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ワタルが眠っている彼女を現場に連れてきたはなし


※蒼海の王子のパロディ要素を含みます





深夜、生き物はみな寝静まっている頃合い。

それはわたしも例外ではなく、昼間お仕事で疲れ切った体をお風呂で溶かし、暖かいごはんで胃を労わってから眠りについた。そんな一番深い眠りについて夢も見ない午後4時に、それは前触れもなく訪れた。

プルルと震える端末、目覚ましの音ではない着信音だ。社会人として染みついた悲しい習性に促され、もそりと起き上がる。眠気眼では液晶を見ることすらできず、とりあえず応答ボタンを押した。

「はい、ミシャ…です」
__「夜遅くにすまない」
「…?」

誰? 耳から放して液晶を見るけれど、良く解らない。すると電話の向こう側の人はそれを察したように、「ワタルだ」と言う。…ああ、ワタルさん。

「ワタルさん、…」
__「ああ、… ミシャ、寝ぼけているのか。いや、こんな時間だから当然か」
「ねて、マス」

辛うじて電話にでているが、いまも八割方は睡眠中といったところだ。気を抜けば夢の中に落ちてしまいそうなのを堪え、意味もなくうんうんと頷く。

__「寝ているところ悪いが、少し付き合って欲しい」
「つき、あう… かのじょ、に」
__「それは数年前に済ませたな。今から行く、できれば起きていてくれ」
「ん…」
__「無理そうだな、いい合鍵で入る。覚えていないかもしれないが、一応伝えたからな」
「あい…」

ぷちんと電話が切れたので、ぽとんと端末をベッドに落とす。籐の籠のベッドで眠っていたチュリネが起きたようで、ふわふわと軽い体で宙を舞いわたしのベッドにやってくる。

「チュリリッリ」と鳴いているが良く解らない。とりあえず顔を両手で揉んであげながら、すこんと眠りの中に落ちた。言い訳をするなら、わたしは眠ると中々起きられない体質なのだ。

「ミシャ」

パチン。と、ゴムに意識を弾かれたような感覚。…あれから、体感で一秒も経っていないような。

いつの間にかベッドに沈んでいた体、まだ枕の中に埋もれていたくて再び瞼を閉じようとした。だがそれはわたしの身体をベッドから引き上げる手が許さなかった。

「ミシャ、起きてくれ」
「…」
「…ミシャ?」

「…… …… …?」

眠い顔を顰めるわたしに、自称ワタルさんが「ダメだな」と見切りをつける。

その後、わたしをベッドの端に座らせて「着いてきてくれ」「着替えは」「ああもうパジャマのままでいい」「せめて上着」「君が良く着ているあの上着はどこだ」とか、バタバタ忙しなく動く。

わたしにはちょうど良い狭さのアパートだが、身体の大きなワタルさんが動くととても狭く思える。小さな家の中で大きな人が体を縮こませて動いている様子は面白くて、フフと笑えば「何を笑ってるんだ」と言われた。

「もういい、これを着ていろ」
「んー…」
「チュリネは留守番、いや連れて行くか」
「ちゅりね は、いつも いっしょ」

何かを体にかけられて、きゅうと首の辺りを絞められる。なんだこれ、ああワタルさんのマント…。チュリネが「チュ!」と嬉しそうに飛び跳ねてわたしの肩に乗った。

チュリネを戻したモンスターボールはワタルさんが預かってくれるらしい、そのまま手を引かれて歩いたが余りの遅さにしびれを切らしたようで抱えあげられた。わたしを包んでくれるワタルさんのマントは、水と土の香りがして心地いい。抱っこしてくれる彼の体もぽかぽかで、まるでお日様にだっこされているみたいだ。

「カイリュー、ミシャも乗せてくれ」
「フォルル」

エレベーターに乗ると、なぜか一階ではなく最上階へ移動した。アパートの最上階には『そらをとぶ』が使えるポケモン専用の屋上ヘリポートが用意されている、そこにぽてんと座って待っていたカイリューはワタルさんに抱えられたわたしを見て笑顔で快諾してくれた。

