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彼氏の同人誌描いちゃう系彼女に振り回されるクダリ


自分で言うのも何なんだけど、ボクは結構優良物件だと思う。

まず身長が高い、それに顔だって悪くない。
小さい頃から体鍛えているから、体力持久力にも自信がある。名門大学卒、文句なし高学歴組。仕事も将来安泰の技術系管理職。男一人暮らしの高給取りだから貯金もかなりある。そしてなによりポケモンバトル。ことダブルバトルにおいてなら誰にも負ける気がしない!

子どもの頃は単純で、男の子なんてスポーツとポケモンバトルができればモテた。どちらも大得意であったボクはそれはもうモテモテで、何時もクラスの女の子たちに、双子の兄と共に持て囃された。当時はそれがどういう意味か良く解らなかったが、目に見える好意を寄せられるのは悪い気分じゃなくてそれなりに優越感を感じていたものだ。

だがトレーナーとしての旅を終え、大学に進学するとどうもその好意が疎ましいと感じる様になった。丁度、自分のやりたいことを見つけた時期でもあるからだろう。男女問わず常に纏わりついて来るヒト、少し何かしただけで大げさに誇張され振り撒かれる噂に毎日辟易した。ノボリ曰く、あの頃のボクはかなり荒れていたらしい。……まあ、ボクとしても。あの頃の戦法は力任せ過ぎて美学もへったくれもあったもんじゃない下策だと思う。我ながら黒歴史、というやつだ。

そうしてなんだかんだと念願のバトルサブウェイに就職。夢であったダブルトレインの三代目サブウェイマスターに昇進した。最高にうれしくて、それから数年は業務にのめり込んだ。仕事が生き甲斐であったと言っても過言ではない。自分から探さなくても、剛腕トレーナーがボクを目指して波のように押し寄せてくる職場は、まるで楽園のようだった。そう、バトルジャンキーのための極楽、本当に毎日最高の気分だった。

だけどそれも時と共に落ち着いて来る、そうすると自然に周りへと目が行くようになる。決定的だったのは同期で入社した同僚の結婚ラッシュ、「あ、ボク等はもうそういう歳なんだ」と漠然と感じた。

小さい頃から何かとモテたボクは、もちろんそれなりに異性とお付き合いもしたことがある。美人より可愛い系が好きなので、彼女になった子は皆ふわふわしたスイーツのような子ばかりだ。そして可愛いだけじゃなくてバトルセンスが優れていること、それがボクの中にあるカノジョの最低ラインだった。

サブウェイマスターになって、以前よりもレベルの高い女性との知り合う機会が増えた。バトルセンスも外見の愛らしさも、ずっと学生時代よりレベルが高い。何時もならその時の気分で恋人を選んでいたけれど、それからは…漠然と『結婚』を見据えて恋人を選ぶようになってしまった。ボクってば意外と保守的なのかもしれない。

高学歴、バトルセンス、顔、性格、収入に女子力…エトセトラ

常に最高のパートナーを選んで来たつもりだが、どうにも長く続かない。一度流石に頭を悩ませてノボリに愚痴をこぼしたことがある。顔ばかりが良く似ているだけの兄はフンフンと聞いた後、お決まりの無表情で「今に始まったことじゃないでしょう」と。お前は昔からそうだ、と一刀両断された。まあ、…思い返せば、ボク恋人と半年も続いたことないかもしれない。

飽き性なわけではない、ただ知らない他人と時間を共有することが得意でないのだと思う。特にプライベートテリトリー、…ポケモンバトルについて口を挟まれるのは堪らなくキライだ。それがきっかけで別れ話に発展したことも少なくない。ボクは『ポケモン』と『バトル』の事に関して、殊の外潔癖だった。

だけどトレーナーとなれば、どうしてもポケモンのことになると熱くなってしまう。どうせ一生を共にいる人なら、自分と同じポケモン専門職の人が良い。ワガママなことだが、この辺りは難しい心情なのだ。意見されたくないくせに、無意識に理解者を求めているのかもしれない。そんなんだから、結局同じようなヒトを選んでは失敗する魔のループ。ああもう、まるで環状列車だ。ボクは列車で、ぐるぐるぐるぐる同じ線路を走り続ける。早く、目的の駅で降りたいのに、何時まで経ってもドアの向こうへ降りられない。

正直焦っていた、もうダメかもと珍しく諦めかけていた。
だからこそ、こんな変な“選択”をしてしまったんだと思う。ああもうボクのバカ。いくらなんでもこれは、気の迷いが過ぎる!





