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逃げる恋人と逃がすつもりのないダンデ(後編)


※金太郎アメになったので没



「ダンデさん、こっちも決めポーズお願いします」

「次のエキシビションマッチ、どのような戦法をお考えですか」

「彼が立てる戦術は理論的で、時に大人顔負けの…まあ実際に何人もの優秀なトレーナーが敗北しているわけですが、わたしに言わせればまだまだわきが甘い___」

「ダンデっ サインちょうだい」「次のバトルも勝ってね」「リザードンの人形かってもらったんだ、ガオオー!」「あはは」

「どうして___お前みたいな、ガキが____」

「ッ いつまでも王様でいられると思うんじゃねぇぞ、次は絶対にお前を俺様の前に跪かせてやるぜ__ダンデ!」

「確かに、近年のマクロコスモス社の動向には不穏な影があり。有識者は、彼らがガラルの地に与える悪影響について日夜議論を」「___コス社の一斉解雇に、元従業員たちは非難の声をあげ本社の前抗議を___」

「ごめんダンデくん、…暫く、ひとりにして」

「ダンデ、お前なら社長に会えるだろう。なら伝えてくれ、この仕事を無くしたら俺たちはどうすればいい」「家族がいるんだ、君よりも小さな子だ」「どうやって生きて行けばいい」

「いいかい、ダンデ。それはアンタが気にすることじゃないよ、アンタの責任でもない。まったく良い大人が揃いも揃って、こんな子どもに相手に八つ当たりなんて」

「ダイマックスがポケモンたちに与える影響は凄まじく、莫大的な強化はその反面、彼らの寿命を前借しているようなものだと」

「次の勝負に勝てば、あの『絶壁の鎧』と言われたマスタードさんの無敗記録を更新しますね。相手は前チャンピオンのピオニーさんを苦戦させたトレーナーで、ダンデくんとはだいぶ歳が離れているけれどそんな大人を相手にするのはどんな気持ち?」

「ダンデ、そんな急いで食べる必要ないのよ。家でくらいゆっくりしても、バチはあたらないわ」

「大体ずりぃよな、アイツ。だってリザードンとか、ガラルにいないポケモンをつかってさ。弱点なんか解らないし、そんなのチャンピオンになって当然じゃん」

「近代科学や生物は及第点、ですがまだ笑顔が固いね。お客さんの前ではもっと眩い笑顔で、けれど近しくなれと言っている訳ではありません。君はガラルの象徴になる、ポケモンにはポケモンの、人間には人間の生きる世界が必要なように____王様には、玉座こそが相応しい」


「アニキ、オレいつか兄貴みたいなすっごいつえトレーナーになるんだぞ!」
「メェエ!」











(______つか、 れ た)

突然、足が動かなくなった。
道の端っこで、突然足を止めた俺をリザードンが不思議そうに見つめる。いつもなら「大丈夫だ」「なんでもない」とすぐ返せるはずなのに、喉が張り付いて言葉が出ない。

頭の中をぐるぐるぐるぐる回っていたものが、何もなくなった。音が聞こえない。世界は見えるのに、俺の目の前は“まっくらになる”。リザードンが近づいてくる、抱えていたはずの荷物が落ちる、何も考えられない、星がきれいだ、何をしていたんだっけ、ああそうだ、ホテルに帰って、それで、あしたは、あさって、しあさって、らいねん、じゅうねんご、あと______どれくらい、


(つかれた、)
____楽に、なりたい


真っ黒な世界で願った。すると、世界に一筋の光が流れた_____まるで彗星のように瞬いて、夜空を翔けていく。

マグノリア博士の話を思い出した。遠い地方では、願い星はポケモンだと言われているとか。そのポケモンは千年の内に七日間しか目を覚まさず、眠りから覚めると出会った者の願いをなんでも一つだけ叶えてくれるという。

(ねがい、)

ダイマックスバンドが熱を放つ。組み込まれたねがいぼしが脈動し、それが俺の鼓動とひとつになっていく。とくんとくん、耳元で聞こえるほどに鼓動の音が大きくなっていく。視界が収縮し、俺の世界がたった一筋…宇宙を駆ける星屑に、奪われた。



「            、」 
理解するよりも先に、口からこぼれたいくつかの音は、あの星まで届いただろうか。












「イタッ」
__________いや、届いたのだろう。



何時からそこにいたのか、小さなうめき声に。俺の世界が戻ってくる。ばくんと心臓が跳ねた、呼吸が弾けて、どっと汗が噴き出る。よろける俺の身体をリザードンが受け止めてくれる、その手を借りてなんとか震える足を叱咤しながら…俺は目の前の光景に見入った。



