Kimetu-no-Yaiba | ナノ

麒麟杏寿郎が選んだ女王は平成OLブラック企業勤務


※十二国記パロディ、煉獄杏寿郎は麒麟



「なんでもかんでも押し付けやがってチキショーッ! わたしは! 使い勝手の良い便利なお掃除屋じゃねぇってんだよぉ!」
「わっはは! まったくもってその通りだな!」
「なんでもかんでも任せやがってっ その癖、新規案件は入社年歴だけの使えねぇゴミカスに回して、クレームで炎上してから鎮火要員でわたしを投入って何回目だコノヤロウ! 学習できない脳みそをお持ちの上司はそうぞAIに成り代わられてくださいドウゾーッ!」
「えーあい? というのは良く知らんが、取り換えの効くより優秀なものがあるというのなら名案だ。それよりも優遇すべきは、君のような代えのない傑物であろう!」
「う うぐっ そうだよね、そうだよね お兄さんもそう思うよね!」
「ああ、まったくもってそう思う! 君はとても良く頑張っているし、報われるべきだ!」
「うわーーん 超いい人、最初は深夜徘徊している常識のない外人コスプレイヤーとか思って冷たくしてごめんねっ 許してね、なんていい人なんだ本当に お兄さんみたいな人がうちの会社にもほしい!」
「それは光栄だ! だが君のカイシャにというのは難しい、俺には既に死まで伴にする決めた場所があるのでな」
「場所、就職先…?」
「似たようなものだ!」
「そっか、お兄さんイイ人だし。仕事もできそうだもんね、そういう人材を大事に扱って、そう思わせてくれるホワイト企業は大事にすべきだよ。 あ、おじさん焼酎追加で あー、わたしも、そういう会社に就職したかったなぁ」
「む、それは君の誠の本心だろうか!?」
「うわ なに、突然手を握って え、乙女ゲー始まった?」
「ならば善は急げ! 君の気が変らない内に、是非とも我が生国にお迎えしたい!」
「異世界転生?」

「天命をもって主上にお迎えする」





まるで、煌めく星を見つめるように微笑んだ男は美しく。そして、その時のわたしの勘は、酒で鈍ってこそいたが当たらずも遠からずであったと、後に思い返して笑った。

画して。時代は平成、極東の島国・日本で細々とOLをしていた一般人A(花酒あさぎ)は、人の良い金髪チャイナの兄ちゃん(麒麟)に拉致され、無事に十二国という異世界で女王の地位に座すことになった。____なんで???




「主上は何処か!」

彼が呼ぶ声は、雨潦宮のどこにいてもわたしの元に届く。それは麒麟の鳴き声が特別な力を持っているとかではなく、単純に個体としての声量が大きいのだ。大きい、ものすごく大きい。例えるならスポーツカーのエンジンサウンド。それが常に真隣で吹かされている状況と言えば、その威力が伝わるだろうか。

「っ  ウルセーーー! お前、アレいい加減どうにかしろよ!」
「いや、わたしもね 再三注意はしてるんだよ、だけどこればっかりは本当に治らなくて…」
「テメェの麒麟も制御できなくて一国の王が務まると思ってんじゃねぇぞ」

イヤ本当に、まったくもって耳が痛い。二重の意味で。
四十年ほど前に、紆余曲折あり官職と仙籍を剥奪されていた男を夏官長・大司馬として向かい入れた。字を宇随と言うこの男、出会いの始まりは敵同士であった。そのあたりは話すと長くなるので省略するが、王宮に忍び込み現王の命を狩り取った実績のある腕の立つ武官だ。

「そう言われても、素体が二十歳過ぎまで一般人OLをやっていた凡人だからね? それを前提に評価してほしいよ、わたし超頑張ってる」
「おうおう自画自賛してらあ ヘボ在位で威張ってんじゃねぇぞ」
「先王在位二十年だよ、もう倍持たせてる わたし偉い、褒められて然るべき」

「まったく、その通りだ!」

何時の間に、などこの世界で最も脚が速いとされる生き物に訊ねるのは野暮と言うものだろう。争いを厭う仁の麒麟にしては立派な腕が体に巻き付いて、気付いた時には後ろから思い切り抱きしめられていた。

「俺の王は、とてもよく頑張っている! 右も左も解らぬ十二国にて誓いを立て王となり、予王派閥の内乱を治め、妖魔を払い、内政を整えた! その功徳は然るべき学者の手で書として記し、少学で伝えられるべき善行だろう!」
「…その自慢の王様、今まさにテメェの手で締め落としかけてるぞ」

