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キャンプキングダンデは彼女と同棲したい




「俺とシェアすれば良い」

それが一番良いだろう、なぜそれ以外の選択肢を考えているのかわからない。

___ダンデの顔は、言葉以上に彼の心情を物語ってくれている。不自然な沈黙すら予想外だったのだろう、こてんと首を傾げる彼にどうしたものかと思った。

「それはちょっと」
「なぜ」
「怒らないでほしいのだけど」
「俺は怒ってないぜ、理由を聞きたいだけだ」

場所はガラル郊外、静かな湖畔の近く。
ダンデが持ってきてくれた大きめのテントを設営し終わったので、いまは食事の準備をしている最中だ。人気はないが、きっちり変装したダンデがぐるぐるとカレー鍋をかき混ぜている。

背中に焼けるような視線を感じるが、知らないふりをしてテーブルに皿を並べた。手首にはささやかにジャマをして遊んでいたドラメシヤ、わたしと目が合うとダンデと同じようにこてんと首を傾げた。

かわいい、このまま話を曖昧にしてしまおうか。

そんな邪な思考を読んだように、ぬうと現れたドラパルトがドラメシヤの首根っこを食んでどこかに連れて行ってしまった…。ぐぅ、さすが良く訓練されたダンデのパートナーたちだ。

「確かに君のフラットは家賃の割に狭い、引っ越し自体には賛成している」
「うん」
「君が引っ越しに求めるのは今よりも安い家賃、広さ、それに通勤の利便性と言っていたな」
「うん」
「俺のバンガローをシェアすれば、全て条件クリアだ。煩わしい隣人交流もない。俺は不在にしていることが多いから、実質一人暮らしだぜ」
「…ダンデ、カレー焦げそうだよ。混ぜるのに集中した方が良いんじゃないかな」
「別にこだわりはないから、家具やキッチンは君の自由にして構わない」
「味が薄いかもね、マトマ追加しようか」
「ミシャ」

そろりと逃げようとしたがダメだった。不用意にカレー鍋に近づいたのが運のツキ、がっちりとダンデに腕を掴まれてしまって逃げられない。こちらをじっと見つめる蜜色の瞳に、心臓がきゅうと締め付けられる。

そうこの目、この眩い光を閉じ込めた様な真っ直ぐな瞳。この目が苦手だ、見つめられると白日の下に晒されたような心地になって、嘘が上手くつけない。しかも、カレー鍋に一瞥もくれていない癖にかき混ぜる腕は止まらないってなんだ、カレーマスターかよ。

「俺にはメリットしかないように思える。君が頷いてくれない理由がわからない」
「ぐっ」
「知っているだろう、察しが良くないんだ俺は。だからきちんと教えてくれ こっちを向け」
「むぐっ」

せめてもの抵抗と背けていた顔を、むにゅりと掴まれた。そのまま拒めない程度の力で引き寄せられる。近づいてきた顔に、キスされるなと思って目を閉じる。厚い唇が小鳥のように触れた、ダンデが目深く被った帽子の額に擦れて少し痛い。

「ミシャ」

唇に触れる親指の皮が厚いとか、画面越しに見ていた少年のような姿とは裏腹に存外ロマンチストなところとか。ぽんぽんと頭を埋め尽くすのは彼のことばかりで、息ができなくなりそうだ。

「か、」
「か」
「かれー…美味しかったら、かんがえる」

苦し紛れの言葉に、しかし彼は目を丸くして笑ってくれた。「それは…、とびきり美味いの作らないとだな!」にぱと笑って、今度は口元にキスを。ようやくカレーに集中してくれた怪獣ダンデ。ほっとしながらよろよろ離れると、オノノクスが少女のようにキャーと恥じらっておろおろしていた。か、かわいいな…きみ。わたしのところにお嫁さんにこない?

オノノクスに和み、先ほどのことなどすっかり忘れてしまったわたしは。出来上がったカレーをお腹いっぱい食べたあと、ダンデに「当然、リザードン級だろう?」と笑顔で逃げ道を断たれることをまだ知らない。

う、うっ 同棲は… 心の準備ができていないのに 同棲はムリだ…! 
カレーおいしいです…!

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