両面宿儺を非常しょk…ゲフン ゲフン 育てるお!
※男主、Pixiv掲載用のため名前変換なし

____それは、繭のように見えた。
鬱蒼と茂る木々の間に糸を吊るし、夜露に舌を濡らす。そうして少しずつ栄養を蓄えて育ったのだろう。今日のこの日まで、誰にも気づかれることなく。息を潜めて、終にこの呪いは成就した。
白い糸が切れる。生ぬるい風が吹き込んで、今生まれようとしている命を知らせる。空気を震わせる嬰児の脈動、それは非力なはずの腕で内側から糸を引きちぎっていた。まるで母の胎を裂くように、羊水を掻き分けるようにして、自らの意思でこの世界に生まれようとしている。その生命力たるや、まるで獣か。しかして、何者の侵入も許さなかった強固な繭は破れ、濃厚な呪いの霧とともにそれが“ずるり”と這い出てきた。
産声が、上がる。
_______腐葉土に塗れながら、けたたましく泣いた。まるで自分の誕生をこの星に報せるように。まるで民衆に己が存在を知らしめる王のように。醜い赤子が、人知にそぐわない三四の腕で土を掻く。異質の三四の眼で虚空を視る。一目で知れる、人外の躯体。大地が育んだ異形の子。
その様子をつぶさに観察していた影は、大気に満ちた呪力を舐めた。
赤子が生まれ繭から解き放たれた密度の高いそれは、甘露の如く舌を嬲る。まるで酒気に惑わされるような上等な心地だった。ここしばらく忘れていた高揚が、胸の内を満たしているのが判る。その快楽が望むままに土を踏む、歩みは迷いなく異形の子に向かっていった。薄汚い赤子を抱いた手は白く、まだ少年の粋を出ていないようにも見える。
呪力が裂けて、月明かりが差し込む。
その顔は光り輝く珠のよう、十に満たない瑞々しさが残る。漆色の髪の隙間から、この世のあらゆる贅を詰め込んだような金色に輝く瞳がのぞく。それは鏡のようにして、山桜色の髪の赤子を写した。そして、嗤う。楽しそうに、愉しそうに、快しそうに。
「俺ンだ!!!」
_______涎を垂らし、キラキラと輝かせて笑う。
帳に包まれた山に、グウと腹の虫が響き渡った。それはなんともマヌケに、人里まで木霊したという。
「アラん 外道丸、戻ったのね」
外道丸____そう呼ばれた少年が振り返る。
陽の光の下で見ると、夜とは異なりひどく活発な印象を受ける。彼は濃色の狩衣に身を包み、左耳に真っ赤な耳飾りを垂らしていた。真っ赤な飾りは鬼灯色の勾玉に、艶やかな朱色の組紐を合わせたものだ。それが彼の動きに合わせてちりちりと光を反射している。その光が、彼女に外道丸の存在を知らしたようだ。
「ああ、いま戻った。 ____見てみて、いいモン拾ったの! ほら!非常食―!」
「ン… やだあ、腐ってるじゃない。その赤子呪い塗れだわ」
「違うって生きてる! しかもね、ほら みて」
外道丸が抱えていた布の塊を這いでみせる、その様子は宝物を見せびらかす時の様子に良く似ていた。
「…アラん これは…」
「山繭から生まれたんだ、最初からこんなんだ! 四腕四目なんて珍しいだろ」
「どこで拾ったの」
「飛騨の鳥部野の山ん中。死体が山ほど積んであって、呪力の坩堝みたいになってた。蚕頭がコレの繭にせっせと栄養集めてたから、肴代わりに見てたら産まれた!」
「呪いを喰って育つ…まるであなたみたいねン 外道丸」
外道丸たちは、人の子に非ず。
彼らは民草の間では“童子”と呼び顕され、畏怖の対象とされていた。
彼らは一様にして尋常超えた身体能力を持ち、鬼道を操り、理を歪める…童の形をしたナニか。
一度、彼らの棲家である山を“垣間見”に訪れた都の術師は「鬼」と呼んだが。嗚呼確かに、彼らの額から突き出した木枝のような角、肉食の獣によく似た牙爪…人の臓物を啜る姿は、語り聞く地獄の卒によく似ている。
「すこし肥えさせる。それとも、すぐに切り分けましょうか」
「腹に呪いを貯めるみたいだから、もう少し放っておく。 指先まで蟲毒に漬けた方が美味い」