呆れ半分の宇随に指摘され、「よもや!」と聞き慣れた口癖と共に万力のような締め付けから解放された。ほっとして深く息を吸いこむと、その背をぎこちなく撫でる手がある。

「すまない、どうにも君相手だと加減を忘れてしまう…」

嗚呼ダメだ。いつもキリリと上向いている眉が、そうしてしょぼんと下がる様子を見ると、どうにも叱ることができない。わたしより頭一つ分大きな体が小さくなってしまう前に、「大丈夫だよ」と言葉を返す。

「少しびっくりしたけど、それだけ。わたしも王様になって随分と鍛えているからね」
「あさぎ…」
「けどまだ鍛えが足りないね。そのうち杏寿郎が全力で抱き着いて来ても平気なくらいになるから、もう少し待っていてね」

後ろから「それ人間やめてね?」という、突っ込み所しかないヤジが聞こえた気がしたが無視する。いま王は、麒麟を慰めるのに手がいっぱいなのです。見事な焔色に染まった髪を撫で、子どもにするように肩叩いてやると、不安に揺れていた二重虹彩の秋色が見る見るうちに活気を取り戻して「ああ、楽しみだ!」と笑みを描いた。

____わたしをこの異国の王として招いたお兄さんは、ヒトではなくケモノであった。
しかし、そこらの獣とは訳が違う。…この世界には十二の国があり、一国に一柱、最高位の神獣が宛がわれる。人と獣の二つの姿を持ち、天が定めし王を選定する高潔にして無垢なる獣。

獣の名を麒麟と言った。焔色の鬣に、二重虹彩の秋色瞳を持つ雄の麒麟は、四極国・漣国の国氏を冠し廉麒(れいき)の号にて呼び顕す。漣国台輔、廉麒。字は杏寿郎と言う。

「して、我が王よ! 大司徒より、これより盛州の楠弓に下ると聞いたのだが!」
「ぎくり」
「よもや、御身自ら妖魔退治に赴くわけではあるまい。朝議であれほど、俺が、反対したものなあ」
「待って、杏寿郎さん。これには訳がありまして、」
「ほお、主上は理由があると申されるか! 先の討伐の際、宰相足る俺の忠言を無視した挙句、大怪我を負って向こう一月、血の穢れが晴れなかったことを忘れている様子と見える!」

確かに、あれは酷いものだった。いや、わたしは優秀な三公のおかげで元気いっぱいだったのだが、血の穢れの所為で、杏寿郎がわたしに一切近づけなかったのだ。先の内乱の折、わたしが何度も命を落としかけた所為もあり、彼はわたしの傍にぴたりとついて離れなくなった。

傍に居るだけで、穢れに生気を狂わさられ、立っているのもやっとな筈だった。しかし彼は、知己の弟分に咎められても行いを改めず、戦乱で生傷の絶えないわたしと同じ室で眠った。わたしより遅く眠り、…いや、もしかしたら一睡もしていなかったのかもしれない。わたしが目を覚ますと、彼は「おはよう!」と明るい声で迎えてくれる。その顔はいつも真っ青で、痛ましくて見るに堪えなかった。

その経験もあってか。当時と比べるとかなり平和になった今もなお、杏寿郎は台輔の露寝仁重殿ではなく、長楽殿で眠るのが常であった。今はもうその必要もないと何度も説いたのだが、離れていると不調で失道の病に罹るやもしれぬと脅されては拒みようもない。

だから、こちらも条件を提示した。わたしの怪我や不調がある折は、大人しく仁重殿に籠り接触を控えるようにと。…晴れやかな笑みこそ似合うわたしの麒麟に、もう二度とあのような青白い顔で朝を告げる役など背負わせたくなかった。

そう思ってのことだったのだが…。
これがどうにも。わたしが失態を侵す度に、杏寿郎の攻め口に乗っかり裏目に出ることが多くなった。いつもぴたりと隣に寄り添っている金色の獣が、遠くからあの鹿と言うよりは猛禽類を思わせる瞳で、じいと睨め付けてくる様子は微笑ましいを通り過ぎて恨みに近い念を感じ得ざるをえない。

責められている、言葉なくとも視線で詰られているのが解る。大保の言伝を届けてくれた耳が良い三狐が、それを見て苦虫を百匹噛み潰して畏れを塗したような顔で聞くに堪えない汚い悲鳴と共に逃げ去ったので、つまりきっとそういうことなのだろう。

杏寿郎は約束を守る良い子であるが、それと同時に柔軟に物事を反故にすることに欠けていた。それは彼の感情を身の内に縛り付け、こうして然るべき時に爆発したように発露させる。…主上としては、そんなに溜め込まないで、毎日小出しにして欲しいところだ。

「忘れてないよ、心配かけて悪かったね。今回は大丈夫、小規模だから大怪我をすることはない。それに、前回の反省を踏まえて、大司馬から護衛の王師を出してもらう」
「禁軍より右将軍、腕の立つ精鋭を一両備えております」

