刀剣乱舞 | ナノ

御手杵と薬研藤四郎でブラック本丸について考えない




「ブラック本丸ってどんな感じなんだろうな」

本丸は、基本的に現世と隔絶されている。
だから、刀剣男士たちが世を知るための媒体といえばテレビ・新聞・書籍、インターネットが主流だ。だが、どれも政府の検閲が入るので、得たい情報がそのまま手に入るということは稀である。…それではつまらないではないか!と、どこぞの鶴のように声をあげた有志の審神者が、わたしたちを取り巻く世情や刀剣男士の面白いアレコレを惜しみなく文面化した情報誌を作り上げた。

日刊・Toらぶ。
間違っても、ちょっとえっちではれんちなアレではない。読み方は、トウラブ。新聞である。

それを見ていた御手杵が、なんとなしに呟いたのだ。
肘をついて頬をぶちゅっと潰しながらいう彼の顔には、心ここにあらずと書いてあるようだった。わたしは一期一振の『愚連隊の鉄砲野郎』と書かれたTシャツを畳んでいた手を止めて、隣でちょこんとすわった薬研を見る。薬研は前髪をうさぎちゃんの輪ゴムでちょんまげにして、兄弟のパンツをせっせと畳んでくれていた。

「ブラック本丸か…男士に夜枷を命じたり?」
「大将、夜枷なんて難しい言葉知ってたのか。驚いたぜ」
「薬研はわたしのことなんだと思ってるの。知ってるよそれくらい」
「じゃあ具体的になにするかわかるか?」
「セクハラ禁止!」

いやああと取り敢えず一期一振のパンツを御手杵に投げて置いた。
セクハラ禁止!いま!いまこそこれがブラック本丸!

「ハッ! でもこの場合は男士から審神者に対してブラックだから…なんていうんだろう」
「知らん」
「そうか…薬研も知らないかあ。難しいねブラック本丸」

御手杵の顔からパンツを回収して、洗濯物を畳む作業に戻る。ちょっとパンツに御手杵の涎ついてたけど、問題ない問題ない…。

「うーん、他には…遠征・出陣を繰り返して、手入れしない…とかかな」
「だとすると風呂に入れなくなるな。…元々刀剣である俺たちに対して、それは苦行になるのか? いや、ならんだろ」
「うわあ。風呂好きの日本人が鍛刀したとは思えない付喪神様だな。わたしお風呂入れなかったら死んじゃう、お布団入れない」
「なんかみわ向けのブラック本丸を作るのは簡単そうだなあ」
「なにそれなんかムカつく。 ムカつくから、ちょっとブラック本丸やってみよう。 3、2、1、フィクションで開始ね」
「おい御手杵の旦那が余計なこというから、面倒なのが始まったぞ」
「え、俺の所為?」
「さあ、位置に付いてー」
「あれ、これ競争だったのか」
「よーいの、3、2、1、ハックション!」
「ネタ混ぜすぎて良くわからなくなってるぞ、大将」

横やりの激しい二人、一人は槍だけにゴホゴホ…を無視して、わたしは持っていた洗濯物を薬研の頭にはらりと被せた。

「もー洗濯物畳みたくなァい。アンタ全部やっておいてね。あ、ちなみにソレ全部終わるまでご飯抜きだ、 か 、 ら   ぶふぁああああああ!」
「自分で笑っちゃ意味ないだろう」
「おいおい、ブラック審神者が自滅したぞ」

ツンとした演技をしたのに駄目だった、真剣過ぎる自分が可笑しくて吹き出してしまう。
腹を抱えてヒーヒーするわたしに、薬研が頭に被せられた洗濯物をべしりと投げ返してきた。そのまま二枚三枚と投げて来るので「やめて!」と声をあげる。

「ちょ、洗濯物で遊ばないの…ふー、あー楽しかった」
「始まってもない」
「大将、基本的に飽き性だもんな」
「それじゃあ意味ないだろう、もうちょっと頑張れよ」
「えー…じゃあ、今度は薬研が審神者役ね」
「審神者役は交代制だったのか、こりゃ畏れいるぜ」

投げられた洗濯物を畳みながらバトンパスすると、薬研がウンと唸った。暫くして「よし」という、一応乗ってくれるらしい。ごほんと丁寧に間を挟んでから、御手杵を指差した。

「おい、そこの物干し竿」
「お、俺か」
「デカイばかりで能がないアンタはさ、視界に入るだけで気分が悪りぃんだよ。刺すことしかできない役立たずは、大人しく庭で突っ立っててくれねぇか」
「うわ、すごいゲス顔」

