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キバナお手製のシェパーズパイ


※キバナのバックグラウンド捏造



キバナはカブのことが好きだ。
いや当然Loveではなく、Likeという意味で。トレーナーとしてはもちろん、人格者として尊敬している。コータスをはじめとして、彼から学ぶことは多く。やがて彼と言うトレーナーを育んだホウエン地方と言う場所にも、深い敬意を持つようになった。

だからという訳ではもちろんない。
だけどミシャという人に興味をもった切欠になっていないと言えば、嘘になる。

ナックルユニバーシティに招かれた客員研究員で、ホウエン地方の出身。大学側への紹介者がカブ・スズナときたら、興味を持つなという方が難しい。…それに、研究テーマにもそそられた。ポケモン歴史学においてガラルが遅れているテーマだ。そうくれば、何かと派閥や利害関係が絡む大学では、苦労する姿が目に見えていた。いくらカブが後ろ盾についているとは言え、まだ学会には男尊女卑が色濃い。

余計な世話かとも思ったが。見かけた後ろ姿が、ガラルのティーンズほどしかなくて。ガラルでは珍しい飴色の肌とか、オレの半分もない歩幅とか、ドラゴンの羽ばたきの音に掻き消えそうな…小さくて、優しい声とか。どうにも放っておけなくて、気付いたらその肩を叩いていた。好意よりも、保護に近い感覚。

だが優しく語りかければ、ほっとした様子で笑うから。自分の中に生まれた僅かな予感に逆らわずにいたことを褒めてやりたい。彼女は、ミシャ・シノノメと言った。恋人関係になるまで、それほど時間は要らなかったと思う。

今まで交際したどのガールフレンドより、順風満帆であると思う。だが、そもそも文化が違う場所で育ったもの同士。なにかと慣習の違いで驚かされることは多い。サンデーローストもそのひとつだ。元々歴史研究をしているから、ミシャはその地方の文化を受け入れ呑み込むのが早い。今では、オレが帰れる日は決まってローストビーフを用意してくれる。

ミシャも研究員として忙しいだろうに、彼女の料理は何時だってパーフェクトだ。(数少ない付き合っていることを知っている)カブさんに聞けば、地方的に家庭料理を大事にする文化があるようで。凝る人は、ガラルのレストラン並みに丁寧な仕事を家庭料理でするというから。なんというか、文化の違いってすげぇなと感服した。

(なんか、してもらってばっかりだな)
____たまには、こちらも彼女の“文化”に歩み寄りたい。
そう思ったのも、思えばミシャが初めてだ。


というわけで、ミシャにナイショで早上がりした。ナックルのスーパーで買い物をし過ぎたので、ポケモンに運ぶのを手伝ってもらいながら帰宅。ラフな格好に着替えて、しばらく使っていなかったエプロンをひっぱりだす。髪をきっちりまとめれば準備オーケーだ。

「ヘイロトム、コールを頼むぜ」

この日の為に、久しぶりに連絡を取った。アポイントメントはばっちりなので、コールした相手はすぐに答えてくれた。

「ハイ、元気かMummy」
『ええお陰様で、時間ピッタリね』

スマホロトムに映し出された母親は、最後に会った時と幾分も変わっていないように見える。リビングのソファに居るのだろう、映し出された背景は懐かしい生家だ。

「遅刻は絶対にするなって教育されているからな」
『まあ、ステキなお母上ですこと。あなたをそんな風に育てたのは誰かしら』
「ああ〜誰だっけかな。 おっ、そのストールいいな! 良く似合っている」
『ありがとう、この前にバースデイに息子がくれたのよ。滅多に家に戻らない癖に、こういうことはマメなの』
「センスがいい息子だ、俺も会ってみたい」

しらばっくれて返せば、母シオンが馴染みのある声で笑った。
何を隠そう、彼女が今日の特別ゲストである。

『材料はちゃんと買ってきたの』
「ああ、買ったよ。送ってもらったレシピも読んだ、一通り頭に入ってる」
『ならわたしは見ているだけで良さそうね』
「そんな意地悪言わないでくれ、慣れてないんだ。解るだろ」

