刀剣乱舞 | ナノ

獅子王と学ぶイエグモが出たときの対処法について


「…」
「…」

わたしと獅子王の間に、重い沈黙が流れる。
二人の視線の先には畳、そしてその上に不自然にうつ伏せられた茶器。

「…」
「どーするよ、これ」
「いや、わたしに言われても」

ことの采配を丸投げしてくる獅子王に、慌てて首を振る。いや、こんなんわたしもわかんないよ!

「よもや、…獅子王と談笑中に突然クモがあらわれて、偶然にも居間に置きっぱなしだった茶器で捕まえてしまうとは思いもよらなかった。人生って楽しい」
「すげぇ説明口調だな。てか、やっぱそれ歌仙のっぽいぞ。領収書アイツの名前だし」
「あの似非雅なーに給料でしょうもないもん買ってんだ。だったら皆で遊べるゲームソフトのひとつ買えよ」
「有意義かどうかを言ってるならどっちもどっちだと思うぞ。てか、マジでどーすんだよみわ!このまま放置したらゼッテー歌仙怒るぞ!」

そんなことは百も承知だ。だが、この茶器を開け放つ勇気はわたしにはない。
そろりと「やるか…」と茶器に手を伸ばす獅子王の手を無言で叩き落とし、わたしは思考を重ねる。

「ってーな、なにすんだよ」
「ちがう。わたしは君を助けたんだ、あのまま迂闊に茶器を開けてみろ。いまごろ君の手はクモに食いちぎられていたぞ」
「ま、…マジかよ…」

震撼し、くらりとよろける獅子王にわたしは神妙な顔で頷いてみせた。
内容に関しては、もちろん嘘であるがバレなきゃ問題ない、

「そ、そうか…助かった。恩に着るぜ、みわ」
「どうってことない。わたしたちは戦地をともにする仲間じゃないか」
「っ、みわ…!」
「獅子王…!」

場の空気でひしっと抱き合っていると、通りすがりの王子に「なにをしているんですか…」と不審者を見る目で言われた。

「はあ…なるほど。蜘蛛ですか」
「ああ、危ないから近づくな。アンタにケガをさせたとなると、いろいろ面倒だからな」
「主に資材的な意味で」
「みわ殿は正直でいらっしゃる。まあ、わたしはそういった類いは不得意なので、どのみち近づきもいたしませんがな」

アハハと笑う一期一振に、わたしと獅子王はアイコンタクトを交わした。
こいつは役にたたないから無視しよう、わかったぜ。わたしと獅子王はマブタチである。

「どうすればいいかな。ていうか、クモってどうすれば死ぬの?潰すの?」
「えー俺イヤだかんな」
「以前に拝観させて頂いたどらまなるものでは、こう…新聞紙などを丸めて一閃しておりましたよ。いやはや、ほれぼれする太刀筋でした」
「イチゴさん、それフィクションや。現実とちゃうねん」
「水攻めにするのなんてどうだ。こっちからこう…水ジャバーっと」
「ばか、おま、おまえばか獅子王ばかシシトウ。そんなん畳びしょぬれになってもっと怒られるだろう!」
「そうですよ獅子王殿。みわ殿が年甲斐もない粗相をしたと翌日には本丸中の笑いのネタにされてしまいます」
「あ、わたしがしたことにされるのは決定なんだ」
「ったりめーだろ、俺や一期がンなガキみてぇなことすっかよ」
「そうですよみわ殿。 あ、主殿には難しくて未だ解らないかもしれませんが」
「獅子王はともかくとして、おいそこのメロンイチゴ。手前その人をなめたような口は素か?それとも天然か?前者だったらたたじゃすまさねーぞ ア˝ン?」
「ひっ やめてくだされっ この身は皇室御物ですぞ!」
「イチゴかメロンかはっきりせーよ!ねーちゃん!!いてまうぞ!」

不良に襲われたJKのように振舞う一期一振の胸倉を掴んでカツアg…軽く揺さぶっていると、問題の歌仙兼定がやってきた。まったくタイミングの悪い男である。

よよよと、御代官に無体をされようとしている村娘宜しくすすりなく一期と、それに跨ってアントニオ・猪●のようなファイティングポーズを決めるわたし、畳に花を抜いた花瓶をひっくり返そうとする獅子王のトリオの図はなんとも奇怪に映ったに違いない。

酷くめんどくさそうな顔をする歌仙兼定に、わたしは機転を働かせた。
ここは審神者として、ひとつ場を和ませるジョークでもいうべきか、いや、いわざるをえない(反語)。

「でたなカネゴン!本丸の資金を貪り食うのもそこまでだ!!」


「_____ほう?」





直後、わたしの世界は真っ黒に染まった。
どこからともなく流れてくる音は、久しぶりにゲーム機にセットしたカセットから、おきのどくですがぼうけんの書が消えてしまったアレな音だ。…という冗談はさておき、歌仙兼定(本体)で主を殴るのはいかがなものかと。いかがなものかと、わたくし審神者は声を大にして付喪神に問いただしたい。

