折原臨也の死に際の花
楽に死ねるなんておもっちゃない、そんなの“俺”に相応しくない。
だから願いもしなければ懸想することもない。陰々と己の死後を語る暇があるなら、俺にはしなければいけないことが五万とある。まだしたいことが山ほどにもある、でも、
「_____、」
腕の中に納まる熱にまどろむと、妄想してしまうのだ。
この小さな熱を離さずにいれる未来に、焦れてしまう。
「ひなみ―、」
間延びしながら囁く声は、普段の俺からは想像もつかないほどに暢気なものだった。おそらく、そんな他人が見たら軽く目をひん剥くであろう俺の態度にも、彼女は気にしたそぶりを見せない。彼女にとって、今の俺が、彼女の中の“折原臨也”だからだろう。
それを思うと妙にむず痒い。このまま、沈む寝台の感触と彼女のしようのない熱に身も心も預けたいとさえ思う。小さな体を、慎重に抱き寄せる。薄い腹に腕を回し、掌をそっとなぞりつけて、後ろ向きの頭部に鼻先を寄せた。香ってくる、俺と同じシャンプーの匂いに、嵐のような激情が込み上げた。このままどうにかなってしまいたい。
「ひなみ、…」
「……ねむい」
求めていたわけではないが、返って来た返事に思わず耳を寄せてしまう。
邪魔をしないように顔を覗くと、そこには眠そうに開いては閉じる瞼があった。うとうとという言葉がよくそぐう表情に、俺は好都合と体を寄せた。薄い絹越しに体が密着する。眠りに適した温度を求めているのか、ひなみは嫌がることなく身を預けて来た。それどころが物寂しそうに足を摺り寄せてくる。
「かなり眠いみたいだね」
「…うん、疲れた」
いいながら、ごそごそと体の向きを変える。
俺の足に自分のものを挟み、薄っぺらいだけの俺の胸に顔を擦り付けてくる。居場所を求めて来た手の良いように俺の体を浮かせてやると、細い腕が俺の体を回った。長い髪が絡まないように注意しつつ、俺も小さな頭を抱えるように腕枕をしてやる。するとようやく、安堵の溜息が聞こえてきた。
「心臓のおと」
とくんとくん、そんな音を探るようにひなみが耳を寄せる。
「まあ生きてるからね」
「…これ、すき」
「俺よりも?」
「…」
「別にマジレスしなくて良いよ」
眉を寄せて考え始めてしまったひなみにすこしがっかりしながら、思考を遮るように体を抱き寄せる。そんな妙に生真面目なところも好きだ。うそがへたくそなところも、俺のことを真剣におもってくれているところも愛している。
「…、」
だけど、いまさら___幸せにしてやるなんて、いえない。
俺はこんな俺でしかなくて、俺はこんな俺にしかなれなくて。
こんな生き方しかできなくて。
きっと、彼女を幸福になどできやしない。本来なら、ともに歩むことすら許されないのだ。それは俺が選んだ未来の結果であり、どうしようもないことだ。だけど、思わずにいられない。
「___ねえ、ひなみ」
いまさら、幸福な未来など望むことは許されない。
「俺と、一緒に___死のうね、」
だからこれが、精一杯のあいのことば。
すうと、寝息を漏らす彼女にキスを送り、俺も軽く睡眠をとることにした。まどろみの中に解けた、他愛の無い戯言は白昼夢だと嗤ってやれ。
背中越しに、そっと彼女の胎を撫でる。いまはまだ、なんの命も宿っていない。気が早すぎる自分に、思わず笑みが零れた。