「蚕の性質を受け継いだのかしらン。 ええ、解ったわ 皆には伝えて置いてあげる」
「みんなイヤがるかなあ」
「まさか だってここは貴方の棲家(やま)だもの」
この棲家にいて、外道丸に逆らう愚かな鬼はいない。
にっこり笑う女鬼に、外道丸はそうかなぁと飄々として見せる。___鬼は、ヒトとは異なる縛りの中で生きている。彼らにとっては力こそがすべて、能力の優越がすべてを決める。……この土の上にある呪いで、外道丸に敵う鬼はいない。それを知っているから、鬼はみな彼に従う。敬う。首を垂れて地面に口付ける…彼は、オニ食いの鬼…同胞喰らいの外道丸。紛うことなき最強の鬼であった。
「外道丸って名前やだなあ、かわいくないや」
「貴方が名を決めないから、みんな好き勝手に呼ぶのよ」
「ンー 名はあるけどさ、いちお秘密にしてんだよね」
赤子を投げ捨て胡坐を掻く。赤子は布の間から這い出て、アーと泣いていた。
「…この子には名をあげるの?」
「どうしようかな。 呪いから生まれた鈍間(のろま)な鬼だから、ノンちゃんとかどう?」
「チャンって不思議な響きねン」
「愛称、可愛くて小さいものにつけるんだ____俺の“時代”ではね、」
外道丸は懐かしそうに天を仰いだ。
___彼の棲家は静かだ。冷たい自然が息づく大江山、彼の呪力は雲に溶けて海となる。ゆえに、尋常のヒトは決してたどり着けない山頂。退屈しのぎに屋敷や車をひっくり返して奪った気に入りの宝に囲まれて、好きな時に酒を呑み、肉を食む。ずっと望んでいた生活がそこにあった。
(……腹が減って、母親の胎を喰って生まれた時はどうしたもんかと思ったけど)
…人外の生活も悪くないと、彼の中の前世が笑う。
彼は人間だった、遥か未来…平成と呼ばれた時代を生きた男。人の時の記憶はいまや霞のようで、不確かだ。だが「カシワギ」という音で呼ばれていたような気がする。その所為か、同朋にゲドウマルと呼ばれるのは妙な感覚だった。だが仕方ない、本来いまの彼に名付けてくれるはずだった母は今や彼の腹のうち。
自業自得の母殺しには、確かに外道という音が良く似合う気もする。
「本日は粋の良いものを仕留めました。どうぞ、お納めください」
「エー」
十二単を纏う女の死体、それを丁重に自分の前に横たえる鬼。外道丸の棲家に勝手に住み着いた鬼の中でも一際体躯に恵まれており、その形相は絵巻に描かれたオニそのもの。その鬼は何をしたでもないのに外道丸を一際慕い、こうして命じてもいない土産を持ってきた。
…鬼は人を喰う。それは節理だ、人が獣を喰う様に、鬼もヒトを喰うだけのはなし。
だが「カシワギ」の記憶が邪魔をして、どうにもその行為が背につかない。余程の空腹に襲われない限り、いや、襲われたとしても、外道丸はヒトに手を付けることはしないで生きてきた。…最初の例外を除いて、
外道丸が眉をしかめた様子を何と捉えたのか、鬼は気を利かせた様な口ぶりで続ける。
「もしや、生きている方が好みでしたか。 ええもちろん、揃えております故」
「いらん てか気持ち悪いから、それも下げろ」
シッシと虫を払う様に交わした手が、ぴたりと止まる。珍しいものを見た所為だ、よもやと目を瞠る。
四腕四目、そういえば少し前に拾ってきたそれが女の死体に齧りついていた。鬼がそれに気づいて腕を振り上げようとしたので、手掌で“下がらせる”。___掌の動きに合わせて、外道丸の呪力が蜷局を巻く。それは、1丈はあるであろう鬼の巨体に噛みついて、雲海の下へと突き落とした。片づけは下級鬼がしてくれるので、気にすることはない。___些細なことだ。それよりも、問題は目の前のコレ。
「ノーンちゃん、おいし?」
「アー アー 」
「そんなもの食ったらバッチィよ。ヒトって獣と同じくらい細菌塗れなんだから」
「アー」
赤子は、女の肉を引き継ぎる。四つの腕で皮膚を裂き、その牙で血を啜り柔らかい臓腑を食む。左右非対称の歪な四つ目は久方ぶりの馳走に餓えていた。
「トラ」
