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ツワブキダイゴが飲み比べで勝負をしかけてきた!


※アルハラ、無理な飲酒ダメ絶対!



ホウエン地方といえば自然豊かな観光地方である他に、屈指の酒処としても知られている。
地方別に見たシェアはもちろんのこと、アルコール消費量もトップを地方有数。赤子にも酒を飲ませて育てていると揶揄されるほど、ホウエン地方出身者はとにかく酒豪が多かった。

なにが言いたいのかといえば、…つまり、彼が勝負の方法に飲み比べを提案してきた時点で、わたしの負けは決まっていたということだ。

「_____ん、美味しいね。この蔵のお酒は今年が抜きんでて出来がいいと聞いていたけど、本当みたいだ」

ぐいと御猪口を煽ったダイゴはけろりとしており、軽やかな口ぶりでまだ自分はまだ味わう余裕すらあるということを突きつけてくる。

酒瓶を眺めながら「ミクリに教えてあげよう」とスマートフォンでぱしゃぱしゃ写真を撮っている彼が恨めしい、こちらは気を抜けばくっついてしまいそうな瞼を必死に堪えているというのに。

「う…」
「ギブアップする?」
「し、しましぇん しま、へん しまへ し ____しません!!」

噛んでしまうのすら弱みを見せている気がして苛々する。ぐわりと口を開けて大きな声で言えば、ダイゴは子どもを褒めるような顔でミシャに拍手を送った。

「はい、じゃあお酌してあげる」
「いいれす、自分でできます」
「え、ボク副社長だよ? 雇用主だよ? 一般社員の君が、副社長であるボクのお酌を断るっていうの?」
「え、こわ」

こわ…。と引き気味のミシャを放って、ダイゴは先ほど愉しんだ酒瓶を手に立ち上がる。そうしてミシャの横に移動すると、空いているグラスに並々と酒を注いだ。

「ちょ、そんないっぱい、」
「なに、ギブアップならいつでも受付してあげるけど」
「ぐ」
「さ、次は君の番だ」

テーブルに肘をついて、じいとミシャを見つめる瞳。その瞳が苦手だった、水銀を溶かしたようなダイゴの瞳。

何時だって自信に満ち溢れて、自分が負けるなんてつゆほども思っていない。他者を傅かせ、時には屈服させることに慣れた強者の瞳を見ると____ミシャの負けず嫌いが、屈したくないと。負けたくないと意地を張って、自分自身に無茶を強いる。

「___ぐっ」
「一気に飲むと後がきつくなるよ」

う、うるせー! こっちはそんなこと考えるほど余裕ないんだよ!ばか!!

流し込んだ地酒が口から喉から胃から、身体中へ溶け込んでいく。上質なアルコールが内側の防ぎようのないところからミシャの身体に酔いをまわした。とっくに許容範囲なんて超えている、溶けきれないアルコールが血液にまで浸透して心臓と頭まで余すところなく侵されているようだ。

もうすでにこの体で酒の回っていないところなどないのだろう。ぼんやりしてきた頭でそんなことを思っていると、ピロンとスマートフォンが鳴る音がした。

「あ、ミクリから返事」
「う… みくり、さんはなんて…」
「あんまりイジメると嫌われるよっだって」
「いじ、め…」
「しょうがないよね、君がイジメて欲しいって顔するんだもん」
「…?」

なんかとてつもなく覚えのないことを言われた気がする。悶々としているミシャの手から、握り締めていたグラスが奪われる。また注がれるのかと思ってヒヤリとしたが、ダイゴはぐいとグラスを煽りグラスに残っていた酒を飲み干した。

「ごちそうさま」
「…」
「ボクの勝ちってことでいいよね」

じゃあ罰ゲームだ、と囁くダイゴの声がおかしなほどに近い。酔いが回っているせいだろうか、そんなことを考えながらミシャは襲ってくる嵐のような眠気に耐え切れずプチンと意識を切らした。





「…」
「……」
「…」
「…あのさ、ミシャ」
「………言わないで、なにも…いわないで……」

オネガイ… とか細い声で泣くミシャがあまりに不憫で、同僚はそっと廊下に蹲るミシャの背を撫でた。カナズミシティの一等地に聳えたつデボンCorp、その中にあって最早名物と言われるまでになった区画がある。

うず高く積まれた石、石、石。一瞬そういうモニュメントかと見間違うほどに立派であった、執念すら感じる積み重ね方に芸術点を感じざるを得ない。だが翌々見ると置かれている場所がおかしいことに気づくだろう。

一般社員たちのデスクが並ぶフロアにそれは堂々と築かれていた、違和感に気づいて近づけばその場所が元はデスクであることを知ることになる。

…そう、ミシャのワークデスクだ。
同僚内で着いたあだ名は、副社長のディスプレイエリア。

「今日はその…一段と凄いわね、今度はなにしたの」
「……のみくらべでまけたァ」
「あの副社長相手に良く挑んだな、あの人ひょろい癖にすげぇ飲むって有名だろ」

通りかかった男性社員の言葉が、見えないナイフとなってミシャの身体を貫いた。見事なみねうちである、無事にミシャのHPは残り1になった。

「…かったら、つくえかたづけていいって」
「そんな条件出されて、あの人が負ける勝負するわけないでしょう。もうちょっと頭使いなさいよ」
「ぐ、 ぐぅ なんで、なんでわたしのつくえだけ…」
「先輩邪魔です、廊下で蹲らないでくだ ____ うわっなにあれ」