カイリューが乗りやすいように屈むと、ワタルさんの腕から降ろされる。山吹色の皮膚はよく見ると透明な鱗に覆われていて、彼らの鱗は特別であるとワタルさんに教えてもらったことを思い出す。

マルチスケイルと呼ばれ、カイリューだけが持つ万難百害を跳ね除ける秘色の鱗。

ありがたいなあとナデナデしたら、カイリューは嬉しそうに鳴いてくれたが、後ろのワタルさんに「早く乗れ」と怒られてしまった。もう怒りん坊なんだから、ねえカイリュー。

その様子を見て埒が明かないと踏んだのか、わたしの目が覚めることを諦めたのか。ワタルさんはカチャカチャと何かを弄り始める。

「ミシャ、もういい。俺に抱きついてくれ」

ふむ、それなら得意だ。良く解らないが大人しく従う、わあワタルさんの身体大きい、背中まで手が届かないね。そうしている内に腰に何かを撒きつけられ、ぎゅうと思い切り締め付けられた。

「うぐ」
「我慢しろ」

どうやらスーツのベルトで、自分の身体にわたしを括りつけたらしい。わたしを抱えあげてカイリューに括りつけられたライドギアに乗ると、手慣れた様子で落下防止用のループをかける。

「速度は落とすが、あまり動かないようにしてくれ。2人乗りはカイリューも慣れていない」
「___」
(…この状態でもなお寝るのか)

ここまでくると、呆れを通り越して感心すら覚える。寒くないようにミシャの羽織るマントの襟元を寄せてやりながら、凭れてくる小さな体に抱え直す。

逆手でカイリューの頸を撫でて合図すれば、山吹色の翼がゆるりと持ち上がった。翡翠色の飛膜が広がり力強い羽ばたきと共に、カイリューの身体が浮き上がる。





____事の発端は、夕方リーグ宛に届いたポケモンレンジャーからの救援要請であった。
ホウエン地方に伝わるとあるポケモンのタマゴが、海流に流され行方不明になってしまったという。レンジャー本部の必死の捜索により、タマゴは現在カントー海域に漂っていることが解った。

元々暖かい海域を好む特性があるようで、ホウエン地方が季節違いの大寒波に見舞われたことで海水温が一気に低下したことが原因らしい。

INGOであるポケモンレンジャーは、国連に加盟している地域であればリーグに要請せずとも海域探索が可能だ。だが今回態々リーグの、それもワタル宛に要請が来たのは他でもない。

レンジャー以外にも、そのポケモンを利用しようとしている犯罪組織がタマゴを追っていた。彼らより早くタマゴを回収する必要がある、そして万が一にも犯罪組織の手にタマゴが渡ってしまった場合、ある程度の実力行使が必要となる。

そういったいくつかの条件において、確かにワタルは経歴や実績を鑑みても最適な人選であった。ワタルはこれを二つ返事で了承したし、少数のリーグスタッフを集め緊急対策チームをまとめた。その後、エスパータイプのスペシャリストで、自身も超能力者であるイツキの“瞳”も借り、件のタマゴ捜索と保護に乗り出した。

だが_____結果は、あまり芳しくないものとなる。タマゴは一度犯罪組織の手に渡り、奪還するための戦闘の中でそのタマゴ…海の皇子と呼ばれる、ポケモンは産まれてしまった。正しくは、海の皇子と呼ばれるポケモンの同種個体、透明な皮膚に穏やかで暖かい南の海を閉じ込めたようなポケモンをフィオネと言った。

目覚めてすぐに相手のポケモンが操りだしたでんき技を受けてしまったフィオネは錯乱状態に陥り、本来の棲家とも異なる森の奥深くに逃げ込んでしまった。犯罪者を捕らえ警察に引き渡した後、リーグスタッフとレンジャーは深夜に関わらず総出でフィオネの捜索に入った。