呟く程度の声音であったが、彼に付き従う鬼が飛んでくるには十分な音だった。
大地を揺らして馳せ参じた大鬼、真っ赤な髪にむき出しの大牙。2丈を超える体躯で疾風のように駆ける姿は大虎を思わせるので、外道丸はその鬼を「トラ」と呼びならわした。
「これを育てろ」
「…恐れながら御前、そういったものは儂には向きませんで」
「死んだらそれはそれだ」
「仰せ仕りました」
「必要ならホシとキンを使え ン…、もし上手く育ったら俺の弟にしようか」
頭を真っ赤にして肉を貪る赤子の姿に、外道丸は未来を見た。
…ああ、やっぱり予感は正しかった。これから楽しくなるだろう。答えはもうすぐ手に入る、そんな気がして堪らないのだ。
_____そんな日が、今思えば懐かしく思う。
虎童子に任せた赤子は、すくすくと育った。虎童子に暴虐を、星童子に快楽を、金童子に狡猾さを学び。そして…兄である外道丸から呪力の扱い方を学んだ。赤子はあらゆる物事を吸収し、異形の種たる鬼らしく人の理からは外れた成長速度を見せる。
瞬く間に背丈は伸び、言葉を並べ知性を持つに至った。
そのころには、反抗心も芽生え。猫の子を呼ぶように「ノンちゃん」と自分を呼ぶ外道丸を疎ましそうにすることさえある。他の鬼にはできないことだ、童子たちは不敬であると咎めたが、他でもない外道丸がそれを許した。目に見える特別扱いに反感する鬼もいたが、それもすぐに収まった。…なにせそのころには、彼はどの鬼よりも極悪非道に育っていたからだ。
「兄上、土産だ」
「な ____ うわっ!?」
暇つぶしに呼んでいた書物が血まみれになる。
…酒飲み仲間の僧侶から巻き上げた唐物の書物で、この時代では手に入れるには困難な唯一の極楽だというのに。ハアと込み上げる不快と共に息を吐く。彼の棲家、彼の寝床。宝の山をガラガラと崩して胡坐をかけるものなど、彼以外にいない。不遜な態度の弟は、裂いたばかりの女の腕を持っていた。
寝転んでいた体の上に落とされたのは、その残りだ。
暖かい臓物が見える下半身、はみ出た腸が畳の上を模様のように転がっている。
「…ホシ、片せ」
「ハァイ」
のっそりと起き上がって狩衣を脱ぎ捨てる。星童子がそれと肉をもってすぐに消えた。代わりに寄こされた真新しい衣に腕を通していると、食い終わった骨を吐き捨てた弟が口を開いた。
「なぜ兄上は人を喰わん クマのジジィは大喰らいだろう」
「クマはな、羆の鬼だから元より肉が好物なんだよ」
「ああ、兄上は八つ頭の蛇だものな」
______この弟は、本当に眼が良い。
なんということはないという様に、片手指程の同胞しか知らない隠し事を暴いてくる。四つも目があると、やはり見える世界が違うのか、と思わず笑いがこぼれそうになる。
「蛇も肉を食うだろう」
「空腹ならば」
「腹が減っても食わない」
「嗜好の問題さ、それよりも舌に合うものがある」
「酒と唐菓子か あんなもの腹の足しならんだろ」
「いやいやそんなことないよ? アイツらには未来が見える、これから未来に続く栄光の第一歩さ」
胡乱な視線をくれる弟を端目に、外道丸は思いを馳せる。
思い出すカシワギの記憶、木々の代わりに高層ビルが建ち並ぶ科学の時代。キラキラと輝く食事、デザート、スナックたち。思い出すだけで腹が鳴りそうだ、あの時代の食は素晴らしかった。
「食事とは無碍にしてはならない行為だ。自らの内に異物を混ぜる、それは溶けて己が血肉の一部となる」
「…」
「だから俺は、この身に溶かすものは一分たりとも妥協しないと決めている。認めたものだけ、選び抜いたその時代の最高の食だけで舌を蕩けさせる。 …お前も、そのために拾ってきたんだけどね?」
「やってみろ、ただでは食わせんぞ」
臆するでもなく、好戦的に笑って見せる弟。いや、だからこそ、彼は弟に足りえた。
柄も知れぬ満足感が洞を満たした、褒美に頭を撫でようとすれば露骨に手足が出てきたので。頭をひっつかんで、顔面を宝物に叩きつけてやった。ヒトの造形物では鬼の皮膚に傷ひとつ付けられないので、これはじゃれているようなものだ。そう、兄と弟の愛情スキンシップ。