「ミシャ コレどういうこと!!?」

怒りに任せて扉をぶち破れば、部屋の中心でびくりと震える影が見えた。…って、いうか暗い!部屋暗い!なんで真昼間なのに、こんな部屋真っ暗なの!?

今直ぐにでもミシャを問い詰めたい気持ちをぐっと堪え、ドリュウズをボールに戻す。ありがとうドリュウズ、カギのかかった扉をぶち破るなんて粗末なことに力を貸して貰ってごめんね。謝りながら手当たり次第に壁を殴打した。四度目位で漸く電気スイッチにぶち当たり、パッと部屋が明るくなる。そして漸く、ミシャの姿がしっかりと見えた。

「ま、まぶしぃ…!」

目を眩しそうに細めて、ごそごそと布団の中に潜ろうとするミシャ。まるで子どものような仕草に、ボクの堪忍袋の緒ははち切れんばかりである。今年で25歳になる大人が、ホントになにをやってるの!

「布団に引きこもるなって何時も言ってる!」
「キャー!」

大股に近寄ってミシャから布団を力任せにむしり取る。う、ぐっ…この布団すっごくミシャの香りがすr………じゃなくて! ボク、今、すごい、怒ってるの!

「コレ、どういうことかちゃんと説明して」
「うぐっ」
「ボクもう止めてって言ったよね? ミシャも“わかった”って言ったよね? じゃあコレはどういうこと、ボクまったく意味が解らないんだけど」
「え、あっと…そのぉ…」

眼前に突き付けた証拠(ブツ)を見て、ミシャの目が泳ぎ始める。視線があっちへこっちへと宙を踊り、ボサボサの髪を指先でいじくる。解りやすく動揺するミシャに、呆れてため息も出ない。

「ボソボソしない、ハッキリ言う!」
「ひゃい!」
「ひゃいってなにそれカワi… じゃなくてっ、ボクすっごい怒ってる! ボクがどんな気持ちでコレを押収したか解る!? 何が悲しくて、双子の兄とセックスしてる本を没収しなきゃいけないのさ!」

口にすると一時間前の出来事が、悲しい心境と共に鮮明に思い出されてくる。ボクはその重圧に耐え切れず床に崩れ落ちた。お手本みたいなorzだった。頭を抱えるボク、なんてかっこ悪い。そんなボクに流石のミシャも良心の呵責に堪えなかったのか。狼狽えた様子で、ぼそぼそと言った。

「あの…その……、えっと…わたし的にはそういうシチュエーションも有りだと思います。 いままで意識もしなかった相手… 動揺してお兄さんと間に距離が、 深まっていく溝、だけどそれが切欠でお互いを意識するようになる… そうしてはじまる禁断のラブストーリー…」
「ホント君の思考回路どうなってるの!!!?」
「だって、三次元でそんなシチュエーション滅多にない… ご飯3杯おかわりできそうです。あの、差出がましいのですが、もうちょっと詳しく教えてくれませんか 前のコミケ落ちちゃったんですけど、次はそれで新刊刷ります」
「え、ごは、 コミ ない、 ちょ、お願いだから、ボクと話してる時に良く解らない言葉使わないで。 この前会議中にうっかり言って誤解された」
「m9(^Д^)プギャー」
「お願いイッシュ語で喋って!」

ミシャは元気そうだけど、ボクのSAN値はもう限界だ。だがここでなあなあにしてはいけないということは、解っている。ズキズキ痛む頭を押さえつけ、ボクはキッとミシャを睨みつけた。そして例の猥褻物(ブツ)を開き、あとがきページをミシャに突き付けた。

「ここ! この漂白厨ってミシャのサークルでしょ」
「ナ、ナンノコトカ…」
「とぼけるつもりならせめてサークル名変えなよ! これ前のサークル名と一字一句同じ! まったく意味ない!!」
「はっ、なるほどその手があった…!」

