刀剣乱舞 | ナノ

鶴丸国永が誂えた棺


「はー… つまらん」

死んだ魚のような目で、鶴丸国永が空を見詰めて呟いた。
___何を言ってるんだコイツ。無視して書類に視線を戻せば、隣に控える平野藤四郎もそれに続いた。二人揃って無視されたことが障ったのか、鶴丸はバタバタと両手足を暴れさせるという妨害(物理)に出た。

「暇だひまだひまひまひまひまひまひま ひまだーーーーーーーっ」
「うっさい、人の上で暴れるんじゃない!」

布団の下から足で蹴り上げようにも、鶴丸の重さに勝ってるはずもなく不発に終わる。
わたしの足に被さった布団の上に、我が物顔で寝転がっている鶴丸。大声で咎められたことが悔しかったのか、ぼすりとした顔を布団に埋めてしまった。

その一連の様子を見ていた平野が、まるでゴミを見るような目を鶴丸に向けた。頬顏に、「これが僕とおなじ皇室御物…?」と書かれているようだ。まあ彼の気持ちは良く解る。おい鶴丸、いまお前の株が平野の中でめっちゃ下がっているけどいいのか。

「きみは、いつになったらげんきになるだ…」

…諫める気持ちは、もごもごと聞こえてきた言葉に形を潜めてしまった。

柄もなく風邪を引いた。それが少し長引いた、それだけの話。
いままでなまじ元気に生きてきたため、続く床生活に心中穏やかではない様子の男士は多かった。わかりやすい例でいうと、加州清光と大和守安定が軽いヒステリーを起こした。医学に精通している薬研藤四郎から、医者の診断書を各人に根気強く説明してもらって、ようやく落ち着いてきた頃…それまでしれっとしていた鶴丸が、じわじわとダメージを受けてきたようだ。

「…鶴丸、」
「…」

声をかけるも、彼はフードを被って黙りこんでしまった。…だが、わたしの布団の上から退く気はないらしい。白饅頭と化した背中をぽんと叩いて、平野に目配せする。彼は呆れたようにため息をつきながら、書類をもって「お茶を淹れなおしてきます」と席を外してくれた。よくできた近侍で、主は大変うれしい。

(さて、あとはこの駄々っ子をどうするか、だな)

窮屈な戦装束で、何をしに来たのやら。足にかかる重さは、きちんと人ひとりぶん。

ぽんぽんと子供をあやす様に背中を叩いて、ぎゅうとフードを掴む手をそっと解く。構造が良く解らないグローブを二枚、冷たく節が張った手から抜き取った。フードを落とせば、布団に埋まる白い頭。その髪を掻きわけて首の鎖装束も外してやれば、そこで漸く白い頭が動いた。白い髪から覗く金色の目が、ちらりとこちらを見るので「外套、脱いで」とお願いする。

わたしの手を借りながら、鶴丸は緩慢な動作で外套を脱いだ。チャラチャラと騒がしい外套を適当に横に置けば、「ン」と鶴丸が無言で足を差し出してくる。重いなあと思いながら、脚絆の結紐を解いて脱がしてやった。そうして身軽になると気が済んだのか、ぽすんとまた布団の上に倒れてくる。
あ、とりあえず服は横に重ねて置いたから、自分で畳んでね。

「鶴丸が上に乗っかっていると、治るものも治らないなあ」
「俺が居よう居まいと、治るものは治るし、治らんものは治らんだろう」
「不治の病にかかったわけでもあるまいし」
「知っている、だがもしもということがこの世にはあるだろう。 人の子は特にそうだ、君の心臓が止まった時…“ここ”が一番、はやくわかる」
「…」

思っていた以上に、この鶴丸国永ナイーブになっていらっしゃる。

「…鬱丸国永」
「茶化すな、俺は絶対にここから離れんぞ」
「いやそれは別に良いんだけどさ、夜は布団持ってきなよ。流石に上で寝られるのは邪魔くせぇ」
「…良いのか?」
「悪い理由もない」

別に良い理由もないのだが。今更不安そうに尋ねてくる鶴丸の頭を撫でれば、もっとしろというように頭を擦りつけてくる。好きなように甘えさせながら、眩しそうな顔をする鶴丸を見て、ああなるほどと。言葉が胸に落ちてきた。

「わたしの刀にされて嫌なことなんてないよ」

わたしの指を握り締めて、掌に顔を埋めた鶴丸が「ああ、知っている」と誇らしそうに微笑んだ。

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