PKMN | ナノ

Wataru,Daigo


2023/1/8…誤字修正




ポケモン夢オンリー「タイプ:ドリーム」
2022冬 企画参加作品



ワタル | 冬仕度

マントの留め具を外し、髪にかかった雪と一緒に払い落とす。
そうして漸く家に入ると柔らかい暖かさに包まれて、肩の力が抜けていくのがわかる。骨身まで凍るような冷たさに、無意識のうちに体が強張っていたのだろう。

何時も帰宅したら庭に回って休んでいるカイリューが、ボールに戻せと言ってきたほどだ。今夜は特に冷え込むかもしれない、そんなことを考えながらブーツを脱いで上がるが___ミシャが来ない。

いつも玄関を開ける音にいち早く気づいて飛んできてくれるのに、

(寝ているのか、)

…今年は、例年に比べると、かなり急な寒暖差となった。日々の移ろいの中でゆっくりと暖かさが冷たさに代わる間がなく、気付いた時には冬になっていたという所感だ。

使っている部屋は少ない癖に、面積ばかり大きなワタルの家は冬支度をするのも一苦労だ。それを嫌な顔一つせず毎年整えてくれているミシャには感謝しかない。今朝も小さな体で朝から右へ左へと大忙しだったので、疲れて眠ってしまったのだろう。

足音を殺して慎重に居間に入ると、部屋にはオレンジ色のストーブが灯っていた。テレビが小さな音でバラエティを流し、その前に置かれたコタツの中でくたりと眠っている人がいる。

(良く寝ているな)

顔にかかった髪を払うと、穏やかな寝顔が良く見えた。柔らかい頬のラインと、少し火照った頬の赤み。そこにはワタルが守りたいと願って止まないすべてが詰まっているように思えて、泣いてしまいたい衝動にさえ駆られる。堪らずに頬に口付ければ、帰って来たばかりのワタルの冷たさに驚いたのかぱちりと、眠っていた瞳が開いた。

「 つべ、た」
「すまない、起こしたか」
「え、 ああ、大丈夫です」

慌てて起き上がるミシャの隣に座って様子を見れば、どうにも眠気から抜け出せないようだ。忍び寄ってくる眠気を払うように頭を振るのを見ていると、ふといたずら心が芽生える。…普通なら幼稚なことを自制することも、きっと彼女なら許してくれるだろうと思えるのだから不思議だ。

「ミシャ」と呼べば彼女は素直にワタルを見上げてくる、その様子があまりに無防備で笑ってしまう。こちらを信じて疑わない彼女、暖かいニットから見える細い首筋に____ワタルはきんと冷えた掌を押し当てた。

「ァアアアアアアアア゛―――――!」
「クッ」
「わわわわ ワタルさん゛!? つめた わたるさん!」

パニックになって小さな体で暴れようとするが、ワタルの力に適うはずもない。ミシャが口を大きく開けて自分の名前を呼ぶのが面白くて、思わず声を上げて笑ってしまう。

「ど、どうだ 目が覚めただろう」
「なんてことをするんですか、なんてことを! これが人のすることですか!」
「君のためをおもって」

真面目な顔で答えてみたが、はあ?という顔をするミシャに耐え切れず顔を逸らす。笑うのを必死に堪えたが肩が震えているので隠し通せない。それをみた彼女が顔を沸騰した薬缶みたいに真っ赤にして、もうとワタルを押し倒した。ミシャ程度の力はどうということはないが、笑っている所為で力が入らずワタルの身体は容易く畳の上に転がってしまう。

「ワタルさんが寒くないようにって、わたし一生懸命冬支度したんですよ」
「そうか」
「沢山動いてすこし疲れて転寝してしまいましたが、そんな恋人思いのわたしにあんなイタズラをして」
「すまなかった、…本当に感謝している。カントーで君以上に俺を思ってくれている人はいないな」

ワタルの上に乗ってぷんぷん怒っていたミシャの顔から、少しだけ和らぐ。ああもう一息だな、そんなことを思いながら彼女の身体に触れた。分厚いニットに拒まれて、いつもワタルの手に吸い付くように馴染む肌には届かない。その柔らかさが恋しいが、何もいま強請ることもないだろう。

名前を呼んで、そっと彼女の後ろに手を回す。望んでいることが伝わったのか、ミシャはゆっくりと体を倒してくれた。こつんと額を合わせれば「つめたい」と小言を言われる、「わるい」と返して頬を擦り合わせた。吐息の音が聞こえる、互いしか瞳に映らない距離で抱きしめて___唇にキスを。

冷たいワタルと、暖かいミシャの温度を分け合うように口付けを交わす。呼吸が苦しくなったのか、ミシャが腕をついて体を離そうとするから、名残惜しさを伝えたくて最後に噛みつくようにキスをした。

「ただいま」
「…おかえりなさい」

ワタルの上に乗ってしまうほど小さな体を抱きしめる。隙間から僅かに零れてくる冷たさも、ストーブのオレンジに照らされた天井も、ガラス戸の向こうでしんと降り積もる雪も。全部当たり前のことなのに、ミシャが連れてきてくれた息吹であるように感じてならない。

この星に在ってそれだけの存在だが、これだけがないとワタルはもう息の仕方すら思い出せない。情けないことだと思いながら、この温もりを手放したくなくて強くつよく彼女を抱きしめた。







ダイゴ | 雪化粧

「雪化粧」

そんなことを突然言うから驚いて、顔を上げればダイゴさんが「だよね」と笑った。

指差す先には、ターンテーブルにちょこんと乗ったケーキ。冬ごもり前のパチリスみたいにフルーツを沢山隠したドーム型のスポンジ、その上にナッペ用の生クリームをたっぷりと垂らしてスポンジを覆い隠そうとしているところだった。

