刀剣乱舞 | ナノ

不動行光の白川夜船


「______さっ   ぶ!」

からりと戸をあけると、一面の雪景色が広がった。
薄い足袋一枚でキンと冷えた内縁を歩く勇気はなくて、箪笥の奥からモコモコ靴下を引っ張り出す。上には歌仙手製(本人いわく暇つぶし)の袢纏を着込み、そろりと内縁をつま先で探る。冷たいが、これなら歩けそうだ。誰が見ているわけでもないがウンと頷いて、内縁へジャンプした。

冬の朝はお寝坊さんで、廊下と外を遮るガラス戸の向うはまだ灰色で薄ら暗い。耳を澄ませば刀剣男士の微かな話し声と、トントンという規則正しい音。暖かな食事の香りがただよってくる。

「みわちゃん、おはようございます! 今朝は珍しく早起きですね」
「おはよう、みわ!」
「鯰尾、獅子王 おはよう」

香りに誘われる様にして厨に向かう途中、開けた障子戸の向うから挨拶が飛んできた。
大広間へと繋がる6畳間に、鯰尾藤四郎と獅子王の姿があった。2人は既に内番着に着替えており、身体をコタツに埋めていた。そうコタツである、素晴らしき文明の利器である。あからさまに表情を変えたわたしを見て、鯰尾がにまあと揶揄う様な笑みを浮かべた。

「ン〜 入っちゃいますか? 流石の主もコタツの誘惑には勝てませんかぁ?」
「くぅ 悔しいけど勝てないっ 入る!」
「はいはい、一名様ごあんなぁい」

ウエイターのように仰々しく腕を振るう鯰尾に、獅子王がカラカラと笑う。向かい合う二人の間にある空席に潜り込もうと膝を着くと、炬燵布団からこぼれる紫色に気づいた。

「…ん?」
「あ みわ、そこ不動がいるから、こっちの方が良いぜ」
「え、髪しか見えないんだけど」

半信半疑で布団を捲ると、そこには本当に不動行光がいた。
突然ひゅるりと冷たい風が入って来て驚いたのだろう。「んがっ んだよぉ」と不動が目を覚ます。恨み節の目がわたしを認めて丸くなる。驚いている彼には悪いが、それよりも奥で丸くなっている銀色の物体の方が気になった。

「ちょまって、ちょ 鯰尾、中に骨喰いるんだけど」
「あー、いますよ? 骨喰コタツ気に入っちゃったみたいで『兄弟、俺は今日からこの家の子になる』って」
「骨喰は寒がりだよなあ」
「な、 なあなんだよぉ 俺がここにいるとダメなのか い、いじめるのか?」
「どこのシマリスくんかな? でもちょうど良いか、ゆきちゃん わたしもいーれて」
「おい!」

だがしかし許可など求めていないと、不動と机脚の間に体を滑り込ませる。窮屈で少し服が捲り上がったが、身嗜みなどコタツの温もりに比べれば安いものだ。足が獅子王とか鯰尾、骨喰(全身)に当たって「ちょっと」「みわ蹴るなよ」「せめぇ!」「まあまあ」…と、四苦八苦の末に体を潜り込ませることに成功する。

「ふぅ… ぬくぬく」
「…そうかよ」

不動が枕代わりにしていた二つ折りの座布団を奪い、コタツの中で体を丸める。そうして満足そうにするわたしを見て、寂しい俯せ姿勢に変更となった不動がぶすりと呟く。その横顔がいじらしくて、わたしは思わず…ぐいと不動の身体を抱き寄せてしまった。

「ッ  なあああああ!」
「ゆきちゃん怒るなよぉ〜 眠っている所を起して ごめんてばー」
「なっ 怒ってねぇ 離せっ こんなダメ刀にそんなことしてどうするんだあ!」
「あ、ポニーテール邪魔」
「んなあ!?」

ポニーテールの結び目を解けば、紫色の髪がわさわさと広がった。触り心地が良くなった不動の頭を撫でて、そのまま腕の中に収めてしまう。不動は、嫌だ嫌だと喚いたが、狭いコタツの中で主に対してできる抵抗等知れている。

「あー、不動ってば抜け駆けじゃん」
「っ ちげぇ! これは、こいつが勝手にっ…!」
「ハハッ よかったな、不動! 他の男士たちに見られたらぶん殴られるから、今のうちに堪能しとけ」

コタツの誘惑に抗えず、ウトウトと瞳を閉じてしまったので彼らの声しか聞こえない。
獅子王たちが「早起きは三文得ってな」「えー、じゃあ不動より早起きの俺たちにも何かご褒美ないとおかしいですよね?」「どうだろうなあ」と呑気な会話をしている。不動は落ち着かない様子でもがいていたが、やがて体の収まる場所を見つけたらしい。ぽすんと、頭をわたしの腕の上に預けて…戸惑い勝ちに、手をわたしの腰に回して、深い吐息と共に身を委ねてくれた。

(…あったけぇ…)

ぎゅうとコタツの中で抱き合って、わたしと不動は幸福な二度寝の夢に落ちて行く。

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