刀剣乱舞 | ナノ

主の風呂待ち脇差部屋に中継がつながっています


風呂が好きか、と言われればハイと答える。
というか、日本人で風呂が嫌いな人はそういない。中でも温泉は、日本とは切っても切り離せない生活に根付いた文化だ。長風呂は良い、お湯は熱いくらいが好き。体の芯からぽかぽかと温まって、その日の疲れが溶けだしていくような感覚が堪らない。

そんな風呂好きのわたしだが、仕事に追われている時はそうもいかない。さっさとベッドに入りたくてシャワーで済ましてしまうことも多い。だからだろう。長風呂の準備が整った日は、わたしにとって少しだけ特別な日だった。だがそれはわたしだけではなく、男士たちも同じようだ。





「…どれくらい経ったかな」

ぼそりと浦島虎徹が呟く、彼のトランプを引いた鯰尾藤四郎が「10分」と答える。その声が二重に聞こえたのは、順番を待っていた骨喰藤四郎の声だろう。

「最後に声をかけたのは誰だい」
「ボクです、その時は30分だけ延長させて欲しいと」
「なら、次はわたしが行こうか」
「んー、肥前はどう思う?」

にっかり青江、物吉貞宗、篭手切江、治金丸が互いのトランプを引く。その輪から離れた場所では、肥前忠広が座布団を枕に寝転がっている。聞こえてきた舌打ちが鋭いので、恐らく肥前に動く気はないのだろう。

「まあ、今日の世話役は堀川だから大丈夫でしょ」
「彼は容赦しないからね、…色々と」

ワザとらしく言葉を溜めて、青江がクスクスと笑う。

「そうなのか?」
「うん、堀川くんチョー恐い」
「割と実力行使に出がちだ」
「行動力に優れているのは魅力的な所なんですけどね」

古参先輩方の言葉に、なるほどと治金丸は頷いた。この本丸では新参に当たる治金丸は、まだ知らないことが多い。この脇差部屋に配属になったのもついこの間、本丸の生活に慣れ戦場の成果が目に見えるようになってからのこと。

この本丸の主であるみわには、秘書役である近侍の他に世話役と言う役が着く。審神者の業務サポートが主な役割である近侍に対し、世話役は審神者の衣食住に関する生活サポートを主軸にしている。そして、それらは刀種として補助に優れた性質を持つことから脇差勢に宛がわれていた。

「来週火曜って、結局出張になったんだっけ」
「うん、今日確定してみたい。COEに14時だよ」
「その場に居合わせたから、当日の衣装はわたしの方で用意してある」
「先の遡行軍中継基地の調査結果が知りたいそうなので、草案をボクの方でまとめています。明後日あたりに資料と当日のアジェンダ確認をスケジュールに入れておいて欲しいのですが」
「心得た、調整しよう」
「その日オレが世話役なんだよね、COEに行くの久しぶりだし建物構造見直しとこっかな」

「…」
____先輩方が、優秀過ぎる。

すいすいとトランプを抜きながら交わされる会話に、治金丸は若干置いて行かれていた。そも新参者である千代金丸と…肥前忠広は、自分で言うのもなんだがあまりサポートに向いている性格ではない。特に肥前は断るのではないかと思っていたが、意外にも彼は部屋の移動を承諾した。もちろんキレの良い舌打ちと悪態交じりであったが、それなりに下っ端仕事は熟しているらしいので先輩方の評価は悪くなかった。

「30分」

骨喰藤四郎のつぶやきと、みわの衣を裂くような叫び声が聞こえたのは同時だった。「つめてぇえぇーーーーーーーーーー!!!!」という言葉に、凡そ堀川国広がどのような手段に出たかは知れた。自然と皆が囲んでいたちゃぶ台にトランプを放った。

「この調子だと、みわちゃんが布団に入るまで1時間くらいかかるかな」
「夜番、配置に着くぞ」
「ああ」
「オレはカメ吉回収して、みわさんの身支度手伝い行ってくるね」
「ボクは執務室に居ますので、御用があればお呼びください!」

各々が動き始める中、青江がトランプを片付ける。「君の分を」差し出された手に、治金丸はへなりと笑って手札を渡す。…結局、配られた時からジョーカーは手元を動かなかった。

「僕たちは、27時に交代だ。そのまま朝まで担当になるから仮眠をとっておくと良い」
「んー、わかった」
「君は待機、寝ていてもかまわないけれど。ここは共有の場所だからね、仮眠室に行くように」

それが誰に向かってかけられた言葉なのかは明白だった。それまで黙り込みを決めていた肥前が「あーったよ」と渋々起き上がる。その様子を見て青江がにっこりと満足そうに笑った。

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