刀剣乱舞 | ナノ

燭台切光忠のハシゴ乗りチャレンジ


「またれよ、そこなタヌキ」
「アァ?」

ぴしっと同田貫を両手で制止すると、彼は柄こそ悪いが無視することなく応えてくれた。
同田貫のこういうところが好きだなあと思いつつ、ドカタの兄ちゃん宜しくな恰好をしている同田貫に寄った。

「どこでなにするの?」
「この前の嵐で本丸の瓦が吹っ飛んだだろ、御手杵と直す」
「わたしも手伝う」
「あぶねぇから大人しくしてろ」
「手伝う」
「何が欲しい」
「終わったら、そのハシゴ貸して」

お手伝いの名目に隠れたお願いを口にすると、同田貫は怒った風もなく「わかった」と承諾してくれる。
がしがしと乱暴に頭を撫でられると、彼の衣装からはうっすらと太陽の香りがした。





「そうして手に入れたのが、この梯子です。えっへん」
「うんうん、良くわかったよ。じゃあ梯子をこっちにもらうね、君がもっていると今にも倒れそうで見てられない」
「このくらい持てるんだが?バカにしてる?」
「してないしてない。 伽羅ちゃん、みわちゃん抑えてくれる?」
「おおおお倶利伽羅ァ!」

奪われまいと抵抗するも、虚しく。
あっさりと大倶利伽羅に体を取り押さえられ、光忠に梯子を没収された。くやしい。

「で、これをどうするつもりだったの?」

大倶利伽羅の膝の間に囚われたまま縁側に座る。光忠が梯子を見分しながら訊ねてくるが、素直に教えるのも癪でケッとそっぽ向きながら答えた。

「ちょっとサーカス芸が見たくなっただけだし」
「さーかす」
「なんだそれは」

小首を傾げる二人に、今度はわたしが首を傾げる番である。あれ、知らない?
サーカスがどういうモノか説明すると、光忠がああと思いついたように声をあげた。

「あーなるほど。 もしかしてみわちゃんが見たいって言っているのは、梯子乗りかな」
「はしごのり」
「町火消の芸だ。江戸町ではよく、見世物として梯子の上で芸をする」
「そ れ だ」

大倶利伽羅の補足に、後ろを向いてパチンと指を鳴らす。それだそれ!
朧な知識が名前を得て定義される瞬間はとてもスッキリして、心地よい。満足して頷くわたしを、大倶利伽羅の金色の瞳がじっと見つけてくる。視線を合わせれば、「見たいのか」と訊かれた。

「うん…そりゃあ、見たいけど」
「__だそうだ、光忠」
「オーケー。 うーん、でも流石に一発でキメるのは難しいかも」
「え、  えっやるの!? そんな一言返事で、いいの、いけるもんなの?」
「そのつもりで来たんじゃないのか」

梯子片手にスタスタと移動し、場所取りを始める光忠にギョッとする。
確かに大倶利伽羅の言う通り、その希望がなかったとは言わないが。いや、しかしこんなにあっさり行くとはね、審神者思いもしなかったのよ。

「あぶないよ!ケガするかもよ!」
「大丈夫、僕は人間じゃないからね。まあ、最悪骨折して内臓とか出ても手入れしてもらえれば元に戻るし」
「いやいやいやいや、その骨折して内臓ぶちまけたグロ死体を手入れする審神者の気持ちも考えテ、ひっ、ア、だめっ !」

制止も虚しく、光忠の身体がふわりと浮いた。
適当に立てているだけの梯子にタンタンと足をかけ、上へ上へと。まるで見えない糸に吊り上げられているかのように上がっていく。あっという間に庇の高さを超えてしまうから、もう見ていられなくて手で顔を覆い隠した。その瞬間、頭上で大倶利伽羅「ああ」と声を漏らして。ああってなに!?ああってなに!?
わたしの焦りを他所に、一瞬置いてぱしんっと何かが地面に打ち付けらえる音がした。

(ひいいいいいなんんてリアル恐怖体験んんんんn)

「…うーん、やっぱり一回じゃ上手くいかないか。悔しいなあ」
「代わるか?」
「ううん、要領つかめた気がするから大丈夫」

呑気な会話に顔を上げれば、光忠がジャージを脱いでいた。え、なに。
脱いだそれを丁寧に畳み縁側に置く。シャツ姿で軽くストレッチをした後、きゅっと手袋を直して「よし」と梯子を持ち上げた。ああ…また始まってしまう。ハラハラとそれを見守っていると、大倶利伽羅に「もう少し落ち着け」と怒られた。いや、だって!正直、大倶利伽羅が腹に手を回してくれていなかったら、いますぐ飛び出して光忠を物理で強制退場させていたよ!?

「で、でも、だ、」
「始まるぞ」
「うおおおおお怪我しないでねええええ」

自分で撒いた種のくせに情けない。どういうマッチポンプだコレ。
叫びに近い声援であったが、光忠は嬉しそうに笑った。あ、かっこいい。そして次の瞬間、再びたんっと大地を蹴る。

______そこからは、息をつく暇もなかった。
たんたんと、ひとつふたつ。また光忠の足が足かけを駆けのぼる。庇を超えて、瓦屋根を超えて。そおうして気づけばあっというまに梯子の頂点に到達してしまう。彼が駆け上った梯子は、まるで視えない誰かが支えている様に安定していた。一瞬の軌跡に開いた口が塞がらない、目の前の景色に呆然としていると…あろうことか。光忠が軽い掛け声ともに倒立して見せた、梯子の頂点で。梯子の、頂点で。

「くぁwせdrftgyふじこlp〜〜〜〜〜!!!」
「なんだアリャア」
「うへぇ〜 なんだかすごい事してるな」

どこからともなく現れた御手杵と同田貫が驚嘆する。
二人の言葉に調子に乗ったのか、梯子の上で開脚旋回とか始めた光忠に心臓が止まるかと思った。やめないさい!いますぐやめ、やめな…やめなさ…いや、梯子すげぇ安定してるなオイ。

梯子に慣れたのか、余裕の軽業を披露する光忠、上がる歓声と拍手。
わたしはだんだん何を見せられているのか分からなってきて、最後の方はほぼ真顔であったと思う。

「どうだいみわちゃん、ご期待に答えられたかな」
「うん…うん、でも取り敢えずもう二度とやらないで」
「エ」

分かったのは、この遊びはひどく心臓に悪いということ。これは悪い遊びだ、封印しなければならない。次からこういったものが見たくなったときは、素直にサーカスに行こうと心に誓った。


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