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採掘帰りのダイゴ の プレゼント の こうげき !




「ミシャ」

ニコニコと一目でわかるほどに上機嫌なダイゴさん。どうかしたのかと首を傾げると、スキップしそうな足取りでローテーブルの上に持っていたものを広げ始める。

「どうしたのそれ」
「この前カロス地方に行っただろう、その時採ってきた鉱物の選別が終わったんだ。欲張りすぎてしまって、半分くらいは知り合いに頼んだのだけど…あ、こっちはボクがクリーニングした分」

手際よく大小さまざまなケースを振り分けてくれるダイゴさんには悪いが、正直言葉がでない。父親の会社経営を学びながらホウエン地方のチャンピオンまで勤める人なのに“自分で”って。一体どこにそんな時間があるのだろう、いや好きだからこそという。彼にとって趣味の採掘が、何よりの息抜きになっているのだろう…と、思う。

「輝きの洞窟っていうコウジンタウンの東側にある洞窟に行ったんだ。蛍光物質を含んだ蓄光石が多いのが特徴で、化石が発掘されることもある最高の場所だよ。ハアーー…、思い出しても夢のような時間だった。永遠にあの美しい場所に留まっていられたらどれほど幸せなんだろう」
「死んじゃう?」
「死んじゃう」

脳裏に焼き付いた美しい景観を思い出しているのか、ダイゴさんは顔を手で覆うと唸るような声を出してソファの背に凭れた。ブツブツと意味の解らない専門的なことを語りながら反芻に浸っているのを邪魔するのも気が引けたので、わたしはローテーブルの上に広げられた戦利品を見せてもらうことにする。

大小の箱は全てラベリングが施されており、採掘された場所、時間、座標までが細かく記録されている。試しに箱をひとつ選んで開いてみると、絹のクッションの上に蕩けるほど美しい桃色の鉱石が寝かされていた。

「わあ、」
「____ローズクウォーツ」

何時の間にか幸福な夢の世界から目覚めたらしい、ダイゴさんが鉱石の秘密を教えてくれる。

「これはその一部、ポケモンが掘り進んだ痕跡に紛れていたのを見つけた。水晶の一種だけど、産地が限られている希産種だ。未だ基本的なクリーニングしかしていなけれど、研磨すればもっと深い色になる」
「深い色…、わたしローズクウォーツっていうともっと薄い色のものしか見たことない」

ローズクウォーツといえば、数ある鉱石の中でも親しみがある。女性受けする色味でアクセサリーに加工され販売されているのを良く目にするからだろう。

だがどれも、これほどに深い色ではなかったはずだ。不思議に思って口にすれば、ダイゴさんが楽しそうにソファから起き上がって教えてくれる。

「輝きの洞窟はメレシーと呼ばれるポケモンの生息地で、彼らにとって特別な場所なんだ。メレシーの中には稀に変異する個体がいて、その変異体は芸術の代名詞でもあるカロスをもって『世界一美しい』と称される。…凛然と輝くピンクダイヤモンドを纏ったポケモンはディアンシーという特別な名で呼ばれ、彼らが生まれた年はそれを祝福するように全ての鉱石が深く色づく」

ダイゴさんの手がわたしの手を包むようして重なり、ローズクウォーツが眠る箱を愛おしそうに見つめる。

「その中でも特別美しいバラ色を纏った鉱石はディアンシー・ローズと呼ばれ、カロスの民に深く愛されている。…この子もすごく美しいけれど、それには遠く及ばないそうだ。他の地方で採れるものよりずっと色濃いけど、分類としてはローズクウォーツだと言われたよ」
「そう、…次カロスに行くときは見られるといいね」

ディアンシーというポケモンがどれほど貴重な存在かは知れないが、ダイゴさんも中々運を引き寄せる力のある人だ。それに彼ほど石や鉱物を愛している人もそういない、きっと素敵な巡り合わせが訪れるはずだ。

そう思って口にした言葉は、彼にとって意外なものだったのか。ダイゴさんは薄湖色の瞳を少しだけ丸くしたが、すぐに目元を和らげて「そうだね」と笑った。

「___っと、そうだ。ミシャに見て欲しいものがもうひとつあってね」

いくつかの鉱石を見た後、ダイゴさんはローテーブルに積みあがった箱の山からひとつのケースを手に取った。深いネイビーのベルベットケース、それを手渡された瞬間酷く嫌な予感が全身を突き抜けた。

