刀剣乱舞 | ナノ

国広兄弟と和泉守兼定が食事当番のようです


じゅわっという玉ねぎの焼ける良い匂いがした。
思わず足を止まる。冬になり、春から秋まで開け放たれていた縁側にガラス窓がはめ込まれて久しく。一年目ではできなかった贅沢に、古参の刀は手を叩いて喜んだ。本丸で過ごす二年目の冬のなんと過ごしやすいことだろう。…まあ、空調管理が整った部屋はまだ共同部屋が精々だが、いずれはみんなの部屋に儲けたいものだと審神者は思っているわけでして。

(…夕飯の気配を察知!)

廊下をもこもこ靴下で滑り、曲がり角の壁にぺたりと張り付く。その向うは厨である、聞こえてくるトントンという音と玉ねぎの香り…今日はカレーか。カレーなのか!

(…モノのついでに驚かせてやろう)

すうと廊下の床に張り付いて抱腹前進で進む。皆のおかげで廊下は綺麗だから…あ、埃。めっちゃ隅っこに埃たまってるじゃん!…まあいいや。するすると進み厨の端っこに手をかける。そのまま横からぬうと顔をだすと、丁度米釜を持って振り向いていた山姥切国広がいた。黙っていると、山姥切は厨の真ん中にある調理台にそれを置いてふうと額を拭い…わたしを見つけ声のない叫びをあげる。

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!??」
「っ んだよ! うっせーぞ国広兄d ギャアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!」
「いやあああああああああああ」

ちなみに叫び声は、山姥切国広、和泉守兼定、わたしの順である。
予想外に驚かれたので、わたしまで驚いてしまった。




「みわさん、メッ」

ぴんと指を立てた堀川はママみたいでニヤニヤしてたら「反省!」といってデコピンされた。いてえ!

「もー子どもじゃないんだから、そういう悪戯はダメですよ」
「カッカッカ! 怒られてしまったな、みわ殿」
「もっと言ってやれ国広ォ! お蔭でこっちは火傷したんだぞっ火傷!」
「ツバでもつけとけ」

和泉守が大げさに物を言うのでケッと言葉を吐いたら、じとりという目で堀川が見てくる。「主さん」と呼ぶ声は低く、ひゅんっと魂が縮み込む思いだ。やばい、堀川激オコ寸前丸だ。

「まあそう怒るでない、兄弟よ。 みわ殿なりのコミュニケーションなのだ」
「こんなはた迷惑な方法聞いたことがないな」

山伏国広が大らかに笑って許してくれるのに対し、鍋を煮込む山姥切の言葉はどこまでも冷たい。酷いなあ、まんばちゃんはわたしに冷たいなあ。

「ところで今日の夕飯はカレー」
「違げぇよ、シチューだ」
「…」
「…落ち込みすぎだろ」

目に見えてしょぼんとするわたしに和泉守が苦々しい顔でいう。堀川と山伏がそれを見て困った風に笑い、山姥切が呆れたように溜息をついた。

「我儘を言うな。食事を作らず掃除もせず、だらだらと書類仕事をしているだけのアンタに献立にいちゃもんつける権利はない!」
「まんばちゃんなんでそんなわたしに厳しいの!? わたしだって仕事してるよ!?」
「じゃあアンタに出陣できるのか!遠征は! できないだろ!」
「兄弟、それは言い過ぎ」

ビシィ!とお玉を突き付けて宣言する山姥切に、わたしはわっと顔を手で覆って俯せた。
ひどいひどい!と足をバタつかせるわたしに、和泉守がおろおろして「お、おい 山姥切、それは言い過ぎだろ」とフォローしてくれる。さすが最年少、いくらイバっても心はピュアピュアである。

「ふむ… まあ確かに兄弟の言うことにも一理ある」
「まさかの山伏に追い打ちされた」
「カッカカ なにみわ殿、人には向き不向きがある。それは天の采配であり、かくあれという神仏の教え。適材適所と言う言葉もあろう」
「…はあ 国広兄弟はさあ、なんでこう審神者に厳しいかなあ… ねえ和泉守」
「俺にきくな」
「寂しいからゆで卵の殻剥きわたしの隣でやって。こっち、こっちにきて」
「ンでだよ。絶対邪魔すんじゃねぇか、断る!」
「こっちこい!」
「いやだ!!」
「兼さん、うるさいからそっちで殻剥いて」

そろそろうちの本丸には「堀川の一声」という格言ができてもいいと思う。テキパキとシチューを作る国広兄弟。厨につながる縁に座って、ブツクサいいながらひたすらゆで卵の殻を剥いている和泉守。その後ろで彼の方にだらりと腕を回し、椿の香りがする黒髪の頭に顎を乗せて傍観するわたし。…わたし本当に何もしてないな。

「罪悪感で死にそうだから仕事しに戻るわ」
「おーそうしろそうしろ、清々するぜ」
「和泉守」

そっと和泉守の手を取った。「あ˝?」とこっちを睨みつける和泉守を無視して、すうと手をこちらへと寄せて____ぱくりと半分殻のむけたゆで卵に頭から食らいついた。

「なっ」
「おお」
「…はあ」

「うまい」

もぐもぐしながら、和泉守が怒る前にダッシュで逃げた。一拍置いて和泉守が「みわァ!!!逃がすか手前ェ!!!」と怒鳴ったが追手はなかったのできっと堀川あたりに止められたのだろう。

もぐもぐしながら走る。廊下のひんやりとした空気が気持ちいいくらいだった。

(…夕飯楽しみだなあ)

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