「もう少し節操をもちなさい。ヒトを無暗に殺して食ったらダメだと言ってるでしょ、アレはね 俺にとっての大事な未来への投資なの。絶やしたら承知しないよ」
「ッチ 兄上はあの有象無象どもに何を期待している。知性も質も、その在り様もなにもかも鬼よりも遥かに劣る下等種族だ」
弟が吼える。牙がむき出しになっており、今にも噛みついてきそうだ。
「それを決めるのは俺、お前じゃないよ ノンちゃん」
「忌々しい名で呼ぶな、俺は名を改めた。 いまはスクナだ」
「やだかわいくなぁーい」
「兄上もいつまで幼名でいるつもりだ。 下界の術師どもは、兄上を酒道楽の大江山の鬼頭“シュテン”と呼んでいたぞ」
「へー」
シュテン童子、…ウン。悪くない、カシワギも聞いたことのある仮想妖怪の名だ。
「じゃあ、シュテンでいいや。字はなんて、シュは酒かな 俺っぽいし」
「それならば朱だろう、耳飾りの色だ」
「あ、それもいいね。ならばテンは… 天(いただき)かな、」
朱天、…良いね。まあ、酒呑でも気が抜けそうな字面がかわいいけど。
「よもや弟が名付けになるとは。 俺の腹に収まるはずだった嬰児が大きくでたものだ」
「…情をかけたこと、後悔させてくれるわ」
「ひわが良くしゃべる」
その後、ちょっと兄弟ケンカがヒートアップしちゃって山3つほどクレーターになったし、新しい運河できちゃったけどしょうがないね。自らを「宿儺」と名付けた弟、彼なりの親離れなのだろう。名とは何よりも自我を固定する言霊でもある。
俺(親)である俺に縛られていた名を捨て、己で自我を再定義した。
俺ではなく、己こそを王と据えた。
_______他の鬼と、違う。
(…まあ、だから弟にしたんだけど)
美味しk…じゃなかった、元気に育ってくれて兄冥利につきるというものだ。
突然だが宿儺が家出した。
マア、それは良いのだ。彼も年頃だしね、何かにつけて「ノンちゃん」「ノンちゃん」と揶揄った俺も悪い。
「探しにいこうか?」
「いらん、その内帰ってくるだろ。なに多感な年ごろにはよくあることさ」
背もたれ代わりのクマが、腹を掻きながら言う。口にしていることは立派だが、その大岩ほどある体躯はまったく動く気配さえ見せない。黒い爪でガリガリと腹を掻きながら欠伸までする始末だが、この羆…じゃなかった。この鬼、この大江山では俺の次点にあたる。(宿儺の勝率は2割といったところ)
「人を食い過ぎないか心配だよ、まったく」
「宿儺ばかり責めてやるな、変なのは鬼のくせに人を喰わないお前のほう。それに最近、妙に術師の動きが活発だからなあ、」
「お前が目をかけるほどの奴らがいるのか」
クマは古い付き合いの鬼だった。生まれて間もない俺が、始めて目にした同胞でもある。
大江山を棲家にする以前、出雲国辺りをふらついていた時からだと数えれば百月は超えるか。暇さえあれば相撲をとって、その背に乗って大声で歌っていた行脚していたことが懐かしい。
「ここんとこ“臭う”のは加茂。 それと禪院、安部だな」
「カモ… 鴨?」
「ちがう、加茂。鳥辺野の近くに住み着いている陰気な術師どもだよ」
「あー… 思い出してきた」
頭を掻いて記憶を呼び起こす。確か、キンから聞いた。
金童子…あれは、好奇心旺盛な鬼で、奇天烈なことをする呪術師に興味を持っていた。それが最近面白い奴らにあったと、話してくれたことがある。鳥辺野に続く鴨川の近くに、面白い術師が住んでいると。
何やら持ち運ぶのが面倒で鴨川に捨てられた死体を集めている好事家なのだとか。死体は喰うでもバラすでもなく“血だけ抜いて”、何事かに使えないかと頭をひねっているらしい。ケラケラ笑いながら、知恵を貸すのも悪くないと言っていたが。よもや、…いや、考え過ぎか。
「ゼンインは知らん」
「伊勢国の奴ら、鎮守府将軍の子飼い術師だ。奇妙な体術や武器を使う」
