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少しだけ独占欲が強いダンデくん


「君はピアスを開けないのか」

後ろから伸びてきた褐色の指が、ふにと耳朶を摘まんだ。
突然の温度にびっくりしてリップがズレそうになる。恨み半分に振り返った先で、…いかにも今起きましたという体のダンデが、くわりと大口で欠伸をしていた。

「もう、お化粧している時はジャマしないで」
「そんなにおめかしして、どこにいくんだお嬢さん」

耳朶を遊んでいた手が首に回って、強引に引き寄せられる。ちうと耳元にキスをして、低い声で「ちなみに君の愛しいハニーはワイルドエリアに行く予定だ」と囁く。だれがハニーじゃ、こんなかわいくない腕力して!

「それはどうぞ楽しんで」
「どこにいくんだ」
「忙しいんだから、はなして!」
「どこにいくんだ」
「ダンデ!」
「どこに、いくんだ」

「お友達とカフェ!」

怒鳴るようなわたしの言葉に満足したのか、ダンデがパッと腕を解いてくれる。先ほどまで鉄檻のようにビクともしなかった腕があっさり離れるものだから、少しだけ拍子抜けだ。…さっさと答えれば良かった、朝からこんなムダなエネルギーを使うなんて。

「ガールフレンドか、俺を放っていくデートはさぞ楽しそうだ」
「ずっと前から約束してたの、ダンデが今日お休みとれるなんてわからなかったし」
「リサ?」
「シェリー」
「ああ、あの」

スウェットを脱ぎ捨てながら、興味なさそうにダンデが言う。ふわふわとした声音からするに、きちんと記憶に残る容姿と結び付けて言っているのかは怪しいところだ。

「ちなみに俺はリザードンとデートだ」
「知ってます」
「いや、君が気にすると思って。俺は君一筋だから、浮気を疑わなくて良いぜ」
「知ってます」

引き終わったリップをケースに戻す。ティッシュオフして色むらを整えれば、完璧になったわたしが鏡に映る。うん、満足な出来上がりだ。女の子はお化粧のノリが、そのままテンションに反映されると言っても過言ではない。それに則って言えば、わたしは今日はとってもゴキゲンである。

鼻歌混じりにドレッサーから立ち上がると、鏡におかしなものが見えた。きょとんとこちらを見つめるヒゲ面の美少女がいる。いやヒゲの時点で男だが、…目ほんとに大きいな。

「ダンデ?」

どうしたのかと名前を呼べば、彼はふらりと宙を歩くような足取りで寄って来た。イヤな予感がした。一歩後退するよりも、ダンデが踏み出す方がずっと早くて。気づけば思い切り抱きしめられていた。後先考えない抱擁は嫌いではないが、こういう時は勘弁願いたい。せっかくキレイに整えた顔が、どうして彼の暑苦しい胸板にこんにちはしているのか!

「ダンデ!」
「〜〜〜〜 ああ、君は本当に俺をご機嫌にする天才か!」
「ちょっとっ」
「ひねくれ者で人一倍ネガティブな君が、こんなに素直になるなんて。俺にはミシャを育てる才能があったんだな」
「ちょっと!」

まるで今日がバースデイだと言う様に、満面の笑みを浮かべたダンデ。そのご機嫌は留まることを知らないようで、わたしを抱き上げてクルクル回り始めた。このキテルグマならぬ、ダンデグマ!調子づくとすぐにコレだ、恥ずかしいから何度止めて欲しいと頼んだことか。

「…って、あ!」
「ん、どうした」
「や、やだ ダンデ リップ、思い切りついて おろして、おろして」

腕をバシバシ叩けば、ダンデは渋々といった顔で応じてくれた。「どこだ」と呑気に言うから、胸の所を指で示した。ダンデの褐色の肌、鎖骨の下あたりに真っ赤なリップライン。それは傷だらけの彼の身体とは酷くアンマッチだった。ダンデはリップラインを指で擦ると、…何を思ったのかぺたりとわたしの耳朶に擦りつけた。え、なにするの。

「え、 え」
「…」

全く意味がわからない行為だ。呆然とするわたしを見て、ダンデはひどく満足そうに笑みを深める。眩しいものを見つめるように、胸の内側から込み上げてくる何かに耐え切れないように。

「愛してるぜ、ミシャ」



その日の夜、ワイルドエリアに行っているはずのダンデが、不釣り合いな小さなショッパーを手に帰宅した。渡されたそれには、良く知る高級ブランド名がプリントされている。驚きの余り放り投げそうになったが、ぐっと堪えた理性的なわたしを誰か褒めて…。ベルベットのケースに収められていたのは対のイヤリング、ゴールドのベッドにダンデの瞳を溶かしたようなカナリアイエローが煌めいていた。

「とりあえずピアスホールをあけるまでだな、ホールが安定したら金具をピアスに変えてくれるらしいぜ」
「え、あけるの?」
「当たり前だ、だって君は」


Feel my presence even when I'm away


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