刀剣乱舞 | ナノ

夏とカルピスとホウ酸団子


「あ」

夏場であれば、それは仕方のないことだ。
グラスに氷をたんまり入れてカルピスを作っていると、影が視界を掠めた。黒くて触覚のある足の速い生き物の影、

カサカサカサと横切ったそれに「ゴキブリだ」というのと、夕飯の下拵えをしていた燭台切光忠の全身がぶわりと逆立つのは同時だった。





「…なにしているの、光忠」
「  ____  、うん」

一瞬にして厨を駆け抜け、土間へ茶の間へ、大広間の襖向うへと隠れてしまった燭台切光忠。
太刀の中でも大柄の部類である人型を器用に隠して、こっそりと此方の様子を伺う様は子どものようであった。…体の大きな幼女かな?

「<●>_<●>」 ジーッ
「ち ち、ちがうよみわちゃん、 やだなぁ、そんな目をしないでよ」
「……ア 光忠、足元にごきぶ」

瞬間、光忠の顔が絶望に染まる。
放送コードギリギリ顔で顕現させた依代を抜刀し「どこォォオ!!!」と怒鳴る様子は、正に鬼。

よもやうちの厨にはムシ嫌いの鬼が棲んでいたとは。
…例え、足が生まれたての小鹿のように震えていても、そこは見ないフリをしてあげるのが大人の対応。

そうやって暫くの間、狂乱する光忠を観察していると「おいうるさいぞ、光忠」と大倶利伽羅が現れた。
本当に、どこでもニコイチだな 君たち。

「ゴキブリ?」

わたしが頷けば、大倶利伽羅は呆れた様子でカルピスを飲んだ。
ねえ、それわたしの。

「くだらない… 別に珍しくもないだろう」
「ねえ大倶利伽羅、 くり、か、 それ、わたしのかるぴす…」
「だ、だって政宗公のお城にそんなモノはいなかった!」
「うるさい、怒鳴らなくても聞こている」
「別に怒鳴ってないよ!!!」
「わたしのカルピス!!!!」

光忠は大倶利伽羅に殴られたが、わたしには新しいカルピスを作ってくれた。

「うぐ…なんでなぐるの…」
「メソメソと泣くな、鬱陶しい」
「ぷはっ ふっふーん これが主たるわたしとキミの差だよ! 確かに男同士のマブタチ友情パワーは凄いけど、審神者と刀剣男士を結ぶ絶対的主従関係の前には無力なのさ!」
「っく こんなことが…!」
(また始まった…)

ドーンと掌を掲げて見せるわたしに、光忠は悔しそうな顔で膝を着いた。
大倶利伽羅は、一人黙々と新しいグラスにカルピスを注いでいた。どうやら自分の分を作っているらしい。

「…マァ、それはそれとして。ゴキブリ対策は必要だね、なにか良い案はあるかい 大倶利伽羅氏」
「ホウ酸団子」
「ハイ、準備開始!!」
「僕も全力でサポートするよ!」

やる気になった光忠が愛用エプロンを纏い、畑から収穫した玉ねぎをガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリと一心不乱に削るので、わたしと大倶利伽羅は必然的に捏ねて丸める係となった。触らぬ光忠に祟りなし。
共有エプロンを借りて、ホウ酸・小麦粉・牛乳・砂糖を用意する。

「大倶利伽羅、砂糖さんが留守みたいなんだけど知らない?」
「…蔵にあるはずだ、小麦粉も足らん。 持ってくる」
「お願いしまーす」
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

(集中しすぎでしょ光忠、… エ 顔こわっ)

ゴキブリを前にしては、国宝級のイケメンもこれほどに無力…。
我が家の残念なイケメン(刀)観察していると、大倶利伽羅が砂糖さんと小麦粉さんと連れて戻って来た。ついでに廃品回収に出そうと思っていた大きいボウルを調達してきてくれたので、その中に光忠の殺意がたっぷりこもったタマネギ(すりおろし)と、材料を加える。

「俺が混ぜる、アンタは水を入れてくれ」
「ウッス」

長手袋をした大倶利伽羅が、よいしょよいしょと混ぜてくれるので、その中に適宜水を加えていく。
出来上がったモノは、順にボウルから取り出してお団子状に丸める。遠征お弁当用のアルミカップにいれていくと、あら不思議! ホウ酸団子のできあがりである。

「これって、この後天日干しするんだっけ?」
「どちらでも良いはずだ」
「じゃあしようか。 野良やアホ刀が、つまみ食いしないようにしないとね」

「あ、美味しそう! お団子ですか?」
「月見団子か?」

「ほぉら来たよ、…鯰尾、ステイ!!!」
「ほっ!?」
「むっ」

案の定ホイホイされてきたのは鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎だった。
ステイを解くと、「なんで〜」と鯰尾が背中に凭れ掛かってきた。うざい、重い、邪魔の3コンボである。

「そこまでポジティブな自殺志願者もおるまい。 これはホウ酸団子、食ったら死ぬぞ」
「え、…刀剣男子(俺たち)でも、ですか…?」
「…!」

「止めろ、バカなこと言っている暇があるなら手伝え」

鯰尾のQAに、そういわれてみれば…!という顔をしたら、先にお大倶利伽羅から制止が入った。
はい、すみません。バカなことは考えません。

そして、そこはお手伝い大好きな脇差。二つ返事で了承すると、エプロンを手に準備を始める。
妙にスッキリした顏の光忠と鯰尾が器具を片付けている間に、骨喰が天日干し用の乾燥台を用意してくれるようだ。

「いっぱい、作りすぎちゃった。 もう1台くるよ」
「了解した」

カップを並べた盆を渡せば、骨喰が台にきちんと並べてくれる。
残りも持っていこうと手を伸ばしたが、大倶利伽羅が「俺がやる」というので任せることにした。大倶利伽羅と骨喰がホウ酸団子を天日干しをしてくれている間に、すっかり氷が溶けてしまったグラスを洗って新しくカルピスを注ぐ。

「みわちゃん、ソーダ割にする? それとも水割り?」
「あ、僕この前牛乳割りもしてみたけど美味しかったよ」
「いや、わたしは決まって、」

「氷たっぷり濃いめのカルピス」
「氷たっぷり濃いめのカルピス」

二人がまるで示し合わせたように言うので、驚いて言葉が引っ込んでしまった。
目を丸くするわたしに、鯰尾と光忠が楽しそうに笑う。…あ、そういえば大倶利伽羅が作ってくれたカルピスも氷がたっぷり入った濃いめの味だった。

思い出すと胸のあたりからじわじわと熱が込み上げてくる、これは夏の暑さではない。
にやつく口元を抑えるも、目敏く見つけた鯰尾が愉しそうに目元を明るめて覗き込んできた。

「みわちゃん、照れてる?」
「テレてない」
「あ、これは照れてますねぇ。他にもみわちゃんの好みケッコー知ってますけど、教えてあげましょうか?」
「いらん!」
「みわちゃん、顔が真っ赤だよ。そんなに照れなくても良いのに、ねぇ鯰尾くん」
「しらん!」

追究されることすらむず痒い。誤魔化すようにして、カルピスをごくりと飲み干す。
机に戻したグラスの中で、大きな氷がからりと鳴いた。

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