北谷菜切と治金丸がサーターアンダギーをくれる
2024/09/09…添削、誤字修正
「小麦粉と砂糖を混ぜて揚げた匂いがする!」
「正解さぁ、みわが食べたがっていたサーターアンダギーだよー」
北谷菜切が両手で掲げるお皿には、先日わたしが食べたいと駄々を捏ねたお菓子が山盛り積まれていた。嬉しさから厨へと飛び上がれば、治金丸が慌てた様子で、しかし、危なげなくわたしの身体を受け止めてくれる。頬に触れた向日葵色から、遠い南国の海のかおりがした。
「おいひい おいひい」
「あんま欲張ると喉に詰まらせるよ。 治金丸、チャー持ってきてさー」
「あいさ、すぐ持ってくるから待ってなぁ」
「牛乳が、合うと、思いますっ!」
もぐもぐしながらの品のない主張であったが、地金丸は意を汲んでくれたようで、「チーチーな、わかったよ」と厨に向かった。それにしても美味しい…サーターアンダギーは罪の味だ。縁側の向こうは太陽が照り付けていて、池面がキラキラと輝いていた。項が汗ばむ蒸し暑さも、ちりんと鳴る風鈴の音を聞くと少しだけ和らぐ気がする。
机に頬杖をついて、のんびり団扇を仰ぐ北谷菜切。その度、柔らかい桃色の髪がふわりと揺れた。誘われて手を伸ばす。それに気づかない筈がないのに、まるで頬に触れて初めて気づいたというように、北谷菜切は花が綻ぶように笑ってくすぐったそうに喉を鳴らした。
「あっはは なあに、でーじくすぐったいさぁ」
「ふふ 毎年ね、この時期になると家族で沖縄旅行に出かけたんだ」
北谷菜切は「ん」と、少しだけ頷いて応えた。
「沖縄は良いよねぇ、食べ物がおいしい。お兄ちゃんが海好きだったから、毎年ビーチで大はしゃぎしたの」
「うん、海は良いよねぇ」
「ソーキそばも好き」
「歌仙に言って、今日の夕飯はソーキそばにしようかあー?」
「魅惑的なお誘いだけど我慢するよ、もう今夜の仕込みは終わっているっぽいし」
これだけの大所帯となれば、メニューを一品変えるだけでも大仕事になってしまう。厨房当番たちの負担を増やしたくはないが、けれど北谷菜切の誘いはあまりにも魅惑的だった。うんと考えて、「あしたの三時のオヤツとか、どうかな?」と提案すれば、彼は猫みたいににんまり笑って「まかちょーけ」と言った。
「持って来たよ」
「ありがとう、治金丸」
「こっちは、ちい兄の分」
「にふぇー」
渡されたグラフをぐいと仰げば、これがサーターアンダギーと合わない筈がなかった。お腹の中が幸せいっぱいになって、ふにゃりと顔がふやける。それを見て、北谷菜切と治金丸が耳慣れしない琉球の音で笑った。
「燭台切が、あれこれみわに作っちゃう理由がわかるさぁ」
「んー、だな 俺もちい兄に料理習おうかな」
「待て待て、わたしの肥満防止のためにも。あまり与えすぎないでね?」
「それなら、一緒に手(テイ)―の鍛錬でもする?」
手というのは沖縄の空手だったか、それは要検討とさせてもらった。甘いおやつの後、二人とおなじさんぴん茶を貰った。口の中がすっきりしてとても美味しい、今日の夕飯はわたしも二人と同じこのお茶を貰らおうかとぼんやりと考えた。
ちりんという風鈴の音が、遠い世界の余韻のように聞こえる。