素直にお手上げする様子がもの珍しいのだろう、シオンは楽しそうに笑って食材のチェックをしてくれる。元々キバナは料理しない、というかガラルには家庭で料理をすると言う文化が薄いのだ。基本テイクアウェイ、間に合わなかった日はパブでとる。食材を買って、家に帰って、作って等は、子どもがいる家庭でもしている方が珍しいほどだ。

斯く言うキバナの幼少期、食事はもっぱらシオン手料理であった。近所でも料理上手として有名だったシオンは、いつも子どもたちに手料理を振舞ってくれた。それでもキバナがシオンの料理で育った期間は短い、ポケモンにのめり込むのが早かったからだ。

10歳の時にジムチャレンジに参加して、その後はボーティングスクールで飛び級、興味のあるテーマを学びながら地方に留学もした。元々バルシヤ家は代々全寮制を教育方針としているので珍しいことではないが、留学は確かに他の家族よりも家に居る時間を少なくしたと言える。

それでもシオンが作ってくれたパイの味は覚えている。きっと彼女の料理がとびきり美味しい以外にも、理由はあるだろうけれど。

『シェパーズパイで良いのね』
「ああ、ホリデーにミシャが作ってくれた肉の余りがある。それで頼むぜ」
『まあグレイビーソースは手作り? ステキだわ』
「だよなあ〜」

素直に褒めるシオンに、キバナも自然と笑みがこぼれる。自分が選んだ女性が褒められて、嬉しくないわけがなかった。それが母親ともなれば当然のこと。

『牛乳はすこしずつ入れて、マッシュポテトはきちんと滑らかにするのがポイントよ』
『ただいま〜 あ、本当にやってるんだ! ハァイ、キバナ 元気してる〜』
「よぉジーナ」

突然現れたのは姉のジーナ、兄弟の中では一番キバナと歳が近い。いまは生家に身を寄せているので予感はしていたが、やはり狙って帰宅してきたらしい。

『キバナに料理させるほどの女の子、どんな子か会ってみたいわあ』
「おいおい勘弁してくれ、そのうち連れてくから波風立てないでくれよ」
『そういえば気になってたんだけど。キバナなんて兄弟の中じゃいっちばん大人しいくせに、なんで何時も炎上してるの?』

それはどちらかといえばオレが知りたい。
それにキバナからすれば、他の兄弟たちのパワーが有り余り過ぎるのだ。大人しいという評価が気に入らなかったので無視したが、母と姉は勝手に話を進める。

『そういえばキバナ、ミシャは確かアンノーン文字の研究をしていたわよね』
「ン? ああそうだけど」
『この前、おじい様にそれを話したらとても興味を持たれていたわ。いくつか論文を読みたいそうなのだけれど、』
「あー… 最近のはオレも持ってるけど、昔のはミシャに言わないとないな。じい様のことだ、どうせ全部読みたいだろう?」
『そう言われるでしょうね』
「取り寄せられるか聞いてみるよ」
『あの堅物おじいさまに気に入られるとか、わたしたちがミシャに会える日は近いわね マミー』
『そうかもしれないわね。 ああ、キバナ待ちなさい、先にあっちの食材を入れるのよ』
「うおっあぶね」

色々と横やりが入ったが、なんとかディナーの時間には間に合いそうだ。
パイが焼きあがるのを待ちながら、テーブルをセッティングする。今日の日の為に買って来たテーブルクロスを敷いて、特別な日に使うディッシュを並べた。キャンドルや小物を添えれば、シンプルだがフォトジェニックな空間の完成だ。

「そろそろ時間だな… サンキュー、なんとか間に合いそうだ」
『ええ、力になれて良かったわ。キバナ良い夜を』
『またゆっくり話しましょうね、ミシャによろしく〜』

通話が切れるのと、玄関から物音がするのは同時だった。ミシャのリーシャンの鳴き声が聞こえる、そわそわしだしたロトムにシィと囁き、そっとライトを落とす。彼女は驚いてくれるだろうか。いやきっと驚いてくれる、そしてとても喜んで笑ってくれるだろう。初めてあの日みたいに、

「Hi,honey」

サプライズの準備は完璧だ。

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