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球磨川禊はバレインタインと馴染まない


2月14日
世間一般で言うバレンタイン・デーだが、それがなんだというのだろう。産まれてこの方、負けたことしかない球磨川禊は、もちろん好きな子からチョコレートをもらえたことがない。義理チョコだってもらえたことがない。今までの人生で、異性同性含め手に出来たチョコレートの記録は0(ゼロ)である。

そんな彼だが、今年ばかりは少し事情が違う。同級生の可愛い子から、自分を慕ってくれる下級生から、あるいは虚しいばかりだったはずの同胞から…その数、実に7個。箱庭学園に来てから彼を取り囲む環境は劇的に変化した。だがだからといって世界が変わったわけではない。彼は変わらずに過負荷で、どうしようもなマイナスで。だからやっぱり、当然のごとく“好きな子”からチョコレートがもらえるわけなくて、

「球磨川くん」
「…」
「これ、…よかったらどうぞ」

もし掴むことが出来たのなら、片手で容易く手折れそうな声とともに差し出された桃色のラッピング。まるで売り物のように装飾されたそれは、中に敷かれた和紙のせいでところどころ視認することしかできない。だがおそらくクッキーだ。かすかに見える影からそう推測した瞬間、球磨川の心臓は大きく跳ね上がった。まるで歩いてきた恐怖を目の前にしたように、背筋がぞわりと震え上がった。なんだこれはなんだこれは。こんなこと“僕の”人生ではありえない!

「…『なに、』『それ』」

気を抜けば膝から崩れてしまいそうな動揺を必死に堪え、球磨川は尋ねた。じっとりと汗ばみなながらも不適に笑ってみせる球磨川に、少女は少しだけ目を丸くした。

「クッキー、です…嫌いですか?」
「『…』、『嫌いかっていうより』。『なんで』『それが』『ぼくに』『渡されるのか聞きたいな』」

不自然に途切れた台詞でも、少女は納得したように小さくうなずいてくれた。
彼女は矢包ひなみという。球磨川禊と同じ箱庭学園の生徒だが、二人には決定的な違いがある。球磨川は十三組で、ひなみは一組の生徒なのだ。そう、ひなみは普通(ノーマル)だった。どうしようもないほど普通だった…球磨川と同じように。

本来、二人は交わらない存在だ。それでも、球磨川はひなみを知っていた。ただ、それはどこまでも一方的なものであるはずだった。少なくとも球磨川は今日まで、ひなみが自分の名前を覚えていることすら期待していなかった。だがそれがどうだ、なぜ彼女は今日、球磨川という男を引き止めてクッキーを渡そうとしている。これはきっと夢に違いない。あるいは、安心院さんが一京分の一のスキルを使って作り上げた幻。

そうはわかっているのに、逃げられない自分がいる。
ありえない『ナニか』を期待している自分がいる。

「良かった___あなたにあげたくて作ったから、」
「っ_____!」





「球磨川くん、…球磨川くん、どうしたんですか。どうして…泣いてしまうんですか」

優しく肩に触れる指先が暖かくて、
球磨川禊はやっぱり、情けなく声を震わせることしかできなかった。

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