だが、漸く見つけることができたフィオネは大樹の深い洞で怯えてしまい、出てくる様子を見せない。幸いにも彼らが生来持っている水のバリアのお陰で、攻撃を受けたことによるダメージは浅い。

だが問題はメンタル、心に負った傷であった。海を生息地としているため長く森の中にいることも良くないため、彼をどうにか救出できないかとレンジャーとリーグスタッフは意見を交わした。

「どうか無理に暴くようなことはせず、優しく保護することはできないでしょうか」

元々フィオネのタマゴの所持者でもある海の民のマリーナの希望はこうだ。
なるべく彼らの意向に沿いたいというのはリーグの意見もあり、傷心したポケモンの扱いに慣れているポケモンセンターのスタッフを呼んで試みた。だが結果は同じ、フィオネは依然と引きこもったままだ。

「フィオネが追っている心の傷は深いです、癒しの力がもつポケモンたちに協力してもらって2〜3日ゆっくり時間をかけてケアするのが最適だと思います」
「そんなことは解っている、だがフィオネがここにいると知れればまた悪いヤツらが来るかもしれない。フィオネを欲しているのはファントムだけじゃないんだ」
「事情はわかりますが、フィオネのことをも考えてあげてください」
「考えているさ。 もし自分の所為でこの森一帯が焼け野原になったら、フィオネはどう思う? 俺たちが相手にしているのは、目的のためなら手段なんて選ばないような連中だぞ」

フィオネ救出にあたっていたレンジャーであるジャック・ウォーカーの言葉には、確かに頷けるものがあった。そういった犯罪者たちには、ワタルも良く覚えがある。だがポケモンのことを第一と考える医師(ジョーイ)の言も決して無視できない。

「難しいですね。フィオネの身体と心に傷をつけることなく可能な限り早く連れ出す方法、ですか」
「ああ、情けない話だが俺はそういったことに不向きだ。君にアドバイスを頼みたい」

ワタルに依頼されたイツキは、ふむと口元を指で探った。

「最初に思いつくのは眠り状態にすることですが、あの水のバリアがある限り難しいでしょう」
「それほど強力なものなのか」
「はい、生まれたばかりの幼体とは思えないほど大きなエネルギーが渦を巻いています。あれを突破するとなると、それなりにこちらもパワーがいると思います」

それでは水の民の意向に反してしまうし、医師も納得するとは思えない。

「あとは…そうですね、ポケモンの育て屋を訪ねてみるとか」
「育て屋、あのコガネシティの老夫婦か」
「ええ、ご存じなら話は早い。彼らは凄いですよ、初対面のポケモンでもすぐ手懐けてしまう」

種や元来の性格によって、気性の荒いポケモンというのはいくらでも存在する。そういったポケモン、特に噛みつき等で人やポケモンを害する可能性があるポケモンは、大抵の施設は受け入れを拒む。…そんな悩みをもったトレーナーの駆け込み寺ともなっているが、コガネシティの育て屋だ。

育て屋をとりしきっている老夫婦のじいさんは、若いころは名の知れたポケモン育成のスペシャリストであったらしく。彼らはどんなポケモンも受け入れ、要望によってはトレーナーとの関り方の助言もするという。その噂はワタルにまで届いており、著名なトレーナーも何かと世話になっていると聞いた。

「いるんですよね、偶に。知識や培われた技術も素晴らしいですが、それとは別に…生来の気質というか。ポケモンが警戒心を抱かず、自然と仲良くなれてしまう人というのは」
「…」
「ゴールドくんや、レッドくんもそういうタイプですよね。アレは一種のカリスマですよ」
「…」

「___ワタルさん?」

イツキに呼ばれ、はっとする。何かを考え込んでいたワタルの様子に、どうかしたのかとイツキは訊ねた。だがワタルはすぐに答えることはせず、言葉を選ぶようにして伝えた。

「…いや、そういった類なら、一人心当たりがある」
「本当ですか。もし可能なら、その人に連絡して手伝ってもらうことはできませんか。このままだと、行き詰ってしまうでしょうし」

