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ダンデがロールキャベツを取り分けてくれる




ナックルの朝市で購入した寒玉。一玉と少し贅沢な買い方をしたので、ロールキャベツを作ることにした。

キャベツの中身をくり抜いて、中にタネを詰め込む。お肉が好きなのでたっぷり多めに詰め込んで、後はトマト缶と一緒に煮込むだけだ。一緒にベーコンを入れるとコクが出て美味しいので、わたしは好き。

ことことと音を立てるスキレット、待ち時間の相棒が欲しいところだ。ふらりとラックの前に移動する。

この辺りはわたしのものではなく、ダンデが持って来た雑誌を纏めているので見慣れないタイトルが多い。ふむ、ポケモンナショナルジフィックの今月号か。

ぺらりと捲ると、研究論文や最近発表された製品の評判、難しい話がいっぱいで眩暈がした。…ダンデ、こういうの読めるのすごいなあ。

「I’m home !!」

わあ、ものすごい勢いで扉が開いた気がする。

何時もゴリランダーみたいな力で開けられるとドアの金具がバカになってしまうと忠告したのに、…これは覚えてないと見える。

子どものように駆けてくる足音に呆れながら、雑誌をしまうのとリビングにダンデが顔を出したのは同じ頃であった。

「ミシャ」
「おかえり、ダンデ お仕事おつかれさま」

何がそんなに嬉しかったのか、彼は耐え切れないと顔に喜色を滲ませる。そうしてぎゅうとわたしを痛いほど強く抱きしめるので、背中をぽんぽんと叩いた。

「ば、ばぎゅ…」

リザードンの声がした、バツが悪そうなそれを不思議に思ってみれば… 大きなドアを抱えたリザードンが怒られる前みたいな顔で体を縮ませている。おかしいな、わたしの目が変でなければアレは…わたしの家のドアのような。

「ダンデ」
「ンー? … あ゛」

ダンデには工具をお渡しして、強制労働に向かってもらった。扉を直すのいくらかかると思っているのか、しかもそれはわたしの財布から捻出される。

ダンデの破格ともいえるファイトマネーからしたら端かもしれないが、わたしにとっては痛い出費なのだ。ぷんと怒っているわたしを慰めるように、ふわりとトマトの香りがただよってくる。同時にタイマーが時間を教えてくれた、そろそろ出来上がりだ。

(…うん。 美味しい、もうすこし煮込もう)

キャベツは、トロトロしていた方が好きだ。スキレットの蓋を戻す前に、トマトスープの絡んだベーコンを少しだけスプーンですくう。火加減を調整し、冷めないうちにとスプーンを持ってドアスペースに向かう。

「ダンデ」

工具片手にトンカンしているダンデが振り返る、シンプルなジャージにキャップ。そうしているとただの作業にきたお兄さんみたいだった。

金色の瞳がスプーンを見つけると一際輝いた、そうして雛ポケモンみたいにパカリ口を開けて待つ。餌付けかな。早くと急かす視線がうるさいので、スプーンを運んであげれば大きな口が食いついた。

「〜〜〜〜っ」
「おいしい?」

ダンデが何度も頷いて、ぐうとサムズアップしてくれる。

気に入ったようで何より、自然とわたしも笑みがこぼれた。あとどれくらいかかりそうか伝えると、ダンデはそれまでには終わらせると意気込む。よかった、無事に扉は元に戻りそうだ。お手伝いしてくれているリザードンにもご馳走を用意するからね、と頸を撫でればぐるると喉を鳴らして返事をくれる。

ダンデ用のつけあわせにはバケットとカンパーニュを用意した。わたしは…悲しき飯文化の星に生まれた飯ラーなので…ご飯を。うっ白いご飯の誘惑には抗えない…なんにでもあうよ…!

テーブルに用意して、最後のメインディッシュ…ロールキャベツ待ちとなったころ、仕事を終えたダンデが戻って来た。「お夕飯にしようか」と言えば、彼は子どものように満面の笑みを浮かべて力いっぱい頷いた。

「俺の実家では、オーブンで焼いていた」

テーブルの中央に運ばれたスキレット、まるっと大きなキャベツにナイフをいれながらダンデが言う。

「マシュルームとチーズ、ジャガイモ、あと種類は分からないがナッツみたいなのも入っていたな」
「へえ、美味しそう」
「幼馴染の家は最後にジャムを塗って甘くしていた、子どもが好きな味だ」

野菜が嫌いな子どもが食べやすいようにするための一工夫なのだろう。そういえば、地元の友人宅ではスープに砂糖を入れていたのを思い出す。…さいしょはえ、っと思ったがコレが慣れると中々クセになる味なのだ。

「ミシャ、ディッシュを」用意していた深皿を渡せば、そこに大きなロールキャベツが転がる。お願いしたように、わたしの分にはたっぷりとスープを入れてくれた。

ダンデの分にはベーコンが山盛りだ。料理を作るのはわたしの役目、メインディッシュを取り分けるのがダンデの役目。それは2人で暮らしているうちに自然と染みついた慣習だった。

「いただきます」
「イタダキマス」

わたしの故郷に合わせて食事の前の挨拶をして、夕飯の時間となる。オリーブさん仕込みのテーブルマナーはどこかに置いてきたようで、ダンデはロールキャベツを大きく切り分けた。わたしもカトラリーを手に取る。

ナイフに力を入れずとも、するりと厚いキャベツは切り分けられてくれる。するとじゅわりと中から肉汁がこぼれ落ちた。同時に広がるナツメグと野菜の甘い香りに、顔が綻んでしまう。中のお肉もしっかりと火が通っていた、お肉にたっぷりとトマトスープをかけてふうと冷ましてから一口。

口の中いっぱいに広がるトマトの酸味、ベーコンの旨味…お肉のジューシーさ。これを幸せといわず何というのか。じんわり骨身に染みるまで堪能していると、くつくつとダンデが笑う声が聞こえた。

「君は本当においしそうに食べるな」
「食事は生きるうえで大事なことだもの、リザードンはどう?」

市場で買ったポケモン用のフーズと、フレッシュ野菜の盛り合わせ。それを食べていたリザードンが、がうと吼えて返事をしてくれる。高らかな声音だ、良かった彼も楽しんでくれている。

「すごくうまい」
「うん、よかった。掻き込んで食べちゃダメだよ、そのためにアツアツに煮込んだんだから」
「はは、君は厳しいな」
「ゆっくり食べて、わたし沢山時間をかけてつくったんだから」

すぐ食べ終わっちゃうなんて、もったいない。
ダンデがそうだなと頷く。わたしのナイフに合わせて、彼もロールキャベツを持ち上げた。同じようにぱくりと食べて、美味しいと笑った。

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