刀剣乱舞 | ナノ

大倶利伽羅の夜泣きラーメン




(…お腹すいた)

むくりと布団から起き上がる。
寝る前から感じていた空腹が、とうとう堪えきれないものになった。

くうくうと切なく鳴いてくれるお腹をさすりながら、そっと部屋を抜け出す。夏も終わり、秋が近い。寝間着でうろつくには少しばかり肌寒いがそうとばかりも言っていられない。何時もなら皆が端正に整えてくれた庭がみえる縁側だが、時刻は27時とすこし。雨戸の向うから聞こえてくる風の声がいやにクリアだ。…すこし神経質になっているのかもしれない。

(カップラーメンでも食べよう)

ちなみに我が本丸では、カップラーメンの間食は禁止されている。男士たちが料理をこさえる場合は、そちらを優先的に味わうようにと歌仙兼定からのお達しである。最初の頃はそれでも足りないとカップラーメンを啜っていたが、そうすると必ず男士たちが群がるのですぐに歌仙(オカン)にバレた。そしてわたしの夕飯は太刀男士バリの大盛りとなった。おかわりも自由である。うれしい。

厨はひんやりとして静かだった。縁の下から突っ掛けを出して、そろりと土間に下りる。備え付けの棚を漁り、どのカップラーメンにしようかと悩んでいると後ろから「おい」と声をかけられた。その一瞬、わたしは確かに魂が身体から飛び出していくのを感じた。

「おおおおおおおおおおお 大倶利伽羅さん」
「…なにをしている」
「いやいややしょくを、やしょくをば びびびいっびびびびび びっくりした」
「おい土間にしゃがみ込むな」

何時の間にか後ろに仁王立ちしていたのは大倶利伽羅だった。わたしは驚きのあまり腰を抜かしてしまった。恐かった、心臓めっちゃドキドキしとるよ。このまま心不全で倒れてしまいそうだよ。わたしドッキリダメだっていったじゃん!!!どうしてそういうことするの!!!!人はそれを逆切れという。

「大人しくしていろ」
「…うっす」

動けないわたしを大倶利伽羅はひょいと片腕で抱き上げてくれた。子どものように腕に座らせて、厨を後にする。向かって直ぐの襖を開くと、普段は男士たちで溢れかえっている大広間がしんと静まり返っていた。男士が増えるたびに買い足した種類違いの机は畳まれ、年季の入った座布団が部屋の端に積まれている。

大倶利伽羅は座布団を数枚わし掴み、厨近くに放り投げた。それを簡易ベッドのように並べ、二つに折った座布団を枕にしてわたしの体を横たえてくれる。

「やさしくりから」
「俺はそんな名ではない ッチ」
「おうぷ」
「寝るなよ」

箪笥から引っ張り出した昼寝用ブランケットを思い切り顔に投げつけられた。顔めっちゃあったかいよ!ブランケットに手をとられてもぞもぞしているとカチンという音が聞こえる。イモムシのように体をくねらせてみれば、大倶利伽羅が厨の明かりをつけて、鍋片手に冷蔵庫を物色している。…もしや、事情を察してわたしの夜食を作ってくれるというのか。

「めっちゃ良い子やんけ」
「じゃあ、夜中にこっそり部屋を抜け出して厨を漁ろうとしていたみわちゃんは悪い子だね」
「ぶるはっ」

悪事の全てを暴かれた犯人よろしく、真っ青な顔で振りかえればそこには夜の暗闇にとけるようにして燭台切光忠が立っていた。

「み、みったん…」
「まったく、困った人だね。 僕は抜け出した加羅ちゃんを叱るために起きてきたんだけど…こういう理由だと、叱るに叱れないじゃないか」
「面目ねぇ」

寝間着に上着を羽織った光忠は普段と違って、どこか無防備な雰囲気がある。本当に寝ている所をそれだけのために抜け出してきたという体だ。普段ならお目にかかれない姿に思わず見入っていると、暗闇にぶんやりとうつる蜜色の瞳が「ん」と眇められた。そこには優しさだけが満ちていた。

「できたぞ」

光忠に腰をマッサージしてもらっていると、大倶利伽羅がそう言って広間に戻って来た。美味しそうな醤油の香りと誘惑の湯気にわたしは「たべる!!!!」と起き上がった。

光忠が呆れたように笑って「はいはい、大人しくしていてね」とわたしの身体を押し戻してしまう。一番小さな机を光忠が開き、その上に大倶利伽羅が盆に乗ったラーメン器をおいてくれる。美味しそうな醤油ラーメンだった。しかもホウレンソウとメンマ、それに刻まれた葱にノリと即席チャーシューまで乗っている。

「いただきます!!!!!」
「ふん」
「あーもう 火傷しちゃうよ、胃がびっくりしちゃうからゆっくり食べて」

蓮華とお箸を手に、まずは一口。そうして味わってしまえば、後は止まらない。二口目へと進み、麺を吸って。蓮華にたっぷりためた汁と一緒にいただくのも良い。箸休めに具を食べて、口の中があつくなれば冷たい水で一休み。はふはふと額にじんわりと汗を掻くわたしを、大倶利伽羅はつまらなそうに、光忠は嬉しそうに見ていた。

「う うめー なんだこれっ大倶利伽羅すごい!大倶利伽羅すごいよ! ずぞー」
「食べるか喋るかどっちかにしろ」
「ずぞー」
「あ、食べるんだ。 ほんとみわちゃんって美味しそうに食べてくれるよね。だから僕もついついみわちゃんの分大盛りにしちゃうんだけど」
「その所為でこいつが肥えたらどうする」
「それ夜食作ってあげちゃう加羅ちゃんに言われたくないなあ。 ふふ だってさ、みわちゃんいっつも残さず綺麗に食べてくれるから作り甲斐があるんだよ。 きっと加羅ちゃんにもすぐわかるよ」

意味深い顔で微笑む光忠に最初こそ解る訳がないと思っていた大倶利伽羅だが。しっかり汁の一滴まで飲み干したみわが、「美味しい」「美味しい」「大倶利伽羅すごい」「てんさい!」と大げさに持て囃すから…少しだけ、少しだけ。こんな夜も悪くないと思った。

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