刀剣乱舞 | ナノ

源氏物語を再現しようとした


「突然だが、源氏物語を再現するぞ」

「なぜだ」
「主命だからだ」
「また手前エか!いい加減にしやがれ!」
「黙れ新兵、この本丸は主に絶対服従の精神で成り立っています! ハイっ皆さん一緒に、審神者の命令は〜?」

大声で言ったのに、誰も目を合わせてくれない。だが蛍丸だけが「マスカットー」とイイトモみたいに手を上げて答えてくれた。良い子だ、来派に10点!

「かあいい蛍ちゃん 大好き!」
「では台本を配る。一人一部、予備は無い。紛失したら圧し切るぞ」

みわが蛍丸を抱きしめてグリグリしている間に、近侍のへし切長谷部が手際よく居残りメンバーに台本を配った。

「おい、和泉守」
「あ、兼さんの台本は僕が預かりますよ。 もぉ兼さんも一々みわさんに突っかかるの止めないよ、子どもじゃなんだから」
「いてぇ!」
「…と、言いながら容赦なく本体で殴った」
「うちの国広カーチャンみたい」

堀川国広がズルズルと打たれた頭を抱える和泉守を引きずって行く。その様子をみてコソコソ噂話をする沖田組打刀は完全に女子である。

皆がパラパラと台本を捲りながらざわつくなか、中庭を背に立った長谷部がパンっと手を叩いて合図を出す。

「まずは点呼を取る、我こそは日の本一の役者刀というものは名乗りを上げろ!」

「どういう無茶ぶりですか。あなた、そういう所だんだん主に似て来ましたよね…宗三左文字、本日は非番です」
「小夜左文字。ぼくは…このあと、洗濯を手伝う予定だけど」
「それは僕が頼みました。本日の洗濯担当の堀川国広です。で、こっちで拗ねているのが」
「拗ねてねぇよ!」
「て、うっさいのが和泉守兼定で。俺は主のイッチバンの愛刀、加州清光でーす」
「主の本命、大和守安定」
「なにをおっしゃりまするか、みわさまは鳴狐にぞっこんでございまする! ねえ、鳴狐」
「…」
「山姥切国広」
「大倶利伽羅」
「薬研藤四郎だ」
「乱だよぉん」
「浦島虎徹っす!」
「蛍丸でーす」
「審神者のみわでーす」

総員十五名である。
中々の大人数だが、元の数を考えるとこれで半数程度なのだ。怖ろしい…本丸のエンゲル係数が怖ろしくて算出できない…。

「にしても、源氏物語か。題目は知っちゃいるが、内容は知らないぞ」
「ボクも。ねえみわちゃん、これどういうお話しなの?」
「って、乱が聞いてるけどどうなの 大倶利伽羅」
「俺に聞くな」

薬研から流れて来た質問を部屋の隅に凭れている大倶利伽羅に投げるが流される。どうやらやる気がないらしく、長谷部から受け取った台本も隣に伏せて見ようともしない。

その態度が気に入らないので、みわは蛍丸を抱き上げて「ライダーキック!」「とう!」と奇襲を仕掛けた。ケガを顧みない二人の特攻に大倶利伽羅が「ヤメロ!」と叫びながら押し倒される。それを見守る粟田口二振りの隣で、役に立たないみわに代わりと宗三が答えをくれる。

「まあ…とある男の恋と人生の翻弄記と言ったところでしょうか。平安時代に流行した絵巻物ですよ」
「僕も見たことある」

ぱらりとページを捲りながら小夜が言う。

「男の人が、未亡人から女童まで節操なく手をだした報いに、独り寂しく死ぬ話しでしょう」
「よもや小夜の口からそんな説明が飛び出すとは。 お兄ちゃんビックリです」
「僕なにか間違えた?」
「いえ、凡そそんなお話です。小夜は良く物を知ってますね」

(贔屓だ…)
(贔屓だ)

小夜の頭を撫でる宗三は、まるで授業参観に来た親のような顔をしている。だが、その本性がモンスターなペアレントなのは言うまでもないので、みなそっと目を反らした。突っ込んだら最後、面倒なことになる。

「そんなもん、俺たちで再現できるのか。 自分で言うのもなんだが、男女の色恋沙汰なんててんで解らなねぇぞ」
「同意見だ。 …こんな煌びやかな話、写しの俺が演じられるとは思えない」

「そんな山姥切くんは桐壷更衣の役に内定しています、おめでとう」

「!?」

みわの突然の発表に山姥切国広が理解できないという顔で固まっていたが、誰もフォローは入れなかった。むしろ、貧乏くじが減ったことに安堵さえ覚えている。そんな山姥切の肩をそっと叩いて同情してくれたのは兄弟の堀川国広だけだった。