ケースを睨みつけたまま黙っていると、ダイゴさんに「開けてみて」と促されてしまう。

…正直開けたくないのだが、中を見ていない状態で断る理由も思いつかず。渋々ケースを開くと、中には____今まで見た鉱石とは比べ物にならないほど、眩く輝く星々が寝かされていた。

「いくつか宝石も採れたからミシャに…、閉じない閉じない」

そっとケースを閉じるわたしを、ダイゴさんが面白そうに喉を鳴らして止めた。いやいやいや、だって。

「いらないいらないいらない」
「ボクが持っていても持て余すだけだよ」
「この前もそう言っていくつか頂きました、もう十分です」

ぶんぶん首を振れば、ダイゴさんが「とれちゃうよ」と揶揄うがこっちは真剣だ。

ダイゴさんは鉱物や鉱石…特にポケモンや自然の力が秘められた結晶には目がなく、自宅に専用のディスプレイルームを設けるほど傾倒している。

時にその道の研究者を唖然とさせるほどの情熱を見せる“ダイゴ”の名は、ホウエンチャンピオン以外にも“あらゆる洞窟に突如として出現する謎の石マニア”としても一部界隈で有名になっているほどだ。

対して、一般的に好まれる天然石や宝石といった類に分類されるものはそうでもないらしく。気に入ったものは家の共通スペースや職場に飾ったりするようだが、それ以外は保管庫行きになることが殆どだ。

だが最近は…その、ありがたいことに…わたしにプレゼントという形で贈られることが多くなった。保管しているままなんて勿体ないから、というのがダイゴさんの主張だが贈られる方としては堪ったものではない。

これが一年に一度程度の頻度ならば、素直にありがとうと受け取れる。だが相手はあの“ダイゴ”さん。…この人のフットワークの軽さと石に捧げるバイタリティは伝説のポケモン級であり、多い時は一月に七回ほどフィールドワークという名の洞窟探検に繰り出している。

それはつまり、同じ頻度でプレゼントを貰っているということで。

「ネックレスもブレスレットも、もう沢山あります」
「じゃあピアスにしよう。ほら、これなんてミシャに良く似合いそうだ、小粒の揃いで採れたんだよ」
「ダイゴさん」

イエローの燐光を帯びた宝石を手に、わたしの耳に宛がうダイゴさんはとても楽しそうだ。言っても聞かないので腕を掴んで止めようと試みみるが…あ、くそう…力が強くて引き剥がせない!

「ボクが見つけて採ってきたものをどうしようとボクの勝手だろう」
「その通りですが、わたしの気持ちも考えてください!」
「うーん…、ならミシャのパーティードレスに合うように、デザイナーに頼んで一式アクセサリーにしてもらおうか。そんな風に断られて、ミシャに受け取ってもらえなかった宝石たちが倉庫で寂しくしているわけだし」
「ピアスがいいです、ダイゴさん、わたしすごくピアスほしいです」

よいしょと、わざと仰々しく立ち上がって見せるダイゴさんの腰に慌ててしがみ付いて叫ぶ。そんな、そんなのいくらかかるのか考えたくもない話だ!

積み重なっていく見えない金額のルーレットに阿鼻叫喚しているわたし、「ほんとう?嬉しいなあ」とダイゴさんが白々しい笑顔を浮かべる。ああもう本当に、この人は…本当に…この人は!

「い、いっこで、いいですからね」
「うーん、こっちもミシャの白い肌に良く栄えるね」
「いっこで、良いですからね!」
「ほら、こっちの宝石はボクの目の色と似ているんだ。うんうん、君にもよく似合う」
「話をきいてお願い」

これはひとつで、こっちは組み合わせて〜と楽しそうにしているダイゴさんの目には、肌に宝石が触れる度に過呼吸になりそうになっているわたしが映っていないに違いない。

いずれ彼に貰った宝石でドレッサーが埋まってしまう日も近いかもしれない。そんなありえ無くもない未来に頭を悩ませることで一生懸命だったわたしは、ダイゴさんがどんな瞳でわたしに宝石を宛がっていたのか知る由もなかった。





「ツワブキ様、こちらがご注文いただいた品となります」

コンシェルジュが丁寧に並べたアクセサリーを、ひとつずつ確認する。全てダイゴがオーダーした通りの仕上がりだ。特に指定しなかった細部もダイゴ好みに仕上げてきているあたり、この工房は抜け目がない。