「ホー」
「安部は流石に知ってるだろ、セイメイだよ。お前に何かと陰険つけてくるイヤアなやつ!」
「あいつはバグみたいなもんだろ、気にすることはない 当世限りの特注品だ」
安部清明、流石にその名には覚えがある。
王朝筆頭術師、当世最強の陰陽師だ。見たことはないが、何度か遠見で俺のことを覘いてきた。ここの所、王朝で俺のことを吹聴して回っているだとか。
「知ってるか、アイツな最近奇妙な弟子を連れてる。そいつがまた厄介なネタだ」
「弟子ィ? セーメイに弟子なんて意味がない、天狐の術式は生得術式だ」
「後継って訳じゃないみたいだ、…ありゃあ、なんというかなあ」
「話が見えない」
「興味あるなら見に行ってこい、その方が話が早いぞ」
「ヒトの見分けなんぞつかん」
「解るさ、銀髪の男だ。目に呪い塗れの黒符布を巻いててな、俺達(オニ)みたいにデカい」
「そりゃヒトじゃねぇ、鬼だ。セーメイはヒトじゃ堪らんから、鬼の弟子とったんだ。 ハハハ、傑作だな!」
安部清明の扱う生得術式はかなりのレアものだ。人間が扱うには過ぎた代物であり、事実その血を継ぐ嫡子でさえ拒まれた。その安部清明がとった鬼の弟子擬き…ソレは見てみたいかもしれない!どうしようかと考えていると、クマが付け加える。
「奇妙な術だったなあ…なんかな、引き寄せたり、弾いたりするんだ。呪力量で言えば都一だろう、まあ扱いは下手くそだが。強い呪力を制御できず、そこら中穴ぼこだらけにしてた。まるで昔のお前みたいだ」
「おう ケンカなら買うぞ」
「よせ 俺あ、まだ死にたくない」
足で小突くも厚い肉に拒まれる。無論本気ではないが、クマはまるで致命傷を負ったようにイテテと器用に横腹抱えて起き上がった。
「あんまりな在り様でな、俺も最初は鬼かと思ったよ。でも違うみたいだ」
「なにか確信でも?」
「かわいいこったよ、ありゃ愛に餓えた人の子だ。 いまは身分違いの恋溺れて、なあんにも見えちゃいない」
「え、やだ キュンキュンしちゃう」
俺そういうの大好き。うずうずしながらクマに続きを促せば、秘密事を囁くように教えてくれた。
なにせその男、よりによって菅原筋の姫の恋慕中だとか。
始まりは安倍晴明に届けられた依頼で、姫の呪いを払うために訪れた。この姫が大層愛らしい娘で、呪いも彼女に執着した男のものらしい。それを跳ね除けるためにしばらく通っていたが、いつしか姫の優しさに依存し自らが最悪の呪いに成り果てようとしているとか。うわー、俺そういうの大好き!
「でもまあ、あのセーメイが後ろに付いてるんだろ。食えない野郎だからな、うまく弟子と姫さんくっつけてやるんじゃないか」
「どうだかなあ、菅原氏はいま筆頭が出世しまくって妬まれている。あの魑魅魍魎の魔窟で嫉みを買わない方が難しいだろうか、だとしても、身内に術師が入るは色々ともの助かりだと思うぞ… 元々は戦孤児らしい、」
「セーメイが保証人だ、チャラだよ」
「相手の姫さんの気持ちはどうなる」
「そこ! そこがポイント、いやあどうなんだろう。酒もって聞きに行ってこようかな、ぶっちゃけどうおもってん? なんてね」
「若いねぇ 俺はもう歳だよ」
「大してかわんねぇくせに年寄りぶってんじゃねぇよ 俺がサバ呼んでるみてぇじゃねぇか」
気が済んだのか、与太話だけを置いてクマは山を下るという。クマの興味は治世に向いているようで、しばらくは伊勢国の術師の匂いを嗅ぐらしい。
「あ。 なあクマ、そのセーメイの弟子…何ていうの?」
「五条」
_________その言葉に、俺は漸く引っ掛かりを覚える。
この世界を紐解く答えを見つけてしまったような、えも言えぬ高揚。背徳。…焦燥。聞き及んだ言葉が、尋常ならざる速度で紐づいていくのを感じる。すべてがつながる、すべてが意味のあることだった、何一つ無駄なことなどなかった。
未来が、見えた。
「…………………………………………………ア」
これ、呪術廻戦だ。
