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愛猫が自分よりドフラミンゴの方に懐いている件について


※ドフラミンゴ救済ルート設定
本編シリーズ纏まったら、諸々修正する可能性があります





「セレスティーナ」

ちらりと、カーテンの裏側を覗いてもカ彼女の姿はない。
そうして、ついぞ心当たりがなくなってしまい、わたしはどうしたものかと頭を捻る。そうして唸っている姿を見かねたのか、「姐さま」と通りがかった少女がドレスの裾を引いてくれる。

「シュガーちゃん」
「あの子なら、パパのところよ」

______パパ、PaPa…
飛び出してきたワードに、一瞬思考が霧散してしまった。ああ、あの人のところか。と、思いついた頃には彼女の姿はなく、その代わりというように淡いグレープの残り香がした。囁かれた目撃証言をもとに彼の執務室に向かうと、シダ木の扉の錠がひとりでに墜ちる。どうやら部屋の主は、わたしの訪れを予感していたようだ、

「どうした」

ちらりと隙間から部屋の中を覗くと___探していたレディが、彼の指に喉元を擽られ悩ましい声で鳴いているのを見つける。

「セレスティーナ」

呼びかかけても、彼女はこちらをチラリとも見ない。ブルーサファイアを思わせる瞳には、目の前の愛おしい男しか映っていないようだ。テーブルの上に白い足を滑らせて、艶やかな体躯を惜しみなく彼の前に晒す。まるで彼との特別な関係を見せつけるように一際甘い声を震わせる様子に、言葉もない。

「フッフッフ、俺の方が良いだと」
「それは、あなたが甘やかしてくれるからでしょう」
「ママが厳しすぎるのさ、なァ?」

彼の言葉に同意するように、セレスティーナがニャアと鳴く。
____まるで雲を梳いたような白く美しい毛並みを持つネコは、空島という特別な場所に生息する生き物だと。そう彼に教えてもらった時、彼女は掌よりも小さくて。そのやわい体を、冷たい鉄の檻の中で丸めて可哀そうなほどに身を震わせていた。

「気に入ったのなら飼え」「ペットを欲しがっていただろう」

仕事の帰りがけに沈めた船の中で、金銀財宝と共に保管されていたという。それ目的に密漁されたか、流されてきたのかは知れないが、その子の境遇に同情する間もなく続いた言葉にはぐうの音もでなかった。闇市場に流される前に彼の目に留まったことが、彼女にとって不幸中の幸いと言い切れないのが現実だ。

ちなみに、飼わない場合はどうするのかと聞けば、これ当然といった様子で「宝石と一緒に売り飛ばすが」と言われた。この世には珍獣好きの好事家もいれば、希少生物は難病に効くと賢しらに語る敬虔な王侯貴族も五万といる。買手には困らないだろうと付け加える彼の手から、わたしは静かにそっと鉄の檻を奪った。

その瞬間から、その子はわたしのペットになった。
「セレスティーナ」と名付けた小さな雲ネコもいまではすっかり大きくなり、ドンキホーテファミリーが拠点している廃城を我が物顔で歩いている。子猫の時の姿を思えばこそ、長い尾を揺らして自由に過ごす彼女の姿には一種の慰みさえ感じる。…だが聊か、猫にしては威張り過ぎてはいないだろうか。

だがその御大層な様子には、もちろん理由がある。
その理由は、彼女の首に揺れているチョーカーを見れば、一目で察しが付くだろう。何しろ、ファミリーのボス自らが発注し、彼女に贈った特別なチョーカーだ。ファミリーのシンボルとも言える海賊旗が刻印されたそれは、彼女が彼…ドンキホーテ・ドフラミンゴの寵愛を受けている証でもあった。

「お仕事の邪魔になるでしょう、さあ帰りましょう」
「なに、これくらいはどうということはない。簡単な“おつかい”もできない無能連中を相手にするより、よほど有意義だろう」
「またそうやって」
「フフフッ、なんだ羨ましいのか」
「おいで、セレスティ〜ナ」

彼の冗談を聞き流して、愛おしい我が子へと手を伸ばす。しかし彼女はするり、わたしの手を抜けて彼の膝に飛び移ってしまった。そうしてまたお昼寝の体勢に戻ろうとする可愛いセレスティーナ…ここで諦めるほど、お前のママは甘くないゾ。

勝利を確実なものとするため執務机を回り込めば、彼が膝をわたしの方へ向けてくれる。どうぞ、とジェスチャーする様子は余裕たっぷりで、できるものならという言葉が隠れているのが透けて見えた。

「セレ、」
するん
「ほら、いい加減に」
するりん
「…」
するん、

右へ左へ、彼の大きな膝を移動してこれまた器用に逃げること。攻防の回数が片手の指を超えると、頭上からクツクツと声が聞こえてくる。人間キャットタワー扱いされているというのに、彼は気にした様子もなく楽しそうに天井を仰いで肩を震わせていた。

「ミフィ、捕まえて」
「フッ、ママは諦めが早いなァ」
「…待って、なんであなたが捕まえるとそんなに大人しいの」
「それはパパのことを愛しているからさ、分かり切ったことだ」

セレスティーナの小さな額にキスをして、彼が愛猫を受け渡してくれる。大きな体を落とさないように抱けば、漸く諦めたのかセレスティーナは長い尾を揺らしてわたしの胸に体を預けた。その頭を彼の指が掻くように撫でると、ブルーの瞳が心地よさそうに微睡んだ。

「眠そうだな」
「ええ」
「寝室に連れて行ってやれ」
「わかった」
「シノ」
「なに」

セレスティーナの頭を撫でていた指が、今度はわたしの頬をなぞる。
輪郭を確かめるように辿るのがくすぐったい、視界の隅で彼がイスから僅かに身を乗り出すのが見えた。ステンドグラスの窓から落ちる陽光が彼に遮られて、わたしの影が呑み込まれていく。触れる指先が望む通りに瞼を閉じれば、カサついた親指が唇をなぞって___彼がキスを落としてくれる。

一度二度と確かめるよう触れて、三度目は終わりの寂しさを埋めあうように深く。彼の舌先が閉じた唇を突くから、そのしっとりとした誘惑に負けず唇を固く結ぶ。まだ陽が高く、やるべきことは山積みなのだ。そのわたしの頑な様子に薄く笑って、彼の温もりが離れていく。

零れたわたしの髪を耳にかけてくれた指が、イタズラに耳のふくらみを摘んで「続きは、ディナーの後で」と。吐息と共に囁かれたのは、妖精の言葉だろうか。彼の熱が残る唇は甘く、苦い言の葉を紡ぐのは難しくて。わたしはせめてもと、返事の代わりに大きな掌へと頬を寄せた。

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