OnePeace | ナノ

どうにも体を乗っ取られていたようで case.C.K


〜あらすじ〜
愛する妻の様子がおかしい、見目は彼女と瓜二つであるが、時折見せるまるで人格が入れ替わってしまったような言動。そうしてある日、彼女が男(敵側スパイ)と密会しているところを発見される。想像にし得なかった裏切りに一同は言葉を失った。
だが、捕らえた彼女を尋問する中で、肉体こそ彼女であるが“内側(魂)”と呼べる人格が入れ替わっていることが分かった。正に悪魔的な能力、彼女の身体を乗っ取った別人格から、彼らは本当の彼女を取りも返すことができるのか_____?



(…ここは、)

とても、深い眠りについていたように思う。背中が冷たい、それに体中の筋肉が酷く軋んでいる。ぼんやりと見上げた天井にはびっしりと石煉瓦が詰めており、はあとこぼした吐息に代わりに肺へと流れ込んでくる空気が冷たくて骨の芯まで凍えそうだ。

昨夜は自室のベッドで眠りについたはずだ。夫のサイズに合わせたベッドはわたしには大きすぎて、すこし寂しい。けれどそれを口にすれば、優しいあの人が困ってしまいだろうからと、塩辛い気持ちと一緒にこくりと呑み込んだ夜。

(どこ、ここは …わたしは、どうして)

状況を知りたくて体を捻じろうとしても、何かに止められて上手く動けない。まるで、掌が床に貼りつけにされてしまっているよう。何度か試したがビクともしないから、諦めて薄霞に覆われた記憶を思い出そうと思考に沈む。そうしてどれほど経ったのだろう、紙が擦れるような音と共に薄暗い石煉瓦の部屋に灯りが差し込んだ。

「____気を付けろ、まだ___」
「__ …解っている、___」

あの人の声がする。
体の中にある重い疲労感、泥沼に沈むような眠りへの誘いから必死に足掻いて瞼を開く。カシャンと、彼の装飾品が鳴る音がする。

音を立てずに歩くこともできるのに、帰ってくるワザとその音を鳴らしてわたしに帰宅を知らせてくれる。そうしてわたしが迎えに行くと、…知っていた癖に、まるでその気はなかったみたいな顔で名前を呼んでくれる、その声が堪らなく好きなの。あなたは上手に隠しているつもりかもしれないけれど、愛おしい気持ちが滲んでいるように思えて、

ぼやける瞳に写るシルエット、ああ、あの人だ。あの人が遠征から帰ってきた、嬉しい。わたしは今日どんな服を着ていた、髪型は、メイクは崩れていない。あの人にずっと好きでいて貰えるように、最高のわたしでお出迎えたいのに。

「___ぁ、 な こほっ」

声が霞む、どうしてだろう声が出ない。
遠く向こう側の世界で「オルガ」とあの人が名前を呼んでくれる気がした、嬉しい。それを伝えたくて、わたしは声の代わりに気だるい体で必死に笑みを描いた。それを見たあの人が、弾かれたように駆け寄ってくる。けれどそれは格子のようなものに阻まれた、「__しおりを!」「早く開け、__」「ドクターを__!」ああ、あの人の兄弟の声もする。みんな揃って、どうしたのかしら。

掌の楔が取れて、あの人が抱きしめてくれる。大きな指がわたしの頬を撫でて、まるで何かに責め立てられているかのように「オルガ」「オルガ」と呼んで。それに応えたいのに、わたしの身体はまるで石になってしまったように動かない。せめてと、その手に頬を寄せる。わたしとは違う、硬くて大きな彼の手。

「__ハァ、」
「____オリィ」

零れた呼吸の音に隠れた、わたしの言葉を読み取ってくれたのだろう。
あの人がわたしをいっそう大事に抱きしめてくれる、それが嬉しくてわたしは、ようやく呼吸ができた気がした。





「_____ということがあったのだ、」

ぺろりん。と、とても分かりやすく、義兄が事の顛末を教えてくれた。
義母が能力の一部を貸し与えたくれたようで、わたしの身体は驚く速さで回復した。漸く人並みに起きていられるほどに気力が戻ると、義兄が見舞いの品と一緒に訪れて今に至る。

わたしが眠っていた一瞬。けれどその一瞬で、現実では1ヵ月ほどの時間が流れていたという。その間に繰り広げられた人間ドラマ___常日頃は仲睦まじい夫婦を演じ、夫がいない間に侍女を虐め我儘し放題、次第に行動はエスカレートし、ついには夫が留守にしている間に他所の男と密会。そのまま体を重ねようとまでしたと___。

全くもって信じられないようなはなしだ。けれど、目が覚めた世界で仲の良い侍女が開口一番「おおおおぐざあまあ」と泣き崩れ、夫の弟妹「簡単に操られてんじゃないよぉ!」「俺たちの心労!」「良く戻った!」と山ほど見舞い品(お菓子)と苦言を頂いたので、…凡そ、それに近しいことが起こったのは真実なのだろう。

長話もこれで一区切り。紅茶を一口含んだ後、浮かない顔をするわたしに義兄が念押しするように言う。

「裏界隈で名の知れた能力者が相手だ。お前に全ての否があるとまでは言わねぇが、同じようなことがないように今後は充分気を付けてくれ」
「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「…ふむ、聞いていた通り中々メンタルの強い女だ。お前はもう問題ないだろう、後は…カタクリの方だな」

ぺろりん。と、義兄は…ベッドの上に倒れ込むようにして、わたしから離れない夫を見てため息をついた。キャンディロットで、とんとんと背を叩いて見るが無反応。義兄がどういうことだとわたしに視線をくれるが、返事に詰まる。