「第一幕の『桐壷』なら、あとは桐壷帝でしょうか。 みわ様はどのような配役をお考えで」
「たまには刀剣男士がホモォな感じの絵が見たいね。 ということで、どことなく攻めっぽい長谷部に帝役をお願いしようと思っているよ。 ヨッ色男っ 第六天魔王の愛刀!」
「そ、そんな、愛刀だなんて。 …みわ様は誉めすぎです」
「丸めこまれていますよ、あなた」

ぽっと頬を明るめる長谷部に、宗三の視線は冷たくなる一方だ。その腕の中で小夜が「ほも?」と小首を傾げてる。かわいいので、そのままにしておこうとみわは穏やかに笑って誤魔化した。

「桐壷帝が長谷部なら、あとは光源氏と藤壺の宮…それに葵の上か」
「最初って光源氏は子どもなんでしょ? 薬研が良いんじゃないかな」
「冗談はよしてくれ、乱。俺みたいな武骨者が、優雅な貴族のお坊ちゃんなんかやれるわけねぇだろ」
「えー」
「えーいいじゃん。薬研似合うよ、光源氏(幼少期)決定」

乱の推薦に乗り、パチンと指を鳴らしてみわが薬研を指名する。乱が「わーい」と喜んだのに対して、薬研は気ノリがしないと眉を顰めた。だが、それ以上文句をいうまでもなく渋い顔で黙って台本を捲るあたり、彼の性格が透けて見える。

「あとは藤壺の宮…藤壺更衣に瓜二つの平安の小公女な」
「いや、セーラとはだいぶ違いますよ、この女あとで化けて出ます」
「マジか。執念深そうな所は宗三に似ているが」
「はぁ?」
「似ているのと配役は関係ないよね! うん、わたしがやろう!」

宗三の冷気におど…宛てられ、みわが良い笑顔で自ら役を演じることを決めた。うん、やっぱり何事も同じ舞台の上でなければつまらないものね!

「うーん。そうなると、みわさんと山姥切さんの顔が瓜二つってことになるのか。ンー、なんか設定と違い過ぎて頭こんがらがって来た」
「浦島に同意ィ。 それに俺、やるなら主の相手役が良い。もう空きないなら『桐壷』はナレーションでもやるよ」

真面目に台本を読みこんでいる浦島虎徹とは対照的に。ひらひらと台本を指でつまんでいた加州清光が、ぴったりとみわに寄り添って言う。

「じゃあ、清光は次の幕からね」
「うん、主がカッコいい役選んで」
「加州くんが降りるとなる、と…あとは、僕と兼さん、宗三さん、小夜くん、倶利伽羅さん、浦島くん、蛍丸さん、乱くん、安定くん、鳴狐さんだね」

指折りひいふうと堀川が数える。それに、長谷部と審神者は改めて台本を見た。

「そうだな…小役で弘徽殿女御もいるな」
「牡丹と薔薇でいう『メスブタが…!』っていう方だね」
「あ、じゃあそれ僕やる。楽しそう!」

乱の役が決まった。___ということはつまり。山姥切を乱がイジメるということになるのだが、益々頭がこんがらがるので口にはしないでおこう。

「葵の上だな。光源氏の北の方だ」
「薬研くんのお嫁さんか」
「薬研のお嫁さんか」
「薬研の妻ですか」

「お前さんら、俺になにかのっぴきならねぇことでもあるのか?」

三人はさっと薬研から目を反らした。それなのに、なぜかみわだけびょーんっと頬を伸ばされ「なんであらしが」と情けない声で弱った。

「つんと澄ました性格とありますし…そこの黒髪ロンゲとか良いんじゃないんですか。きっと似合いますよ、女房姿」
「手前ぇ 喧嘩売ってんのか!?」
「売ってないから、すぐ噛みつかない。野良犬だってもうすこし分別があるよ、兼さん」
(兄弟…俺は時々お前が、本当にコイツのことを慕っているのか解らなくなる)
「では、そこの黒い龍にやらせましょう。ちょうど、同じ澄まし顔してますし」
「あ?」
「ナイス配役。大倶利伽羅の抜擢を許す」
「ああ!?」

がたんと大倶利伽羅が立ち上がって講義するが、最早誰も取り合わない。誰も彼もが被害者であるのだ、こうなればせめて一番見っとも無い役は避けたいと厄の押し付け合いになっていた。こういう時の団結力は流石だなと、蛍は他人事のように思いながらみわから貰った味噌饅頭を口に放った。

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