刀剣乱舞 | ナノ

北谷菜切と治金丸がサーターアンダギーをくれる


「小麦粉と砂糖を混ぜて揚げたものの匂いがする!」
「正解さぁ、主希望のサーターアンダギーだよー」

北谷菜切が両手で掲げるお皿には、先日わたしが求めた菓子が山盛り積まれていた。嬉しさから厨に飛び出すわたしを、治金丸が慌てた様子で受け止めてくれた。

「おいひい おいひい」
「あんま欲張ると喉に詰まらせるよ。 治金丸、チャー持ってきてさー」
「あいさ、すぐ持ってくるから待ってなぁ」
「牛乳がっ 合うと思いますっ」

もぐもぐしながらも手をあげて主張する。地金丸は小金色の目を丸くして、「チーチーな、わかったよ」と襖の向こうに消えて行った。うまい…サーターアンダギーは罪の味だ。縁側の向こうは太陽が照り付けていて、池面がキラキラと輝いていた。項が汗ばむ蒸し暑さも、ちりんと鳴る風鈴の音を聞くと少しだけ和らぐ気がした。

机に頬づえをついて、のんびり団扇を仰ぐ北谷菜切。その度、柔らかい桃色の髪がふわりと揺れた。誘われて手を伸ばす。刀剣男士がそれに気づかない筈ないのに、北谷菜切は頬に触れたわたしの指を受け入れてくすぐったそうに喉を鳴らした。

「あっはは なあに、でーじくすぐったいさー」
「毎年ね、この時期になると家族で沖縄旅行に行ったんだ」

北谷菜切は「ん」と、少しだけ頷いた。

「沖縄は良いよねぇ、食べ物がおいしい。お兄ちゃんが海好きだったから、毎年ビーチで大はしゃぎしたの」
「うん、海は良いよねぇー」
「ソーキそばも好き」
「歌仙に言って、今日の夕飯はソーキそばにしようかあー?」
「魅惑的なお誘いだけど我慢するよ、もう仕込みしているっぽいし」

これだけの大所帯だ、メニューをわたしの一存で返るだけでも大仕事になるのは目に見えている。歌仙たちの負担をイタズラに増やすつもりはない、だけど北谷菜切の誘いは魅惑的で。「あしたの三時のオヤツとか」と小声で言えば、猫みたいににんまり笑って「まかちょーけ」と言った。

「みわ、持って来たよ」
「ありがとう、治金丸」
「こっちはちい兄の分」
「にふぇー」

わたしのグラスには冷たい牛乳が並々注がれていた。ぐいと仰げば、これがサーターアンダギーと合わない筈がなかった。お腹の中が幸せいっぱいになって、ふにゃりと顔がふやける。それを見て、北谷菜切と治金丸が耳慣れしない琉球の音で笑った。

「燭台切が、あれこれみわに作っちゃう理由がわかるさあー」
「んー、俺もちい兄に料理習おうかな」
「待て待て、わたしの肥満防止のためにも。あまり与えすぎないでね?」
「それなら、一緒に手(テイ)―の鍛錬でもする?」

手というのは沖縄の空手だったか、それは要検討とさせてもらった。甘いおやつの後、二人とおなじさんぴん茶を貰った。口の中がすっきりしてとても美味しい、今日の夕飯はわたしも二人と同じこのお茶を貰らおうかとぼんやりと考えた。

ちりんという風鈴の音が、遠い世界の余韻のように聞こえる。

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