陰りの中、街の灯りに僅かに照らされた髪は明るい色をしている。小さな背丈、俺と同じくらいだろうか。頭に何かぶつけたようで、地面に座り込んで何かを探っている。やがて指先がそれを見つけて、摘まみ上げては不思議そうに首を傾げた。____そうして、俺を見る。


星屑の光を宿した少女の瞳には、今にも泣き出しそうな顔をした少年が写り込む。

その日、確かに流れ星は俺の願いを叶えてくれた。流れ星と一緒に生まれた少女は、この世界がたったひとつ俺のために生んでくれた奇跡だった。








(_____運命、だと)
確信している。

掌でケースを転がしながら、ダンデはゴンドラの窓からガラルの街を見下ろした。すっかり日が落ちて、オレンジ色の光がぽつぽつと灯る街は美しかった。10歳で家を出て、それからは元リーグ委員長のおひざ元であるシュートシティがダンデのホームとなった。単純に数えれば故郷よりも過ごした時間は長いが、
ハロンタウンよりも知らない場所が多いというのはある種の皮肉だろう。

___『ダンデさん、もうすぐ着きますからね』
「ああ、ありがとう」

親指でケースをなぞると、ベルベットの短い毛が指の腹を擽る。最近何時もこんなことをしている所為で、少し剥げてしまったような気がする。誤魔化すように掌で撫でつけて、手提げかばんに戻す。

研究所を出てから随分と時間が経ってしまった。あの後、マクロコスモス社から急な呼び出しを受けた。ローズ元委員長から、リーグ案件のみはダンデが引き継いだ。それ以外の企業業務に関してはオリーブが適切な人員に割り振ったと言っていたが、トップを失った軍隊がそれだけで真面に機能するはずもない。

しかもそれだけの采配を行えるオリーブが、長期休暇を取り社会奉仕の名目で鉱山に籠ってしまった。明確な標を失った彼らは、代打を求めた。そしてその役には当然のように、ダンデが選ばれた。

(あの人も、本当に食えない女性だな)

オリーブが権限与えた人員の殆どが、なんらかの形でダンデと仕事をしたことのある人間だった。それも極めて優秀な部類で、最終判断の意見を利かせて欲しいと渡された資料の殆どは、決判を残すだけの完成された事案ばかりだった。聞けば、そのあたりの運用ルートも、権限譲渡と同時にオリーブに指示されていたとか。…つまりあの人は、本当に最後の最後までダンデを掌の上で転がしてくれたということだ。

「いつもすまない、助かるよ」
「いえ、お安い御用で。それじゃあ、楽しい夜を」

人の少ない路地にゴンドラを止めてくれたドライバーは、慣れた様子で挨拶してガラルの夜に飛びだっていく。その様子を見送ってから、ダンデはキャップを深くかぶり直してそっとフラットの玄関に回った。

シノが暮らしているフラットは、シュートシティの外れにある。ダンデが普段生活しているホテルに比べると、ニャースの額ほどしかないこじんまりした部屋だが、日当たりが良く、朝一番に窓を開けると心地良い風が通る気持ちの良い場所だ。

共有玄関を抜けて、鉢合わせしないようにエレベーターではなく階段で昇る。シノの部屋についたのでベルを鳴らしてみたが反応がない、不思議に思いながら合鍵を差し込んだ。

「シノ?」

部屋は暗かった。なんだろう、酷く嫌な予感がした。電気スイッチを指で押し上げ、慎重に扉を閉めた。神経が研ぎ澄まされているのがわかる、気付けは足音を殺していた。まるでポケモンの森に迷い込んだようにダンデは存在を殺して、部屋に残る気配を探った。

(リビング___いない、寝室も。押し入られた形跡はない、…出かけたのか?)

テーブルにカバンを置くと、いつもシノのパートナーたちのボールが眠っているバスケットも空だ。シノは少し先のショップに出かけてる時も、決してボールを置いて行かない。

(…なんだ、気持ち悪い)
胃がぐるぐるとして、無性に叫びだしたい衝動が背筋を掻く。

口元を掌で覆って、深く呼吸をする。思考は冷静なのに、酷く落ち着かない。なぜだろう、理由を知りたいのに、無意識に捉えている違和感の正体がわからない。

(“見逃してる” なんだ、俺は何のサインを、見落としている____?)

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