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マツバさんから桜餅をいただきました


「なにをしているんだ」

リーグ本部休憩室、そこにはミシャの他にイツキとキョウがいた。
何故かミシャは苦い顔をしており、不自然に膨らんだ口がぴたりと動きを止めている。何事かと声をかければ、その正体はすぐに知れた。テーブルの上に置かれた一段重箱、その中には桜色の和菓子が所せましと詰められていた。

「桜餅か」
「はい、先ほどマツバさんが所用で来られまして」
「エンジュの老舗のものらしい、中々にいけるぞ」
「なるほどな、…ミシャ?」

一向に会話に参加しないミシャを不思議に思い、再び声をかける。だが返事はない、ミシャが大きな目に涙をためてワタルを見つめている。何かを訴えている様に思うが意図が組み切れず眉を顰めれば、イツキがいち早くフォローをいれた。

「ミシャちゃんも食べてみたいということだったんですが、…塩漬けが口に合わなかったみたいですね」

良く見れば、ミシャの手には少し齧られた桜餅が握られていた。なるほど、確かに桜餅は見た目が子ども受けする和菓子だ。淡い桜色だっていかにもミシャが好みそうではないか。大方、イツキとキョウが美味しそうに食べているのを見て、自分もと思ったのだろう。まったく安直なことだ。

「ミシャは香りものが苦手か」
「ええ、春菊も食べません」
「ってことはセロリも苦手かな、ボクは好きだけど」

「〜〜〜〜っ!」

呑気に喋っているのが気に障ったのか、ミシャの顔がますます苦々しいものとなる。口に含んでから恐らく一噛みもしていないのだろう。大きく食らいついてしまったから呑み込むこともできずに藻掻いていた。

「ダメそうなら、戻して良いよ。はい、ティッシュ」
「どれ、口直しにほうじ茶でも淹れてやろう」

イツキがティッシュを数枚引き抜いて渡す、ミシャは戸惑いながらもそれを受け取った。だが、そんな目に見えた甘えを許すワタルではなくて。「ダメに決まっているだろう」と、突き立てるように固く鋭い言葉が場を裂いた。え、っと驚くイツキ。まあそうだろうなとほうじ茶を淹れるキョウ。絶望するミシャ、ワタルはすべてを無視してミシャの後ろに回った。そうして、大きな手で有無を言わさずミシャの口から顎を塞いでしまう。

「食べるんだ、頂きものだろう。自分で口に運んだならなおさらだ」
「も、 ぐっ」

呑み込めというように、ミシャの顎を後ろへと持ち上げてしまう。無理にでも呑み込ませようとする行為だった、ミシャが泣き出しそうな目でワタルを見上げていたが、それを見下ろすワタルの表情は厳しい。イツキが「ちょ、ワタルさん」と待ったをかけるが、一睨みされれば何も言えない。…こわ、この人こわっ。

「ミシャ」

圧力の籠った声に、ミシャがぎゅうと目を瞑る。大の大人でさえ萎縮するワタルのプレッシャーに、小さなミシャが抗えるはずもなかった。ごくん。その音は、本来聞こえるよりもずっと大きく聞こえる気がした。

「良い子だ」

それをみたワタルが、満足そうに笑った。イツキはそれを見て、うわあ…魔王の笑みと…と思ったけど口には出さない。新参者は肩身が狭いのである。

ワタルがぱっと手を離すと、ミシャが深く息をした。苦しかったのと、呼吸をするほどに広がる桜餅の味がイヤなのだろうぎゅうと顔に皺が寄っている。キョウが「ほれ」と差し出したほうじ茶に飛びつくのを見て苦笑していると、はたと何か足りないことに気づく。

(あれ、桜餅は…)

ミシャの手から桜餅が消えている、一瞬落としたのかとひやりとしたが。…後ろからぼそりと聞こえてきた「うまいな」という声、嗚呼なるほどと納得する。ミシャの手から奪った桜餅を食べたワタルが、さっさと休憩室を後にする。

「まったく、厳しいのか甘いのか」

当然のように終始を把握していたキョウがぼそりと言う。イツキも口にせずに同意した。「もうさくらもちたべない」と弱音を口にするミシャに、かける言葉を見つけられずイツキは何度か頭を撫でてやった。

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