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パンケーキ大好きライチュウとダンデの仁義なき戦い


ミシャが作るパンケーキはうまい。
ふわふわでしっとりとして。ひとかけらのバターと、たっぷりかけられたメープルシロップが完璧だ。きっとガラル中を探してもこんなにうまいパンケーキはないに違いない!そういつも伝えているのに、ミシャは「ありがとう」と控えめに笑うばかりだ。…俺は本気で言っているのだが。

「パンケーキできたよ」

ミシャの声に「ああ!」と答えると、横から「ラァイ!」と元気の良い返事が響いた。返事をしたのはそれまで昼寝をしていた…丸くて少し濃い色合いのライチュウ。ガラルでは珍しいアローラの姿、ミシャのパートナーだ。そして、

「ッチ」
「…」

俺のライバルである。___10年前の俺は、よもやライチュウにメンチ切られるようになるなんて思ってもいなかったに違いない。

ライチュウはとてもミシャに懐いていた、何時だってミシャの傍にいた彼は気づいているのだ。俺がいることで、確実にミシャがライチュウに構ってくれる時間が減ったことに。そうしてそれは彼にとって許しがたいことであるようで、ライチュウは決して俺に気を許してくれない。

撫でようとしたら手を叩き落とされ。俺が用意したフーズには見向きもせず。ミシャに撫でて貰っている時に話しかけようとするとねんりきで足をすくってくる。ミシャとソファに座れば間に体を捻じ込んできて、ミシャ待ちで二人きりになると何知れぬ顔で俺の足を踏んでくる始末。

流石に見ていられなくなったのか、ハラハラしていたリザードンが仲介してくれたが結果はいわずもがな。むしろ意気投合してしまったらしく、とても気まずそうに「ぎゅう」と体を縮めた。いや、…お前は悪くないリザードン。俺が不甲斐ないばかりに苦労をかける…。

「はい、2人ともめしあがれ」
「ラァイ!」

だが、そんな俺たちの不仲をミシャは知らない。
このライチュウ巧みにミシャの目を掻い潜って、俺にケンカを売るのだ。ミシャの目の前なら、俺の手からもフーズを食べてくれるが。それをするとその後のアタリがとてもキツくなるので、極力しないようにしている。

「ダンデさん、パンケーキどうかな」
「今日もすっごくおいしいぜ!」

「よかった」と嬉しそうに笑うミシャ、その笑顔を曇らせたくない。だからライチュウも、ミシャの前では不機嫌を表に出さないのだろう。それは俺も同意だが、物事には許せることと許せないことがあって_____(きた、!)

嬉しそうにパンケーキを食べていたライチュウのお皿が空っぽになった。
同時にキラリと彼の目が光るのを感じて、すぐさま腕で皿をガードする。そんな俺をライチュウはあざ笑い、「ラァ〜イ」と鳴いた。同時に彼の尻尾にサイコパワーが宿った。しまったと思った時には遅く、俺のパンケーキが宙を踊る。咄嗟に取り返そうと腕を伸ばすもするすると避けられてしまう。ミシャに気づかれないようにしている手前、本気で動けない。そうして俺があぐねている間に、じっくり味わう筈だった残りのパンケーキは、行儀よくライチュウの皿の上に重なってまった。

「チュウ!」
「〜〜〜〜〜っ!!!!!?」

ライチュウが上機嫌でパンケーキを食べる。俺は込み上げる怒りでどうにかなりそうだぜ!わなわな震えている俺をおかしくおもったのだろう、片づけをしていたミシャが振り返り「あれ、」と首を傾げる。

「もう食べちゃったの? 掻き込んで食べる癖、中々治らないね」

「ち、ちがっ ! 」
____ちがう、君のパンケーキを俺はじっくり味わっていたんだ。だけど全部ライチュウに盗られた!

そう言えればどれほど良いか。だが、言えない。口はコイキングみたいにパクパク開いて、絞り出すように出てきた言葉は「はは… 手早く食べたほうが、効率が良いんだぜ…」と、思ってもいない言葉で。過去、そう彼女の前で言い放った自分を殺したい。ミシャは少し残念そうな顔で「そうだね」と言った、ちがうそういう顔をさせたいんじゃない! でも君のライチュウを悪く言って悲しませてしまうのはもっとイヤだ。

結局返す言葉もなく、俺は惨敗した。…どうしたらライチュウと仲良くできるのか、いや積もった恨みで俺もすぐに仲良くできる自信ないぜ。

どんよりしながらリザードンのメンテナンスをしていると、彼も心配になったのだろう。鼻先でつんと俺のわき腹を突いてきた。「大丈夫だぜ」と出た言葉は自分でも解るほどに弱気で、どうしたものかと頭を抱えたくなる。

「ダンデさん」
「ミシャ、どうした」

控えめなノックと一緒に聞こえたのはミシャの声。振り向けば、扉からこちらを覗き込んでいる彼女がいた。「入って良い?」と聞くので頷けば、そっと彼女が入ってくる。その足元に何時も一緒の彼がいない、不思議に思って視線をあげると…甘い香りがした。

「夜食にするにはカロリーオーバーかもしれないけれど」

そう言ってこちらの様子を伺うようにミシャが言う。彼女がもつトレーには、ティータイムに食べ損ねたパンケーキが乗せられていた。心なしかキラキラ輝いてみえるそれに、ごきゅりと喉が鳴る。それをどう見たのか、ミシャがパッと嬉しそうに笑った。

「良ければどうかな」
「食べる!」

その返事は流石に子どもっぽ過ぎたか。ぱちんと口を手で覆うが遅い、ミシャはクスクス笑った。恥ずかしさで耳まで赤くなるのが解る、リザードン今こそその大きな翼で俺を隠してほしいぜ。

「ダンデさん、あのね」

俺とリザードンの傍にトレーを置いたミシャが、秘密を囁くような声で言う。聞き洩らさないように近づけば、ミシャも気づいてそっと耳元で教えてくれる。

「いつもライチュウのわがままを許してくれてありがとう」

その言葉に、頭が真っ白になった。時間さえ止まったように思う。ただしく硬直する俺に、ミシャは眉を八の字にして困った顔をする。ああ、きっとずっと解っていて。そうなのか、そうか。君は俺が思っているよりずっと、ずるい女性だ!

耐え切れず抱きしめてキスをする、俺を受け止めきれなかったミシャが床へと倒れ込んだ。
込み上げる衝動のままにミシャとのキスを楽しんだと思う、だけどこれ以上に俺の胸に込み上げる愛おしさを伝える方法なんて知らない。この熱は言葉以上だ。

「毎日、君のパンケーキが食べたい」

強請るような声だったと思う。ミシャは少し驚いたあと、「困った人」と俺の額にキスをくれた。ああそうだ、きっと俺たちは二人ともが、互いを愛しているから困らせたくなくて、笑っていて欲しいと祈っている。物事というのは複雑で直ぐにどうにかならないことばかりだが、きっとその積み重ねが2人の時間を作っていくのだろう。

ちなみにパンケーキは半分リザードンに、半分を遅れてやってきたライチュウ食べられてしまった。だけど不思議と、もう憤りは感じなかった。一番大好きなものは、俺の腕のなかにある。

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