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エビカツサンドイッチはダイゴの腹のなか


(お、メールだ)

デスクに戻ると、メールアイコンが点滅していた。

先ほど購入してきたランチボックスを開いたばかりだというのに、タイミングが悪い。そう思いながらメールアイコンをクリックしてしまうのは染みついた社会人の性というか。

立ち上がったアプリが教えてくれたメール送信者がこれまた厄介な相手で、自然と眉が寄る。むーん、どうしたものか。

とりあえずサンドイッチを食べよう。本日のランチは、カナズミで話題の移動販売カフェのテイクアウトだ。具材はセミオーダー式で選べるのだが、初めてなのでおススメのエビカツのタルタルサンドを注文した。

このあたりは海産物が新鮮でとても美味しい、きっと挟まれたエビカツもほっぺが蕩けるほど美味しいに違いない。ランチタイムには列ができると事前に聞いていたので、昼休みを適当な口八丁で10分早めて手に入れた戦利品。

(ゆっくりと堪能するとしよう!)
___わあ、2つあったはずなのに1つない。

ボックスにぎゅうと詰められていたフォトジェニックなサンドイッチが、いまやひとつだけさびしくボックスに凭れている。

え、え、…えっ。内心凄まじく動揺していると、もしゃと咀嚼する音がした。みれば、パーティションの上からこちらを見ている男が…、もとい、上司が…、もぐもぐわたしのサンドイッチを食べながらこちらを見ていた。

「…ダイゴさん」
「これ美味しいね、どこのサンドイッチ?」
「…ダイゴさん」
「ランチに誘ったのに返事がなかったから」

え、そうなの。ポケラインを見ると、確かにダイゴの文字がポップしていた。時間的に丁度ランチを買い終わって戻ってくる時だ、歩いていて気づかなかったのだろう。

「ごめんなさい気づきませんでした」
「いいよ」
「あの、でもそれわたしのなんで 食べないでください、わたしのランチなんです」

さりげなくランチボックスを移動させて、ダイゴさんが食べかけのサンドイッチ取り返そうとする。この際、食べかけとか気にしていられない。

お昼ご飯は、午後の生命線なのだ。ダイゴさんはじっと空色の瞳でわたしを見詰めたあと、長い腕を伸ばしてカチカチとキーボードを弄り始める。

「難しい顔でメールチェックしていたみたいだけど、誰からかな」
「最近取引を始めた商社の方です。その、すこし困った感じで…」
「……シンオウのギンガInc.?」
「いえ、この会社です」

マウスでメールの署名に記載された会社名を範囲選択すれば、「ふーん」と。え、ふーんって、自分で聞いておいてそんな興味なさそうな。

シンオウのギンガInc.と言えば最近取引を持ち掛けてきた企業で、普通のエネルギー系会社だと思っていたが。そうか、ダイゴさん的には“困った感じ”なのか。覚えておこう、

「取引内容に問題はないのですけど、何かと遅延が多くて。確認したら書面が解りにくいと言われたので、先月から付箋付きでお渡しするようにしたり、一応対策しているんですが」
「取引先評価は」
「Cです、今月も遅れるみたいでメールが。 …遅延切れだから早く手渡せるようにと、なにかと外部の打ち合わせを調整されるので困っていて」

最初の数回は、こちらも早く処理がしたいので応じていたが。こうも続くと故意でやっているのではないかと勘繰ってしまう。

自意識過剰と言われればそれまでなので、どうしたものかと考えあぐねていたところだ。というか、そういう指摘のし辛さも計算してやっているとしたらかなり性質が悪い。

むーんと、力が籠る眉間を撫でていると。最後の一口を食べ終わったダイゴさんが言う、

「ボクのお気に入りを捕まえて良い度胸だ」

…まるで天気の話をするように、自然に。
なんてことをいうのだ、この人は。え、え、ここオフィスのど真ん中なのですが。

返す言葉もなくて呆然としていると、スペースに回ってきたダイゴさんがデスクに常備しているウェットティッシュを抜いた。きちんと手を拭いてからマウスを触ってくれるのはありがたい、え。何をしているんですか。

カチカチとキーボードを打って、気付いたら丁重なお断りの文章と今後同じようなことがあれば取引を中止する…旨のメッセージがまとめられている。

オイオイ、待ってくれ何もそこまでしなくても。最後に代理ツワブキ ダイゴの署名を入れると、そのまま迷いなく送信してしまった。

「アアアー!」
「こういう手合いは早いうちに対処するに限るよ、ミシャ」
「だだだ だからってわたしのメールアドレスで」
「うん」

うん。うんじゃない。キラキラ笑顔笑っていればなんでも許されると思っているのか。

「採掘を邪魔されるの嫌いなんだよね、ボク」
「何か違うはなしはじまりました?」
「いや、同じ話だよ。そういえば来週の水曜日からちょっと行方不明になる予定なんだ、よろしくね」

こんな元気に事前予告してくれる行方不明者イヤだなあ。しかも毎回、わたしたちが困らないようにしっかり仕事はしていくから憎たらしい。

避難させておいたランチボックスを開いて、最後のサンドイッチを手に取るダイゴさん。それをわたしの口元にあてて「あーん」と囁く、甘い声に反して放たれるプレッシャーは相当なもので。

逆らうことは許されない、小さく口を開けて食めばダイゴさんは満足そうに笑みを深めた。エビカツはすっかり冷めてしまっていたけれど、じゅわりと舌に広がる旨味は濃く感じた。

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