出社した後輩が、ミシャの机を見て一歩下がる。その反応はどうみても不審物をみたそれであった、まあ確かにアレは不審物と言えなくもないが。

「後輩ちゃあああん」
「うわあちょ、くっつかないでください! めんどくさい!うざい!!」
「なんで、なんでわたしの机ばっかり、普通に仕事したいだけなのに 仕事したいだけなのにぃいい」
「知りませんよ、わたしに八つ当たりしないでください!」
「あーあー、早く剥がした方が良いよ後輩。見つかったら面倒だから」

わたしは知らないという顔でさっさと自分のデスクに戻る同僚を見て、後輩がさっと顔を青くした。そうして力任せに抱き着いてくるミシャを剥がすべく、モンスターボールから相棒のワカシャモをくりだす。

「引き剥がして投げ捨てて!」
「ワシャッ!」
「ちょっと待ってそこまですることなくな___ ああああ」

べりっと後輩から引き剥がしたミシャをワカシャモが巴投げ(対不審者用)で投げ飛ばす。トレーナー思いの優しい子、ワカシャモは本当に後輩の良きパートナーだ。

宙に浮きながら走馬灯のように駆け巡る後輩との思い出に涙をしていると、放射線を描いて落下していた体がぴたりと止まった。え、と遠ざからない天井を見て思考を停止させていると「何の遊びかな」と声がした。その軽やかな声には嫌なほど覚えがあって、背筋がぞくりと震える。

「ありがとうレアコイル、彼女を降ろしてくれるかい」

ジィジィという音をたてながら、ミシャの目の前にレアコイルが顔をのぞかせた。三つの目を忙しなく動かした後、左右のユニットに電気を走らせる。どうやら彼の磁気浮遊に助けられたようだ。

するりと体を回転させてくれたのでバランスを取ろうと腕を泳がせると、後ろから伸びてきた手がそれを掴んだ。「そのまま」と短い命令の言葉に逆らえず、積まれた手を握り返してバランスをとる。

とんとパンプスで廊下に立つと、レアコイルが仕事を終えたという様子でくるりとトレーナー…ダイゴとミシャの周りを回った。

「あ、ありがとうございます」
「…」
「え、なんですか」

じいと黙って見つめてくるダイゴの様子が不審でミシャは一歩下がろうとするが、掴まれた手がそれを許さない。たっぷりと一拍置いて、先に動いたのはダイゴであった。はあと態とらしいため息と共に、残念なものを見るような瞳でミシャを見る。

「君はなんというか、本当に… いや、なんでもない。元気なのはいいことだけれど、やんちゃは控えるように。一応ここは仕事をするところなんだから」
「うっ は、はい… ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

ぺこりと頭をさげるミシャに、うんうんとケガ無くてなによりとダイゴは頷く。

「まあどうせ君が悪いだろうから経緯については聞かないでおく」
(決めつけられた…)
「副社長、レアコイルはここで出さないでください。パソコンが壊れます」
「緊急事態だったんだ、見逃してよ」

エレベーターから降りてワークデスクに向かいながらきっちり苦言をくれる秘書に言葉を返して、レアコイルのボディを撫でる。トレーナーに撫でられて満足したのか、レアコイルがくるりと回って今度はミシャの方に近寄って来た。じいと見つめてくる三つの瞳に気圧されながら、ああと彼が求めていることに気づく。

「助けてくれてありがとう」

お礼を聞くと、満足したようにくるくるユニットを回し、自分でボールの中に戻っていった。

「君の所為でボクまで怒られた、どう落とし前つけてくれるのか楽しみだ」
「…机に飾って頂いた石をひとつ、副社長のテーブルに」
「ちょっと、ボクが夜なべして飾り付けたんだよ。今の状態が完璧、勝手に崩したら減給する」
「パワハラ…」

小さく呟いた声は聞こえないらしく、ダイゴはさっさと役員室に入ってしまった。このやろう。

腕時計を見ればもうすぐ始業時間であることに気づき、慌ててデスクに戻る途中「ミシャ」と呼ばれて振り返る。見ればダイゴが僅かに戸を開けて、ガラス張りの役員室から体を覗かせていた。

「忘れるところだった、はいこれ」
「え、わっ」
「君、昨日酔っぱらってボクの家に忘れていったんだよ」

「返したからね」と言って、さっさと役員室に戻ってしまう。投げ渡されて咄嗟にキャッチしたものを見れば、覚えのあるバレッタであった。確かに昨日髪につけていた気がする、…酔っぱらって意識を失った後、ダイゴが家まで送ってくれたらしいが。何分記憶がないので、忘れていったことさえ覚えていなかった。

そこそこ値段が張るものなので返してもらえたのはありがい、紛失しなくて良かった。ほっとしながらワークデスク(兼、副社長のディスプレイエリア)に座ると、それまで黙っていた同僚たちがぼそぼそと呟く。

「社内でラブコメすな」
「気まずいわ」
「いい加減くっつけクソがこちとら独身街道まっさかりだぞ」
「イケメン滅べ」

「先輩、とろとろしてないでさっさと納品書チェックしてください 早く、今すぐ」
「え、ぁ、 ハイ 」
「わたしもイケメンで金持ちの彼氏ほしいー」
「ッシ 余分な事言うと副社長に殺されますよ」
「いつからうちの会社そんな命がけになったの???」

A.シノノメミシャがデボンCorpに入社してツワブキダイゴに目をつけられてから

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