まるで道端のゴミを見るような目だった。
見たことのない薬研の顔に、演技と解っているが心臓がピャっとした。ピャっとしたよ、そんな薬研くん解釈違いです。正直前髪をうさぎちゃんの輪ゴムでちょんまげにしてなかったら、心臓発作で倒れてたかも知れない、うさぎちゃんありがとう…。かわいい…。

対する御手杵は、気分を悪くした様子もなく。むしろ、待ってたよコレコレ!と言わんばかりのウキウキ笑顔で「わかった、外だな」といそいそと立ち上がる。マジか。

「で、どうすればいいんだ。俺は物干し竿だから、洗濯物を干せばいいのか」
「おうそうだな、好きにしたらどうだ」
「わかった!」
「わかっちゃうんだ。   …うわ、スキップしてるし」

ルンルンタと洗濯場に向かう御手杵に、心の中で洗濯当番の左文字兄弟に合掌した。あわれ飛び火。マジだった、そして彼はマゾだった。

「どうだ大将、少しは見本になったか」
「え、見本ってことは本番あるの? なんとなくイメージは解ったけどさ」
「そうと決まれば、いっちょやってみるか。鶴丸のじーさんじゃないが、本丸に驚きを齎すとしようぜ」

「あ、いたいた。やーげん、あ、みわちゃんもいる」
「みわか」

なんて話をしているところに、タイミングよく鯰尾と骨喰がやって来た。
カモが葱しょって来たぞ。きらんと光る薬研とわたしの目をみて、二人が不思議そうに顔を傾げた。

「ねえ、鯰尾、骨喰」
「なんですか」
「なんだ」

「審神者の臣下であるはずの貴方達がそうして遊んでいるのに、どうしてわたしはこんな雑用をさせられているのかしら。これってとってもおかしくなあい?」

ニッコリと笑えば、後ろで薬研が「んっ、ンン˝!」と咳払いをした。
笑ったのを誤魔化したな、こいつ。そんなことを思いながらも表情を崩さずに様子を窺うと、鯰尾と骨喰がぽかんとした顔でわたしを見ていた。うん、なんかいい感じだぞ!掴みはオーケー!

「アーア、手ぇつかれちゃった。足もパンパン…ねえ、何時までどこでボウと突っ立ってるつもり?」
「エ ア、あー…っと、あの、代わりましょうか?  …で、良いんだよね、骨喰っ」
「! お、俺か…あ、い、良いんじゃないでしょうか」

骨喰が敬語で喋った。
動揺しているのか、ゴニョゴニョと口籠る骨喰に、内心大爆笑である。今にも口から飛び出しそうになる笑いを、腹に力を込めて必死に堪える。こっちは必死に耐えているというのに、後ろに隠れていた薬研は早々に畳に突っ伏しやがった。ちょっと、バレるでしょ!もうちょっと耐えてよ!

「きっ…ぶ、…あ、―――こほん。 なら早くしてよ、何時までわたしを待たせるつもりなの」
「あ、えっと…ご、ごめんなさい。 …っていうか、みわちゃん?みわちゃんだよね、どっか頭打った? いたいのいたいのとんでけーってしますか?」
「子どもか、わたしは」
「いたいのたいのたとんでいけいたいのいたいのとんでいけ」
「ちょっと答える前にやらないでよ、必死か! 骨喰必死かっ あと薬研は笑い過ぎ!」
「ぶはっ あ、あははははははは! はらが、はらがねじれるっはらがどっかいっちまう!」
「いかねえよ!」

ガバーッと薬研の上に覆い被さり、こしょこしょと脇腹を擽ってやる。
「やめてくれたいしょう!こうしょうだ!」と薬研が悲鳴を上げたが、それでも止めないでこしょこしょしていると、…がばりと、わたしの脇腹を後ろから捕まえられてしまう。

「ひい!」
「なぁぁぁあに、薬研と楽しい事してるんですか、みわちゃん…? 俺たちめちゃくちゃビックリしたんですけど!」
「え、あ、鯰尾。やめ、やばいって、ぶは、はは、そこ、くすぐ、ごめ、ごめ、あははは!」
「くっそぉおお〜〜〜っ 一瞬でも騙された自分に腹が立つっ!」
「ああははは、ごめ、ごめ、はは、  やめ、やめてーー!」
「兄弟、次は俺だ。 みわを許すな」
「うそでしょ、 ぶ、は、 あはははは!」

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