「うん、___君たちはいつも良い仕事をしてくれるね。リテイクはいらない、今日いただいていくよ」
「ありがとうございます、お包みはいつもの内容で宜しいですか」
「サファイアの方はすこし華やかにしてくれ」
「承知いたしました、そのようにご用意させていただきます」
「リリィン」

アクセサリーの寝かされたトレーをイエッサンが受け取り、コンシェルジュと共に下がる。代わるようにして奥から一人の男性が現れる。その後ろにはベールのように白い体をなびかせるサーナイトが続き、彼女が持つトレーには、ダイゴがもうひとつオーダーしていたものが寝かされていた。

「ご無沙汰しておりますツワブキ様、ご注文いただいていたこちらのものですが」
「ああ、___うん、やっぱりデザインを変更して貰って良かった。この方が彼女に似合いそうだ」

サーナイトのサイコパワーで浮かび上がる…美しい曲線を描く銀細工、宝石が散りばめられた眩いティアラ。バレリーナのようにピルエットすると、ひとつひとつ丁寧にカットされた宝石がスターダストのように輝いてダイゴの顔を映した。

それを見たサーナイトがダイゴの感情を写し取り穏やかな声音で歌う、その姿を見てダイゴの言葉に偽りがないことを悟ったのだろう、男も強張っていた顔を緩め恭しく首を下げる。

「ご希望に添えたようで大変喜ばしく思います、後は中央を彩る宝石ですが…いかがいたしましょうか」
「一応目星はついているのだけれど、まだお目にかかれていなくてね」
「ツワブキ様がまだ見たことのない宝石、ですか。それは数が限られますね」
「ふふ、ボクなんてまだまだひよっこ同然だよ。…それを手にする栄誉を頂けたなら、ここに飾りたいと思っている」

ティアラの中央、銀のウェーブの中央にぽっかりと空いた穴。…ああ、きっとそこにはティアドロップにカットしたバラ色の宝石が良く栄えることだろう。

「だからそれまでは、他のものと一緒に保管しておいてくれるかな」
「はい、責任もってお預かりさせていただきます」

ダイゴが立ち上がるのを見て、控えていた従業員が空かさず預けていたスプリングコートを広げる。コートと先に会計を済ませていおいたプレゼントをイエッサンから受け取る。その奥でサーナイトがベルベットの宝箱にそっとティアラを入れるのを見届けていた男が、感慨深そうにダイゴに話しかけた。

「こちらで3つ目になりますね」

その言葉に、ダイゴは耐え切れないというように笑いを零す。男たちは何かおかしなことをいったのだろうかと目を丸くするものだから、「ごめんね」と断りを入れるが中々笑みが引っ込んでくれない。それはきっと、脳裏に浮かんだ彼女のせいだ。

…ミシャが、こんなものをボクが用意していると知ったらどう思うだろうか。顔を真っ赤にして怒る、それとも涙を流して喜んでくれる。どちらにしても楽しみだ、彼女がくれる喜びも怒りも悲しみも、すべてダイゴにとってかけがえのない宝物なのだから。

正直、ミシャが自分に向けてくれる感情ならどんなものでもかまわないとさえ思う。きっとどうなったとしても喜んでしまう自分が目に浮かぶから、我ながら面倒な男だと呆れる。いつもボクに振り回されているミシャは、堪ったものじゃないだろう。まあ止めてあげるつもりはないのだけれど、

「彼女がしてくれなそうなら、ボクがしようかな」
「ツワブキ様がお相手のことを思って作られたものです、きっと喜ばれると思いますよ」
「…ボクは、婚約もしてないくせに先走ってブライダル用のティアラを3つも作った男なわけなのだけど」

それでも?と、意地悪な顔で訊ねるダイゴに、男は目を見開いて言葉を詰まらせる。え、してないの。という声が顔に書いてあるような様子が面白くて、またクツクツと笑ってしまう。

そんなダイゴを見てどう思ったのか、苦言のひとつも零したくなっただろうに。男はすべてを呑み込んだのか、切り替えるようにこほんと咳払いをしてダイゴに提案して見せた。

「表にエンゲージリングもご用意しております、既製品となりますのでツワブキ様には少し味気ないかもしれませんが。宜しければ、本日はそちらもご覧になられて行ってはいかがでしょうか」

確かに、ボクにいま一番必要なのはそれに違いない。抜け目ないというかなんというか、揶揄われながらもしっかり商売してくる男性の逞しさに感心しながら、ダイゴは「そうだね」と靴を鳴らした。

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