「みわ、きっとアレだ。カネゴンって言ったのが悪かったんだよ。之定は流行に早いところがあるから、ウルトラマンQじゃなくて、ギンガとかが良かったんじゃねーかな」
「うぐ…ぜ、ぜんしんからぎんがえすぺしゃりーとか打ちたかったのかな?」
「そうだって、だってアレちょーカッケーもん。粟田口のチビ達も『やりたい!』って言ってたしさ」
「わかった…じゃあ、…ねえ、ゼットン星人カセン、わたしが悪かったから仲直りしましょう」
「君は一度、謝意と言う言葉を辞書で引け」

しゃい…シャイ…シャイボーイ?
こてんと獅子王と一緒に小首を傾げ、いそいそとスマフォで単語検索をしている後ろで、歌仙兼定はすこし目を離したすきに無残な姿となりはてた愛おしい子の陰惨な様に男涙を流した。

「くっ…僕が目を離さなければこんなことには…!」
「歌仙殿…心中、お察しいたします」
「同情はよしてくれ、一期殿。これも僕の油断がゆえ。そして____」

すらりと歌仙が覚悟を決めた武士の顔で本体を抜刀した。

「____雅を解さない主の罪。 さあみわ、首を差し出せ」
「まままま待って歌仙、おちついて話し合おう。話し合えばわかる、だってわたしたちは人のかたちをしているんだもの!」
「僕は刀だから人間の言葉は解らない」

「こんなときばっか刀ぶる! あ、ごめ、ちょうそですやめ、アーーーーー!」

木霊する主の断末魔に、一期一振と獅子王は静かに合掌した。
主、ここに眠る。

「で。結局どうしますか、コレ」

一期一振がついと指さす先には、ぽつんと変わらない茶器の姿。歌仙兼定は顎に手を擦らせてうねった。

「そうだねえ…。普段ならゴキジェットとか使うところだけど。茶器に対してどんな作用があるか解らないものはあまり使いたくない」
「お恥ずかしながら。わたしもこういったことは不得意でして…。燭台切殿をお呼びいたしましょうか」
「いや、彼は強がっているが、こういうものは苦手でね。 茶器を取って、クモがどこかに消えるのを待つのが一番手っ取り早いかもしれないね。無暗に命を奪うのも雅じゃあるまい」

そういって茶器を取ろうとする歌仙から、一期一振はすうと膝をたててすさああああと後ろに下がった。
対して、歌仙にしぼられぐったりしていたみわを扇いでいた獅子王がギョッとした顔で歌仙を止める。

「だ、ダメだダメだ之定! ンなことしとしたら指をくいちぎられっぞ!」
「は、はあ? 指を? 獅子王殿、そこのうつけになにを言われたのか知らないが、イエグモにそんな力はないよ」
「いやまて。昔じっちゃんが言ってたんだ」

イヤに気迫のある顔をする獅子王に、歌仙もなにやら事が重大な気がしたごくりと息を呑む。
一期一振はアこれ長くなるなと悟り、そっと何食わぬ顔で部屋を後にした。

「じっちゃんのじっちゃんのそのまたじっちゃんには…大きなクモの化物を退治した武者がいてな。伝え聞くに、そのクモは虎の胴体に長い手足と、山をも覆い隠す様などでかい図体をしていたらしい」
「いや…獅子王殿。それは妖怪変化の話だろう。これはただのイエグモだ、そんな代物じゃあないよ」
「____なぜ、そう言い切れるんだ」

歌仙と獅子王の視線が重なる。

「ここは、審神者の霊気と刀剣男士(オレたち)の神気が渦巻く領域だ。イエグモが魑魅魍魎に変化してもなんら不思議はねぇ」
「た、確かに…だが、その可能性はゼロに等しいだろう」
「言い忘れたが、…さっきな。みわが、俺が茶器を開けようとした時に酷く怯えたんだ。審神者とは神秘を見定めその正体を明かすもの。もしかしたら主は…この小さな茶器の中で妖気を渦巻かせて復讐の機を探る化生蜘蛛に気づいたんじゃないか」
「なん…だって…!」

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「ていうか普通に考えてそれウソだから。えい」
「あ」
「あ」

むくりと起き上がったみわが普通に茶器をあけて、普通に這い出てきたクモを素手で潰した。
余談だが、そのあとみわは二週間ほど、歌仙と獅子王に手を繋いでもらえなかったとか。

「理不尽だ」

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