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ワタルさんと作るイースターエッグ


「ミシャさん、今年のイースターなのだけれど」

朝、家を出る時にご近所さんに声をかけられた。ああ、そういえばもうそんな時期だった。イースター祭___それは遥か昔…ポケモンがまだ世界に現れていない時代から受け継がれているお祭りだ。

時世の人々が神様の復活を祝うためのお祭りが起源だと大学で習った。今では大きく様相が変わり、春の訪れを子どもたちと祝うことが主軸となっている。イースターの3日間は、子どもたちはバスケットを手に町の中を駆けまわり、大人が隠したイースターエッグを探すのが恒例だ。

斯く言うわたしはオトナ組のため、イースター祭りの際は裏方の担当だ。

(…たくさん、貰ってしまった)

イースターエッグ作成用のタマゴ型のボールと、それに詰める予定のお菓子で両手がいっぱいだ。時期外れのサンタさんにでもなった気分だなあ、と自宅までの帰りの道を歩く。動き辛いスーツで大荷物を運ぶのは中々ハードで、せめて会社の帰りではなく休日に伺えば良かったと後悔した。つい気が急いてしまった。

そうして漸くたどり着いたマンション、エレベーターから降りるとわたしの部屋の前に大きな男の人が立っていることに気づく。すわジュンサーさん案件かと体が強張る。だが、わたしの気配に気づいて振り向いた横顔を見て、ああとそれが杞憂であることを知る。

「ワタルさん」
「…随分と大荷物だな」

トレードマークとも言える夕日を溶かしたような髪を帽子で隠したワタルさんが、わたしの両手の荷物に気づいて直ぐに近づいてきてくれた。大きな手が荷物を取ろうとしてくれるので素直に甘えて受け渡す、このままじゃ家のカギも出せないもの。

「菓子か、珍しいな」
「色々事情があって…、今日いらっしゃる予定でしたっけ」
「用がないのに来るなって」

そう言って意地悪な笑い方をするワタルさんに、むっとして「そういうわけじゃないですけど」と早口に捲し立てる。

「言ってくれれば、早く帰って来たのに」
「別に君の予定を邪魔するつもりはなかったからな」
「あなたが気にしなくても、わたしが気にするんです」

ああいえばこういう、困った人。家に入れるのを止めてしまおうかと考えながらカギを差し込む、するとワタルさんが「ミシャ」と呼ぶ。少し離れて後ろにいたはずの人の声が耳元でして、驚いて振り向けばちうと耳元にキスが降る。

「怒らせるつもりはなかった、君が嫌なら次からは連絡を入れるようにしよう」
「…」
「怒った顔がみたかったわけじゃない、…ここの所、俺の都合で振り回してしまっていたから。その埋め合わせをしに来たんだ。君も喜んでくれると思ったのだけれど」
「…」

いつも強気な人ってずるい、こうして少ししおらしくしているだけで許してしまいそうになる。

大きな背を屈めて、グレイの瞳がじっと見つめてくる。ぐうと引き下がるわたしに、ワタルさんは追い打ちをするように触れるだけのキスをして「開けて」とマンションの扉をノックした。ああもう、本当にこの人はズルい!





「イースターエッグ」

わたしの言葉を繰り返して、不思議そうにタマゴのボールを掌で転がした。

「子どもたちはコレを探していたのか」
「はい、子どもの頃やりませんでしたか? エッグハント、」
「こういうシャレた催しはなかったよ、祭りと言えばクタクタになるまで大人の手伝いに駆り出された記憶ばかりだ」

何か嫌なことを思い出したのか、ワタルさんがふと遠い目をした。秘境ドラゴン使いの聖地、フスベの里。名前こそ知れ、実際にその地を踏んだものは数少ないと言われる場所が、ワタルさんの出身地だ。

「ケースになっているので、中にお菓子を詰めるんです」
「ほう」
「それで周りにイラストを描けばイースターエッグの完成です。ふふ、わたしのイースターエッグ子どもたちに好評なんですよ」

数少ない自慢を口にすれば、ワタルさんは少し目を丸くした後「そうか」と笑った。

ご飯を食べてお風呂に浸かる。どうやら今日は泊っていくつもりのようで、手持ちの殆どはポケモンセンターに預けてきたらしい。この小さな家では、体の大きいドラゴンたちは満足に羽を伸ばすことができないので何時もモンスターボールの中で眠っていてもらっている。毎回申し訳なく思っていたのだが、それなら安心だ。ポケモンセンターの方がずっと快適だろうから。

「先に眠っていいですよ」
「いや、やりたい」

すっかり髪も下ろしてオフモードになった所為か、その口調は何時もの彼からすると少し舌足らずだ。それをわざわざ指摘するつもりはない、…いつも緊張してばかりの人だから、すこしでもここでリラックスしてくれているのなら喜ばしいことだ。

どうにも何か手を出したいようなので、ワタルさんにはタマゴにお菓子を詰める仕事をお願いした。終わった端から、わたしがタマゴに装飾していく。パレットに絵の具を出して、どんな柄にしようか考えながら筆を滑らせた。

早々に仕事を終わらせたらしいワタルさんが、じいとそれを見ている。つまらないだろうと思ったが、そうでもないらしい。試しに筆を渡してみたが、絵心は故郷に置いてきたと断れてしまった。

ベッドに寄りかかって、わたしの肩に少しだけ首を凭れてくる。どうにもうとうとしているような気がしないでもないが、まあ彼の好きにさせようと。わたしは自分の仕事に打ち込んだ。

「あれは、できたらどこに隠すんだ」
「普通は作った人のお庭とか、近くの森ですね。わたしはマンションなので、いつもまとめ役の方にお渡しして街に隠してもらっています」


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