ちらりとイツキが後ろを見た、そこにはいまだ互いに一歩も譲らず意見交換をするジャックと医師の姿があった。スタッフたちもどうして良いかわからず困惑している様子だ、現場は確かに行き詰っていた。

ワタルは逡巡した後、ポケギアを取り出してどこかに連絡をとった。そのポケギアを見て、イツキは一瞬ぎょっとした。飾り気のないグレイのポケギアは、どうみても第一世代のものだ。

古くても第三世代かライブキャスターが主流の時代に、まだ第一世代を使っている人がいるとは思わなかった。…いや、ある意味イメージ通りかもしれないが。

「夜遅くにすまない、 …ワタルだ ああ、… ミシャ、寝ぼけているのか。いや、こんな時間だから当然か」

その会話は気にするなという方が無理な話であった。ワタルにしては珍しくフランクな口調、それにミシャといった。それは女性の名前の響きだ。

「寝ているところ悪いが、少し付き合って欲しい」

丁度後ろを通り過ぎたリーグスタッフがぎょっとした顔でこちらを見た。イヤイヤイヤイヤ違う、ボクにワタルさんが告白しているわけないから!

「それは数年前に済ませたな。今から行く、可能なら起きていてくれ」
(なんか変に勘繰りたくなる単語ばっかり聞こえてくる…)
「…無理そうだな、いい合鍵で入る。覚えていないかもしれないが、一応伝えたからな」

ワタルがポケギアを切り、ホルダーから取り外したハイパーボールを投げる。赤い閃光と共に現れたのはカイリューで、バトルで繰り出していた個体と異なりライドギアを装着している。

「30分ほどで戻る、その間現場を任せて構わないか」
「はい。ジャックさんとジョーイさんにはボクから話を伝えておきます」
「頼む、____カイリュー、」

カイリューにライドすると、ワタルの指示を受けたカイリューが飛び上がる。その初動速度は凄まじく、巻きあがる風を念動力で抑え込みながらも感心してしまう。最高速度はマッハ2に達すると言われているカイリューは勿論のこと、それにライドギアだけで騎乗するワタルも相当なものだ。

(…彼女、かな?)

無粋だと解っているが、ワタルがいなくなり少しだけ気が抜けてしまった。ネイティオがそれに気づいて、嘴できつめにイツキを突いた。はい、ボクが悪かったです。千里眼で覗いたりしませんとも。





「すまないイツキ、少し手間取った」
「……、えっと」

30分を少し過ぎて戻って来たワタル、カイリューから降りた彼の腕にはトレードマークとも言えるマントに包まれた女性がいた。…いや、寝ているな。

「ご無事でなによりです。その方、は…もしかして眠っています?」
「ああ、移動中もずっとな」

困ったものだよと苦言するワタルとは裏腹に、カイリューはとても嬉しそうにクルルと鳴いていた。いや、それよりも色々と問題があるような気がするが、言及して良いものか解らない。

「マントは」
「見苦しくてすまない、寝間着のままなんだ」
「え、 あ、そ、それは…。 なんか申し訳ない、です…」

イツキは混乱した、なにせツッコミどころが多すぎる。

事情を詳しく知らされていなかったリーグスタッフたちが、ワタルさんが。女を。しかもマント。え、寝てる。と好機の視線を向けている…ワタルではなくイツキに。

気になりすぎるのでボクに聞けと言うことだろう、いやいやいやいや無理だから。無理だから!

「じゃ、じゃあその方が起きてから」
「いや置いておけばいいだろう」
「お おおお 置いとく!?」

スタスタ歩き始めるワタルに、思わず声も上ずると言うもの。緊迫した空気を纏っていたジャックと医師も我が目を疑っている中、ワタルはフィオネが隠れている洞の傍に女性を置いた。…本当に置いた。