言われて気づきましたというミシャの顔に、ボクは自分がしていることが酷く滑稽に思えてきた。
確かこういう気持ちを、カントーでは暖簾に腕押しと言ったはずだ。独り相撲ともいう。ああ、だからミシャと話すのはイヤなんだ。何を言ってもまるで手応えが無い! ボクもミシャも一方通行、偶に方向性があったとしても交通事故みたいになる。本当にどういうこと?君一応、成人してるんだよね。実はまだティーンズとか言わないよね。いや…だとしたら色々説明が付く気がするけれど、……。

「___ミシャ、あのね。ボクは君の趣味にどうこう言うつもりはないんだよ、そりゃ…理解はできないけど。でも好きなことは人それぞれ、だから否定はしない」

※正直その言葉にもう隔たりを感じると思ったが、ミシャは黙って頷いた。

「好きにやれば良い、こういうのも…描きたいならかまわない。 買うのも…まあ、自由だよ。でも、お願い。お願いだから、ボクとノボリを良く解らない本のネタにするのは止めて…!」
(今日の夕飯どうしよう)
「ねぇボクの話聞いてる!!!?」

「すっごく真剣な話ししてる!!」って怒鳴るも、ミシャはどこに吹く風だ。こっちはものすごく恥を掻いた上、誠心誠意お願いしているのに、反省の色すら全くないってどういうことなの。

「なにが悲しくて、恋人が描いた自分の同人誌を没収しないといけないの!?」

うわあああああ!とボクが泣き崩れても、やっぱりミシャはちょっと申し訳なさそうな顔をするだけだった。

今のボクの彼女、ミシャ・シノノメ。
名前の響き通りカントー出身で、親の都合でイッシュにやってきた。ボクより4つ年下で、日の殆どをパソコンに向かって過ごす所謂引きこもりというやつだ。このご時世においてパートナーポケモンがいないという、かなりレアな人間でもある。

出会いは1年程前に遡る…本当に色々あって紆余曲折の末に、ボクはミシャは交際することになった。当初は直ぐに別れると思っていたが…驚く無かれ、来月でファーストアニバーサリーである。ホントどうしちゃったのボク、こんなどう足掻いても迷惑な子とまだ付き合ってるの!?

ミシャは見目こそそれなりにだ。だけどボク好みの可愛いというよりは、ノボリが好みそうなキレイに部類される子だ。イッシュでは珍しい肌の色や顔立ちも、見ようによっては異国情緒でエレガントだと思う。普通にしていれば問題ない、そう普通にしていればのはなし。

ミシャには、どうしようもないある分野に対する変態的嗜好があった。それは所謂サブカルチャー…アニメ、漫画、ゲームと言った類への比類なき探究心と吸収力…ようするにオタクだ。それだけならまだ良かった、ボクだって他人から見ればポケモン・鉄道オタクだという自覚はあるし。だけど、彼女の場合はそれですまされない。そう問題なのは、ミシャがその中でもある特定の部類を好んでいるということだ!その…つまり、所謂…BoysLove。通称BL(ビーエル)と呼ばれる、男同士の恋愛や睦愛である。

(ありえない… 恋人を同人誌のネタにするとか…)

どことなくボクと似ているコートを羽織っているにニコニコ笑顔の美男子。それに押し倒されて顔を真っ赤にしている同じ顔をした…おんなじ顔をした美青年が表紙に描かれた薄い本。それを、ボクは親の仇の様に睨みつけた。言っておくけど、ボクとノボリにこういう趣味はないから!!!断じてないから!!!

「えっと、通販で少数販売とかならオーケーですか?」
「ダメに決まってるでしょ」

とりあえずこの忌まわしい本はコンロにくべた。ミシャがイヤーと止めにかかって来たが知らない、聞こえない、見ていない。そんなひ弱なパワーでボクを止められると思ってるの。

まったく本人が改善するつもりがなさそうなので、今夜あたりこっそりパソコンのデータをクラッシュさせようと算段を練りながら工事業者に電話する。ミシャはいったんボクの家に運べば良いとして、扉は直さないとね。…ここまでされて、別れるって選択肢が出てこないのかって? それは、まあ…うん…、そ… の…。

「うるさいうるさい!!!!」
「え、突然こわ…」

普通にドン引きする反応にイラっとしたので、ミシャの頬を思い切り抓っておいた。だって、だってほら。こんな迷惑な子、ボク以外が面倒看てあげられるわけないから。他の人に迷惑をかけないようにするためにも、ボクが見張っていないとダメでしょう? だから仕方なく、傍にいるだけ。それだけなんだよ。

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