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ツワブキダイゴのキラキラシュガー


「他人が作ったものは食べられないんだ」

トレーナーとして駆け出しの頃、ファンだという少女から貰ったクッキーにしびれ粉が混入されていた。夜の森の中身動きを取れず、昏い夜を獰猛なポケモンの鳴き声に怯えながら過ごした。結局、極度の緊張と脱水により意識が飛んで朝まで持たなかったという。目が覚めたのはダンバルとココドラが、ダイゴさんを川に引きずりこんでくれた瞬間だという。

「だから秘密、ね?」

そういって、彼は口元に指を寄せる。甘いマスクに隠しきれていない、鋭い眼光。それがこれは脅迫だと案に告げていた。拒否権などないのだ、黙って頷いたわたしを見てダイゴさんは満足そうに出て行った。残されたのはわたしと、ゴミ箱に捨てられた…ラッピングされたチョコレートの山だけだった。

(だからといって捨てることはないだろうに)

だけどこれはわたしが貰ったものではないから、どうするか決めるのはダイゴさんだ。世の中とイケメンは世知辛いものだ、一口も食べてもらえなかった女の子の無念に手を合わせて、わたしはそっとその場を後にした。こんな場面に出くわしてしまうとは、お払いにでも行ってこようか。





「チョコレートは?」

あの後、ジョウト地方のエンジュシティにある著名なお寺まで行ってお払いまでしてもらったというのに、どうやら効果はなかったようだ。さも当然という顔で訊ねてきたダイゴさんに眩暈さえする。とりあえずカバンを探って、今日のおやつ代わりに持って来たチロルチョコを渡すと、ダイゴさんは分かりやすく顔を顰める。

「本気? ボク相手に10円チョコで済ませるつもり」
「10円なのは企業努力の賜物です。うちもこの位頑張っていきましょうという気持ちを籠めました」
「物は言いようだなあ…」

まあいいけど、とわたしのデスクに乗り上げてぺりぺり包装を剥がすダイゴさん。お世辞にもお行儀が良いとはいえないなかった。…変な生き物を懐かせてしまった、どうしよう。頭を抱えるわたしを他所に、ダイゴさんが「ミシャ、そこExcel式間違ってるよ」とディスプレイを指差した。え、どこですか!?

指摘された箇所を睨めっこしている内に、ダイゴさんはチョコレートを食べきってしまったらしい。口の中の甘みをスッキリさせたいのか、備え付けのカップでコーヒーを淹れようとしている。その姿を見て、あっと思い出す。先日買い物をしていて衝撃的な出会いをした、必死に目を逸らしたのだがどうしようもなく気になってしまい…気づけばレジで購入していたものだ。彼に見せようと思って、デスクに仕舞っておいたままだ。

「ダイゴさん、わたしもコーヒー良いですか」
「言う様になったね、君も。良いよ、ボクが手ずから淹れてあげるから感謝して飲むように」
「あ、自分で淹れるから大丈夫です」

ふふんと、気取った様子で紙コップを取ろうとするので、横からさっと手を伸ばして阻止する。横からじとりとこちらを見てくる視線には気づかないふりをして、サーバーを手に取る。まあサーバーのスイッチを入れてくれたのはダイゴさんなので、これも間接には彼が淹れてくれたと言えないこともないと思う。

そんなことを言って機嫌を取るのも良いが、今はそれよりもずっといいものを用意しているのだ。デスクにひり返って「ヤミラミ」と呼べば、デスクの裏からひょっこりとパートナーが顔を出す。

臆病だがダイゴさんは良く知っている子なので、怖気る様子もなく駆け寄ってくる。しゃがみ込むわたしに「いつの間に出したの」とダイゴさんが話しかけてくるが、まあまあ…ネ。ヤミラミを見ると、背中に隠した腕をもじもじさせた。

「どうしたんだいヤミラミ、何か後ろに隠してる?」

気になったのかダイゴさんも同じようにしゃがみ込む、よしよし計画通りだ。ちらりとヤミラミを見れば、彼もギザギザの歯をちょっとだけ見せてニコと笑う。そうしてダイゴさんが近づいてきたのを見て、ジャーーーンと後ろに隠していたものを取り出した。

「キッキキィ」
「____なんだい、これ」

ヤミラミが握っているものを見て、案の定、冬の湖みたいに透き通ったダイゴさんの瞳が輝きだす。ヤミラミの手に握られたウッドスティック、もちろんただのスティックではない。その端にはクリスタルが結晶化したような美しいものが施されている。

正体を知っているわたしはその反応が嬉しくて笑みが止まらない、それを見てヤミラミも嬉しそうにカシカシ笑う。一人置いてきぼりにされている感が許せないのか、ダイゴさんは少し目を丸くしたあとぶすりと顔を近づけてきた。

「ミシャ」
「ふふ、だって面白くて」
「ミシャ」
「予想通りの反応なんだもの、ねえヤミラミ」
「シッシシ」
「二人とも意地悪だ、いやヤミラミはトレーナーに似たんだろう。つまり君の意地が悪い」

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