「ミシャ、おい」
「…ン、 」
「ここに暫くいてくれ、俺は一度離れるがちゃんと後ろで見ているから」
「…? はい、」

それが遺言だった。女性はワタルが手を放すと、もぞもぞとマントに潜って横になり…寝た。いや、寝ているな、あれ。

「ワタルさん、あれじゃフィオネが」
「解っている、フィオネが怯えるようならすぐに回収しよう。暫くこれで様子を見させてくれ」

ジャックを言いくるめたワタルが、スタッフに指示をして駐屯用のライトや機材を終い、森の暗がりへと移動する。洞を見守っていたラッキーも医師の元に戻させ、代わりにモンスターボールからチュリネを呼び出した。カントージョウトでは珍しい、暖かい地方に生息しているポケモンだ。

チュリネはワタルを一瞥すると、ぴょんぴょん跳ねて女性のもとに向かった。そうして体を寄せるとくうと眠る。…もしかしなくても、あの寝つきの良さ彼女のポケモンか。

「ワタルさん」

困惑するスタッフの圧に負け、イツキがワタルを呼んだ。だがワタルは口元に指を寄せて、静かにと合図する。だからそれ以上は何も言えず、イツキも口を閉じた。





「…」

ちろちろと、冷たいものに舐められているような気がする。シャワーズだろうか。いや、シャワーズは実家にいるはずだ。彼女もこうして、いつまで経っても起きないわたしを根気よく舐めて起こしてくれたものだ。

「ん…」
「フィ」

重い瞼を開くと、そこには見たことのないポケモンが浮いていた。まるで透明なガラスの中に海を閉じ込めたような。じいとわたしを見ているが、何をして欲しいのか解らない。これも夢だろうか…ああ、そういえばさっきワタルさんが出てきたような…。

ぼうとしながら見つめ合って、また静かに目を瞑る。眠い…まだ目が覚めるには早いだろう。うつろうつろと、意識が漂う。そんなわたしを見て、ポケモンは不思議そうに体を寄せてきた。居心地の良い場所を探すように動くから、被ったマントの暗がりに入れてあげるとポケモンは安心したように丸くなった。




「ミシャ」

身体を揺すられている、誰かが名前を呼んでくれているような。

今日はこんなことばかりだ、浅い眠りから何度も起こされる。少し目を開けるとワタルさんがいた、その背にある太陽の光がひどく眩しい。今日は夢によく出てくる人だ、今度は何の用事だろう。

腕の中にチュリネがいるようなので抱えて起き上がると、頭の上からぽてんと緑色のポケモンが落ちてきた。あれ、チュリネ?

「ちゅりね…、にひき?」
「チュリリリ」
「チュリネじゃない、そのまま抱えてやってくれ」

チュリネじゃないならこの子はなに?触れた感触は、ワタルさんのところのミニリューに似ているような気がする。ぽわぽわする頭で一生懸命考えている間に、ワタルさんがそうとわたしが纏っていたマントの前を開く。

こぼれてきた光に怯えたのか、腕の中のポケモンがびくりと跳ねるのを感じた。ワタルさんは怯えさせないように、ゆっくりと指を近づける。

その匂いに何か気付いたのか、ポケモンがくんと鼻先を近づけた。きっとマントと同じ、お日様の匂いがしたのだろう。わたしもワタルさんの匂いは好き、とっても安心するから。

ポケモンは好奇心に吊られる様にしてマントから顔を出そうとしたが、チュリネがぴょんと跳ねたのに怯えてさっと引っ込んでしまった。

ワタルさんが「こら」とチュリネを抱えるが、彼女はぐいぐいとお構いなしにわたしの方に飛びつこうとする。いつも朝一番に抱っこしてあげるから嫉妬したのだろう、愛い。

「だいじょうぶ」

ワタルさんの腕の中でぷんすこしているチュリネに、ちゅうとキスをする。

それが効いたのか、チュリネが嬉しそうに頭の葉を揺らし始める。うん、愛い。可愛いものに囲まれて、大好きなワタルさんもいて、朝から幸せだなあ。

「…ここ、…どこ?」
「……後で説明する」
「この子は、… えっと、?」
「抱えてやっていてくれ、君の腕の中は安心するらしい」

俺と一緒だな、とワタルさんはどこか悔しそうな顔で笑った。

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