「その、…他のご弟妹がいらしたときは、しゃんとするのですけれど」
「弟たちにかっこつけて、敬意を払うべき兄を前にこの体たらく。ビック・マム海賊団 三将星の名が泣いているぜ。お前は何時までそうしているつもりだ」

義兄がハットに飾り付けていたキャンディをくれたので、ありがたくいただく。リンゴ味だ。

「……もう少しだけ、時間をくれぺロス兄… 与えられた任務は必ず、遂行する」
「今のお前を見ていると、とてもそうは思えねぇな」
「あなた、わたしはもう大丈夫だからお仕事に戻って。いつも言っていたじゃない、あなたのお仕事は、あなたしかできない大事なものだって」

ね、と声をかけるが、どうやらかける言葉のチョイスを間違ったらしい。
後々考えてみたら、それはそうだろうと自分を責めた。…いつもそうして。忙しく島を空けている合間に起ったのが、今回の事件なのだ。それは完璧主義の夫が厭う…所謂、隙というものが、今回の事件の発端であるとも言える___いや、どう考えても、わたしの油断が原因だと思うが。

けれど、少なくとも夫はそう考えているようで…だから何を言っても言い訳になると思ったのか。そうして沈黙を決め込んでいた夫の身体が、いきなりどろんと溶けてしまう。吃驚している間に足の先まで白い粘着質な物質になると、そのまま布団代わりというようにベッドに張り付いた。ふわふわ美味しそうな匂いがする、こ これは、

「おもち」
「カタクリ、3日だ。3日だけ時間をやる、その後も女に張り付いて駄々を捏ねる様な甘ちゃんならキャンディマンにして、ナメちゃうぜ___この女をな!」
「えええ」

じゃあなと、とんでもない爆弾を残していった義兄。どうしよう、3日経ってもこの人がいつもの調子に戻らなかったら、わたしキャンディマンにしてナメられちゃうのか。キャンディマンに…キャンディマン、…って、なんだろう。わからないけど、きっと脅し文句だ。

「そんな風にくっつかなくても、わたしはどこにも行きませんよ」

おもちになってしまった夫をぽんと叩く、掌についてくる粘り気がすごい。

「結婚した時に言ったでしょう。わたしは今日からあなたのもの…あなたが大事にしてくれる限り、ずっと」
「___」
「このままおもちでいたら、キスもできませんね」

困ったなあ、と言えば。むにゅりとモチが蠢いた、そうして目の前でおもちの一部が触手のように伸びてくる。それに指先を添えれば意図をくみ取ってくれたのか、すすすと近づいて来てくれたので触れるだけのキスを贈る。

「ふふ、おもちの良い香りがします」
「…腹が減ったのか」

うねうねとおもちが波打って、ひとりの男の姿になっていく。漸く答えてくれた愛おしい人が、伺うように身を屈めてわたしと視線を重ねてくれる。

「すこし」
「食べると良い」

唇に彼の手が触れる、わたしが返す言葉を待たずに大きな親指が口の中に入ってぷちりと途切れた。大人しく咀嚼して見せるわたしを、彼の鋭い目がじっと見つめている。

「次はみたらしが良いです」
「用意させる」
「お醤油で焼いたのも」
「もちろん一緒に」
「お茶は」
「温かい緑茶」
「ステキなおやつの時間ね」

クスクス笑うと、漸くその人も少しだけ微笑んでくれる。嬉しくて唇から突き出ている大きな牙にキスをする、すると、わたしの左右を囲うよう置かれていた腕がぴくりと動いた。もう一度、もう一度と繰り返すこと6度目で漸く、躊躇っていた手が意を決したようにわたしの背を抱いてくれる。少し彼引き寄せるようにかかった力が嬉しくて、口元の傷を辿るように口付けると、「オリィ」と甘い声が呼ぶ。

「はぁい、なんですか」
「…体は、」
「もうすっかり良くなりました、あなたが皆さんに掛け合ってくれたおかげです」
「無理は、」
「していません、本当ですよ」

わたしよりずっと大きな耳、その形を裏側から指でなぞる。焚き付けるように少し指で掻いても、彼は決定的な言葉をくれない。しかし体は正直なもので、わたしの背中を摩っていた指が悪戯に下着のフックを引っかけ始めた。自分が何を求めているのか、その要求をわたしに知らせようと必死な様子が…大きな体に似合わず可愛らしくて、バレないように小さく笑う。

「わたしから言いましょうか」
「いや、…」

甘えるのが下手な可愛い人、大きな首に腕を回せばそのままぐいと夫が体を起こした。そっと、浮かしたわたしの身体を改めてベッドに寝かせると、そこに被さるようにして夫が伏せる。見上げる先には愛おしい男がいる、そして…ここは夫婦の寝室。ああきっと、誰も野暮なことはしないでしょう

「オルガ、…無理はさせない」
「ええ」
「抱かせてくれ」

返す言葉は、彼の唇に溶けて消えてしまう。
やっぱり、わたしの返事を待ってくれないのね、本当に困った人。けれど、その少し自分勝手なところもわたしだけに見せてくれるこの人の本質で。甘えなのだと思うと、堪らなく愛おしくて、溶ける程甘やかしてあげたくなる。

「あなたが望むだけ ___ええ、もちろん。大事にしてくださるのなら」

彼の指先で火照った身体、リンゴ味の吐息と一緒に告げた甘い言葉。彼は返事の代わりに、わたしのお腹にキスをした。「ああ」と返された低い声が、子宮に響いてとろりと溶けた。

back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -