り性で…」
「カセンって、あ… のミヤビ〜な、感じの」
「ミヤビ〜な感じの、彼です」

なるほど、金ぴかの次に金かかりそうなだなって思ったアイツか。
着ている衣服も意匠が凝っていたので、なるほど着物好きも納得だ。それに、…ちらりとみわさんを見る。こんな美人が主なのだ、着飾りたくなるのが男の性というやつだ。

そんな話をしている内に中央役所についた。みわさんは一緒に中に入って、窓口の場所だけではなく同時に提出が必要となる記入用紙。その書き方まで教えてくれた。え、ほんとうに俺この人にどう感謝すればいいんだ。首でも差し出せばイイの???

「本当に何から何まで、ありがとうございました」
「いえ、わたしも最初は色んな人に助けてもらいましたから。あ、あと最後に一つだけ、」

別れる前に、みわさんは思い出したように手を叩いた。そうして浦島から何かを受け取ると、俺に差し出してきた。

「名刺、っすか」
「うん、本丸の連絡先が書いてあるから何か困ったことがあればいつでも連絡して」
「い  いいんですか!!?」
「もちろん」

速報、やぱりみわさんは神だった。
_____ちなみに、俺の山姥切国広はそのころ。迷子と間違われて他審神者にちやほやされていた。漸く合流したと思えば、両手にいっぱいのお菓子を抱えてほっくほくの笑顔を浮かべる。本当なら一発コラと怒ってやりたいところだが、みわさんの神々しさで心が浄化された俺は溢れんばかりの優しさで彼を受けれいた。だけどそのお菓子、俺にも半分寄越せよ。

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