「そうですね、きれいに雪化粧ができたらイチゴを乗せて完成です」
「楽しみだ、君の作ってくれるものはどれも美味しいから」
「これは近所の子どもたちにあげるので、ダイゴさんは食べられませんよ」

ダイゴさんが摘まんでいたクッキーを落とした。まるでサンタクロースに裏切られた子どもみたいな顔をするから大げさだ。その隣でエアームドも大きな嘴を開けて愕然としている、そういう顔をしているとトレーナーそっくりでなんだかとてもおかしい。

「ボクたちの分じゃないの」
「違います」
「朝から美味しそうな砂糖の匂いがしてずっと楽しみにしていたのに」
「クッキーをどうぞ」

これも手作りであることに変わりないし、同じくらい真心こめて仕上げたつもりだ。だがそれではダイゴさんは満足しないようで、むすりとした顔でカウンターテーブルに突っ伏してしまう。

「ケーキが食べられると思ったんだ、クッキーじゃ満足できない」
「ギィ」

ダイゴさんに同意するようにエアームドが頷く、…これは人間用なので、どのみち彼は食べられないのだけど。駄々をこねる大人を無視して仕上げを進めていると、ハッと顔をあげたダイゴさんが名案思いついたというように言う。

「味見は必要じゃないかな」
「もうしました」
「……」
「子どもたちに頼んで一緒に頂いたらどうですか」

良い提案だと思ったのだが、ダイゴさんは片肘をついて苦虫を噛み潰したような顔で呻く。

「…ボクはあまり子ども受けが良くないの、君は知ってるだろう」
「ダイゴさんは笑っていても少し冷たい印象ですからね、でも苦手だからと嫌煙していると何事も上達しませんよ」

そんなこと、ホウエン地方のチャンピオンに昇りつめたダイゴさんには必要ない助言だろうと承知で言えば。彼にとっては痛い指摘だったのかぐうと口を噤んでしまった。

すると突然ダイゴさんの身体が少しだけ横に傾く。ニットが何かに捕まれたように不自然に歪んでいたので、すぐにその正体は知れた。体の色を器用に変えているが、お腹の特徴的なギザギザ模様がそのままだ。

「カクレオン」
「グググッ」

ダイゴさんに正体を暴かれ、カクレオンがゆっくりと溶け込んでいた景色から浮かび上がってくる。特徴的な声で鳴いてひとつ頭を振ると、じっとわたしのことを見つめてきた。ダイゴさんが保護してきた彼は、わたしのお留守番仲間なのでそれなりに意思疎通ができる。君が欲しいのは…このあまったイチゴだね。

「ひとつだけよ」
「グッケイ」

デコレーション用に形を整えたので余ったイチゴ端っこ、掌に乗せて近づければ一瞬で伸びた長い舌がすぐにイチゴを攫って行った。口をもごもごと動かしてフルーツの甘みを楽しんでいる顔は幸せそのもので、見ているこちらも笑顔になってしまう。

「ミシャ、ボクの分は」

エアームドにもイチゴを少し与えると、カクレオンを肩に乗せたダイゴさんがそんなことを言う。…確かに、彼のポケモンたちに与えて置いて、肝心のトレーナーに何もなしという訳にもいかないか。

なら少し彼は特別に。切れ端ではなく余ったイチゴを一粒摘まむ、ヘタをとってたっぷりと生クリームをすくい上げる。彼の言葉を借りるなら、真っ赤なイチゴに雪化粧をといったところだろうか。

クリームが落ちる前に手渡そうとしたのに、ダイゴさんはカウンターに身を乗り出して口を開けるからそうもいかない。求められているものは分かるが、彼に肩車されたカクレオンがじっと見てくるから気恥ずかしさが勝ってしまう。それを悟ったのか、カクレオンが「グッグッ」と鳴きながらすうと姿を消す…こういう時ばかり、いらない気を回すところは誰に似たのか。

すっかり断る理由が無くなってしまった、諦めてそっと彼の口にイチゴを運ぶ。

真っ白な生クリームが口の端に着かないように気を付けて、ダイゴさんの舌に甘みが溶けたのか冬の湖の色をした瞳が少しだけ蕩ける。イチゴを掴むわたしの手首に指を這わせて固定すると、そのままくしゃりとイチゴを噛んだ。

少し乾いた唇が、わたしの指に触れて。瑞々しい果実を食む。
その様子が酷くいけないものに見えて息を殺せば、ダイゴさんの目がわたしを捉える。テレビ越しに何度も見てきた、防衛戦でも滅多に見せることのない力強い瞳が…動くなと。

その瞳は何時だって、言葉以上にわたしのことを縛り付けて離さない。

固まって動けないわたしをみて小さく笑うと、残ったイチゴに口付ける。そうしてころりとイチゴを口の中に収めると、名残惜しそうに指に残った僅かな果汁を吸い上げた。そうして何もかも、空腹の胃に甘いものをたっぷり収めたダイゴさんは、満足そうに赤い舌で唇を舐めた。

「ごちそうさま」

にっこりと今更紳士的に笑って、絡め捕ったわたしの手にキスをする。今更とんでもないことをしていたことに気づいて、カアとなるわたしはダイゴさんの目にどんなふうに映っただろう。

その様子をカクレオンと、彼を肩車しているエアームドがじっと見ていることに気づいて、慌てて掌を引っ込める。火照る熱を収めたくて水道でじゃばじゃば洗っていると、ダイゴさんが2匹に「照れ屋だよね」と小さな声で囁いた。だからもう、ほんとうにこの人は油断ならない!

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