宇随の示した護衛の数に、杏寿郎の柳眉が跳ねた。

「一両だと、正気か!」
「今回はこっそり視察も兼ねているから、あまり目立ちたくないとお願いしたんだよ。それに、いま楠弓は妖魔以外にも範国からの難民が増加していると聞く。州公にはわたしなんぞの相手より、そちらに注力して欲しいからこの位で丁度良い」
「だが、少なすぎる! 君の身にもしものことがあれば、俺はっ!」
「杏寿郎は心配性だなあ」
「俺が心配性なのではない、君が能天気すぎる!」

すっかり、ぷんすこモードに入ってしまった杏寿郎に、さてどうしたものかと頭を捻る。こうなるから、こっそりと出かけてしまおうと思ったのに。口を滑らせた大司徒が恨めしいが、彼は王が不在の間に杏寿郎と共にこの国を支えてくれた優秀な文官だ。兄分である杏寿郎に対して酷く甘くなる点を除けば、と中略が付くが。

「お土産買ってくるから」
「結構だ! 俺がそういつも食べものにつられてくれると思うな!」
「でも美味しいもの好きでしょう? わたしは杏寿郎が美味しいって、沢山食べてるのを見ていると嬉しい気持ちになるよ」
「む」
「お仕事も頑張ろうって思える、杏寿郎がずっと美味しいものを食べて笑顔でいられる国を続かせようと。麒麟は民意の具現化なのだから、きっとその考えは間違っていないと思うのだけど、どうかな?」
「…そうだな、君は間違っていない」
「ね。沢山お土産をもって、怪我一つなく杏寿郎のところに帰ってくるよ。だからここで、わたしの帰りを待っていて欲しい。わたしが迷わず帰ってこられるよう、いつもの笑顔で見送ってほしいなあ」

指先で、顎の下を撫でるときゅっと口を結ぶ。獣の姿の時に触れると、寝台の上に蕩けてしまうほど彼が好きなところだ。小難しい顔を崩さないように、必死に体を強張らせている様子がいじらしてく可愛い。むぐぐと、喉を鳴らしながらわたしを睨み付けている反抗的な瞳が、僅かに揺らぎ始める。小鳥のさえずりのような声で「わか、った」と、渋々と言った様子で告げられた了承に、心の中で盛大にガッツポーズを決めたのは言うまでもない。

勝った。

「だが、もしものことがないとは言い切れん。護衛に小芭内を付ける、それくらいはしても良いだろう!」
「もちろん、小芭内のねちねち小言には慣れたものだよ イテッ」

杏寿郎の影が蠢いて、長い尾だけ見せた使令・小芭内がぺちんとわたしの足を打った。その後、するりとわたしの影に溶けたのを見て、杏寿郎が確かめるようにひとつ頷いた。

「頼むから怪我をしないでくれ、もうあんな思いはしたくない」
「うん」
「目の前で王気が消えていくのは、…心臓が潰れそうなほど恐ろしくて、苦しい」
「うん、もう二度とそうはならないと誓うよ」
「誰に」
「わたしの麒麟に」

所在なく揺れていた手を取って、その甲に口付ける。麒麟でありながら、生国を守るために剣を握り己が生まれった性に逆らってまで身を尽くした美しい獣。彼が余生を穏やかに過ごせるためというのなら、わたしは喜んでその礎となるだろう。




「ホワイト企業万歳」
「ほ ほわ、 今なんて言ったんですか、あさぎさん」
「蓬莱の言葉だよ、炭次郎」

それでもやっぱり心配そうにする杏寿郎の頬にキスをして、騎獣に跨り雲海を下る。気心の知れた右将軍に軽口を返しながら、腰の剣の感触を確かめた。おうちで可愛い麒麟が待っているのだ、きちんと定時で上がれるようにわたしも頑張らなくては。

「とりま、楠弓で一番美味しい土産を買っていかないといけないから、情報収集よろしくね、小芭内」
___「どうしてそういう大事なことを事前に調べておかないんだ、莫迦者。杏寿郎に寂しい思いをさせているのだから、食いものだけでは足りない。きちんと心を込めた贈り物も用意すべきだ。それと土産は蜜璃も食べるのだから、それなりの量を用意するように。ああ、あのような辺鄙な場所に、ふたりを満足させられるようなものがあるか心配だ。まったく、これもそれも、貴様の準備が足りないせいだぞ!」

今日も元気にねちねちしている小芭内くん。器用に腹に巻き付いた尾に腹を絞められながら謝ってみたが、「ごめんね」、「心が籠っていない」と一蹴されてしまった。…蜜璃ちゃんも食べるって、もうその先一年分とか買い占めないと用意できない量だと思うけど大丈夫かな。

back

×
「#溺愛」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -